ハンドサイン

「ハンドサインってカッコいいと思わないか?」

「分かるぜ。」

「そうですね。いつか活用してみたいですよね。」


竹塚と丹野と雑談中、最近思った事を話題として提供する。


「手話の練習でもしたら良いんじゃないですか?」

「手話って言うと急に現実に引き戻されるぞ。カッコよさが激減した気がする。」

「そもそも安達の頭じゃ手話なんて覚えられる訳が無いぜ。」

「丹野に言われたくはないぞ。三歩歩いたら記憶が飛ぶくせに。」

「そこまで馬鹿じゃねぇよ!」


手話って言われてテンションが下がる。

表現って大事だな。

あと丹野。お前にだけは頭の出来は馬鹿にされたくは無いぞ。


「既存の物を覚えようとするからダメなのかもしれませんね。」

「と言うと?」

「自分たちで考えて決めた手話、もといハンドサインなら覚えられるんじゃないですか?」

「竹塚…………。」


竹塚が覚える事が出来ないなら、と代案を出す。

記憶力に問題がある丹野がそれくらいで覚えられたら苦労はしないと思うぞ。

けど、


「天才か?オリジナルハンドサイン!カッコいいじゃないか!丹野が覚えられるとは思わないけど。」

「良いと思うぜ!オリジナルハンドサイン!安達が覚えられるとは思えねぇけど。」

「「は!?なんだと!?」」


オリジナルってなんか特別感あるし、仲間内だけで通じるサインってなんか良い。

でも丹野、自分の記憶力を棚に上げて私の記憶力を馬鹿にするとは、なんて奴だ。


「じゃあこういうのはどうですか?」

「ん?なんだ、そのハンドサイン。」


竹塚は私と丹野を指差し、次に自分の頭を指差した後に手を握っては開いてを繰り返している。


「『安達と丹野の頭がパー』って事です。」

「おい!誰の頭がパーだよ!」

「私が求めていたオリジナルハンドサインはそんな悪意溢れるものじゃないんだけど!」


謎のハンドサインの意味を聞いてみると碌でもない答えが返って来た。

この一瞬でそんな悪意の塊みたいなハンドサインを考えるんじゃない。

誰だ竹塚に良くも悪くも天才的な頭脳を与えた奴は。

いや、問題があるのは天才的な頭脳よりも人間性だろうけど。


「もっとこう、相手を馬鹿にするんじゃなくて仲間と連携を取ってる感を出せるハンドサインを考えようぜ。」

「そうだぞ。と言うかハンドサインで馬鹿にされると陰湿さが凄まじい気がする。」

「実際やってて自分でも陰湿だなって思いました。これは封印ですね。」


仲間と連携取ってる感のあるハンドサイン………。

いざ考えてみると難しいな。


「でしたら、これはどうですか?」


すると竹塚は左手の人差し指を縦に立て、右手の人差し指を伸ばして第二間接辺りを左手の人差し指の先に当てる。形的に『T』に見える。

その後、構えを解いて親指で自分の背後を指差す。


「なんだ、それ?」

「たぶん『T』ってやりたかったんだよな?」

「はい。察しが良いですね、安達。その通りです。」

「『T』………。田中?」

「違います。なんで田中なんですか。と言うか田中で何を表現したいんですか。」

「親指でクイってやってるのは『こっちにいる』とか、そういう意味だと思ったぜ。つまり『田中がこっちにいる』ってハンドサインだ!」

「そうだったのか!やるじゃないか丹野!」


これは予想できなかった。

丹野の事を少し見直したぞ。


「違います。発想は良いですが違います。」


やっぱり丹野は丹野だったか。

見直さなかったぞ。


「しかし親指で指し示したのは『こっちから来る』と表したかったので50点と言ったところですね。」

「竹塚から50点も貰っちゃったぜ!」

「それなら『T』はなんだ?トリケラトプスとか?」

「実際にトリケラトプス見つけたらそれが正解で良いですよ。」

「つまり違うって事だな。」


えぇ………。竹塚の事だからトリケラトプスみたいに突拍子もない奴が正解かと思ったんだが………。


「ヒント!ヒントが欲しいぞ!」

「ヒントですか………。そうですね。英語の頭文字です。僕達にとっては実用性の高いハンドサインになると思いますよ。」


英語、だと………!?


「分かる訳がないじゃないか………。」

「そうだぜ。『T』で始まる英単語なんて何個あると思ってんだよ。」

「実用性が高いって部分も参考にしてくださいね。」


実用性……実用性……………。


「トイレとか?」

「初めて行った土地とかなら実用性高めですね。違います。今からでも使えますよ。」

「田代?」

「実用性はどこに行ったんですか。違います。と言うか人物名からいったん離れて下さい。まぁ人間を対象としている事に間違いはないですけど。」

「人間が対象?」

「このままクイズを続けても2人の知識量だと永遠に答えが出てこないと思うので答えを言っちゃいますね。答えは…………。」


私たちが正解に掠りもしなかったから竹塚が呆れて答えを教えてくれる。

ゴクリ………。


「『Teacher』。つまりは先生ですね。さっきのハンドサインは『先生がこっちから来る』の意味だったんです。」

「なるほど!つまりヤバそうな時に早く逃げ出せるって事か!」

「流石だぜ、竹塚!」


いつもは遊んでいると何故か怒られたり、職員室に呼び出されたりするけど、このハンドサインで連携を取れば危機回避が出来るかもしれない。




「そう言えば、どうして唐突にハンドサインの話なんて始めたんですか?」

「この前見た映画で特殊部隊がハンドサインで連携と取りながら進んで行くシーンがあってさ。特殊部隊ってだけでもロマンの塊だよな。」

「それならハンドサインだけで特殊部隊はカッコいいの対象に挙げなかったのは何でですか?」

「その特殊部隊は結局全滅してたから………。」

「でもハンドサインはカッコいいって言うんだな。」


ハンドサインに罪は無いから。

カッコいい物はカッコいいんだよ。

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