初夢2

※普段の作風と違うお話です。

 普段通りコメディです。




気が付くとそこは大空だった。

しかし自分の身体に翼が生えている訳でもなければ、超能力に目覚めた記憶はない。

更に周囲を見渡すと私の身体が鳥に捕まれているではないか!


「はっ!この鋭い目つき!大きな身体!どこからどう見ても鷹!状況的にこれは初夢!つまり富士山と茄子を見つければ縁起が良い!探さなくては!」


なんだか前にも似たような夢を見たような気がしない事もないけれど、それはともかく他の縁起物を探さなくては!


「隼です。」


上から何か聞こえて来た気がするが、気のせいだろう。

そもそもオウム以外の鳥類が喋る訳がない。


「ファルコです。」


きっとテンションが上がって幻聴が聞こえているんだろう。

そうに違いない。


「チョウゲンボウです。」


しかし空を飛んでいる以上、自分で行先は決められない。

周囲に目を凝らし、探すとしよう。

そう思い、しばらく空の旅を楽しんでいるとそこには、


「山らしきものが見えた!あれはきっと富士山だ!早くも2つ目の縁起物を見つけたぞ!」


降りしきる雪、ごつごつとした岩肌、この雄大さ。どこからどう見ても富士山だろう。

縁起物の3分の2を見つけ、早くもこの旅は終わりへと近づいてきたな。

しかし茄子か。そのサイズの物を上空から見つけるのは中々に難しいぞ。

そんな事を考えていると鷹が高度を下げ、徐々に山頂へと近づいてきた。


「ようこそ富士。」


山頂に降り立つとなんだか富士山も歓迎してくれているような気がする。

流石は日本一の山。観光客の出迎えには手慣れたものか。


「ふっ、待ってたぜ。」


歓迎ムードの山頂で誰かに声を掛けられた。

この流れは!

そう思い振り向くとそこには


「そう、この俺こそが那須だ。」


茄子だった!

でもなんだか見た目的に人間だし、茄子の発音と言うか、イントネーションが違かったような気がするな。

でも頭部は黒くて茄子のヘタみたいな髪型してるし、全体的に紫っぽい格好してるからやっぱり茄子なのかも知れない。


「どうした?さっきからジロジロと俺を見てきて。何を考えてるかは知らねぇが、誰が何と言おうと俺は正真正銘、唯一無二の那須だぜ。」


本人も自信満々に言い切ってるし、茄子で間違いないな!

一富士二鷹三茄子!よし!これで縁起物をコンプリートだ!

これでこの初夢も終わりか。

長いようで短い、過ぎてみればあっという間の旅だったな。

しかしそうは問屋が卸さない。

富士山の山頂にいたのは自分たちだけではなかった。


「待てぃ!」


そこには、


「我ら裏縁起物三人衆!扇!」

「煙草!」


裏縁起物三人衆を自称する2人がいた。

何か前にもどこかで見たような気がするが、それは置いておくとして


「お前ら………!いつもいつも因縁つけて来やがって!」

「ふん!貴様らがいるから我々は影が薄いのだ!いい加減消えてもらうぞ!」


何やら茄子が抗議している。

しかし私の注目しているポイントはそこではない。


「三人衆って言ってるのに1人足りないのでは?」


そう、人数が少ない。三人衆なのに2人しかいないなら三人衆は名乗れない。

それを問うと扇と煙草は気まずそうに目を逸らす。


「もう1人は、座頭は………仕事で来れないんだ………。」

「………なんかゴメン。」

「………頑張れ、とは言わねぇよ。あいつは今も頑張ってるだろうからな。だから仕事が終わって帰ってきたら優しくしてやれ。」

「貴様に言われるまでもないわ………。」


不在の1人は元日から仕事と言う悲しい現実にさっきまで噛みついていた茄子も大人しくなり、労わりの言葉を送る。

マズい事を聞いてしまった。空気が重い。


「とにかく!今日という今日こそ、お前らをぶっ飛ばしてやるぜ!」

「ふん!それは此方の台詞だ!行くぞ、煙草!」

「煙草!」


そんな空気を茄子が強引に変えに行き、それに扇が乗っかる。

重々しかった空気は一転、一触即発のピリピリとした空気に変わる。


「あ、ここは禁煙で富士。さよなら富士。」

「煙草ぉ!?た、煙草!?」

「ま、待て!煙草を連れて行かないでくれ!あいつはまだ火のついていない、これからの奴だったんだ!」


しかしそこに富士山の奇襲が炸裂。

天から現れた巨大な手によって煙草は掴まれ、クレーンゲームの様に火口まで連れて行かれ、落とされる。

煙草は混乱しながら叫び、失墜していく。

扇は縋るように手を伸ばすが、その手が届くことは無かった。


「今だ!隙あり!与一流奥義『屋島一射』!この技はかつて那須与一が屋島に置いて波で揺れる船上の扇を射抜いた一射の再現だ!扇には耐えきれねぇに決まってるぜ!」


そこに更に追い打ちをかける茄子。

確実に扇を倒すべく、何処からともなく弓を取り出し、必殺の一撃を繰り出す。

これで扇の命運も尽きた


「ふっ、甘いぞ!我が先祖を射抜いた技、対策していないはずが無かろう!」

「何!?そんな馬鹿な!?」

「先祖は身体を開いていたが為に射抜かれた。ならば身体を閉じていれば貫かれることは無い!今度は此方の番だ!奥義『お殿様召喚』!」

「よきに計らえ。」


かに思われた。

しかし扇は茄子の必殺技を耐え、反撃に出た。

というかお殿様を出した。


「ふっ、扇と言えばお殿様。お殿様と言えば権力者。貴様らではお殿様に歯向かう事は出来まい!さぁ!お殿様!この不敬者たちを処罰するのです!」

「惣無事令を布く。無益な争いを止めよ。」

「お殿様!?」


しかし召喚されたお殿様は争いを禁じ、扇はうろたえる。

ここでお殿様に質問をしてみよう。


「お殿様、一富士二鷹三茄子って言いますけど、その後に続く扇って必要だと思いますか?」

「ぶっちゃけ要らないんじゃね?」

「お殿様ぁ!?」


お殿様がぶっちゃけた。

自分で召喚したお殿様に否定されたせいか、扇が足元からスゥーっと消えていく。


「悪は去った、か。また厄介事に巻き込まれたら、この那須を呼んでも良いぜ。」


扇が消えたことで茄子も下山していった。


「うむ。一件落着。どれ鷹狩と洒落込むかの。」

「隼です。」


お殿様は鷹と一緒にどこかへと去っていった。


「もう間もなく日が暮れる富士。本日の営業は終了する富士。」


富士山は仕事を終え、消えていった。

結果。


「落下してるんだけど。」


足場が消え、虚空に放り出されて落下する事になった。

しかし落ちれど落ちれど地面に衝突しない。

衝突したくないけど、いつまで経っても落下したままだ。


やがて考えるのを止めた。






「はっ!夢か。………あれ?どんな夢を見てたんだったか。……まぁいいか!」


カーテンの隙間から射す日で目を覚ますと、夢は形を失っていた。

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