風紀委員長
とある日の屋上。
ゆっくりしようと思って訪れると、そこで………
「ふんっ!ふんっ!筋肉っ!筋肉っ!」
なんかヤバそうな奴を見つけてしまった。
見なかったことにしておこう。
そう思い、目を逸らそうとした瞬間、
「む?」
「あ。」
しまった。目が合った。気付かれた。
「おぉ、屋上で憩いに来たのですか。これはお見苦しい姿をお見せしましたな。」
「あ、いえ。大丈夫です。それじゃ。」
「誠に申し訳ない。皆の迷惑にならないように、なるべく人目に付かないところで筋トレに励んでいたのですが、もし不快だったのであれば、いくらでも非難を受け入れますぞ。」
「ほんとに大丈夫なんで。それじゃ。」
「いやいや、確かに初対面の相手に文句は言いづらいでしょうが、思うところがあるのであれば風紀委員長としていくらでも受け入れますぞ。」
「マジで大丈……風紀、委員長!?」
「そうですぞ。自分は
すぐさま回れ右で屋上を後にしようとするが声を掛けられ続ける。
正直、今すぐ開放してほしい。あと服を着ろ。なんで上半身裸なんだよ。
しかも風紀委員長だと?嘘だろ?風紀を乱す側にしか見えないんだけど。
驚きのあまり反応して振り向いてしまった。
「確かに自分ではまだまだ未熟で大役が過ぎるやも知れませんが、全身全霊を以って職責を果たしますぞ!」
「そう考えてるなら制服を着てくれ。」
「おっと、これは失敬。服装の乱れは心の乱れ。初歩的な事ですが大事な事ですからな。ご指摘、感謝しますぞ。」
半裸なのは服装の乱れで済ませて良い状態じゃないだろ。
「しかしようやく指摘してくれましたな。この調子でもっとオープンに叱って……いえ、怒って……いえ、ご指導いただけるとありがたいですぞ!」
「…………聞きたくないけど、一応聞くがなんで筋トレやってるんだ?」
「それはもちろん、筋肉に負荷をかけ、限界まで体力を使うのが気持ちが良いからですぞ!」
うん、最初の叱ってだの怒ってだのの部分は聞き間違えかと思って質問したが、聞かなきゃ良かった。
姉河はアレか。ドMって奴なのか。初めて見たよ。見ないでよかったよ。
いや、筋トレ好きの奴って案外そういう感覚が楽しいのかもしれない。
なんとかハイって言葉もあるし、決めつけるのは早いし、失礼だろう。
「それに何よりも限界を超えた後の、」
うん。やっぱりまともなのかも知れない。
成長とか、強い筋肉を育てるとか、より高みを目指すとか、そういうのだったら、まぁ理解出来なくもない。
「筋肉痛がたまりませんな!あの痛み!あの軋み!とても良い!やはり筋トレは良いですぞ!やっている時の疲労と終わった後の痛みで一挙両得というやつですな!」
訂正。やっぱり姉河はただのドMだった。
痛みが目的とかどう解釈してもM以外の答えが出ない。
「これが風紀委員長かよ………。長谷道と言い、実は委員長達ってまともな奴の方が少数派なんじゃ………。あいつもいっつも会長を怒らせて怒鳴られてるし。」
「つまり自分も彼の様に問題発言や問題行動をすれば鐘ヶ崎さんに怒鳴ってもらえるのですかな!?」
「いやそういう事を言いたいんじゃなくて………。」
「しかし風紀委員長として皆の模範となるべき自分が問題発言や問題行動をする訳には………。悩ましいですぞ!」
マジで、なんでこんな奴が風紀委員長をやってるんだろうか。
風紀委員長って言ったらもっと、こう、七三分けの髪型に四角いフレームのメガネをかけてビシッとした恰好をしてるイメージがあるんだけど。
こんな筋肉モリモリのドMが風紀委員長とか、イメージからかけ離れ過ぎだろ。
いやドMだから自分に厳しくする為に風紀委員長やってる可能性があるぞ。
こんな変人たちが各委員会の委員長とか、うちの学校は大丈夫なんだろうか。
「あぁ、長谷道くんが羨ましい!いつも鐘ヶ崎さんに怒鳴られてるのですから!彼に弟子入りすれば、もしかしたら………。」
「そこは、ほら、風紀委員長としての務めを果たす事を優先してほしいぞ。一生徒としては。」
「そうですな!怒鳴られることを我慢する。それもまた良いですな!アドバイス、痛み入りますぞ。」
「アドバイスした訳じゃないんだけど。なんだこいつ、無敵か?」
これ以上鐘ヶ崎のストレスの発生源が増えたら胃に穴が開くんじゃないだろうか。
と言うかあいつの変な人望は一体何なんだ。変人からの人望あり過ぎだろ。
そんな事を考えていると、張本人が屋上に訪れた。
「おや?安達2年生と姉河風紀委員長ではないか。姉河風紀委員長は今日も鍛錬に励んでいるようだな。関心関心。しかし無理はし過ぎるなよ。」
「鐘ヶ崎さん!お疲れ様です!自分は一切問題ありません!むしろまだ足りないくらいですぞ!」
「ははははは、ストイックなのだな、君は。」
鐘ヶ崎は姉河の筋トレをストイックと好意的に解釈しているが、中身はただのドMだぞ。
まぁ世の中知らない方が良い事もあるって事だな。
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