友達

「やぁ、安達くん。誕生日おめでとう。今日は私からプレゼントがあるんだ。」

「長谷道、いきなりどうした?別に今日は私の誕生日ではないぞ?」

「なに、今日、君は生まれ変わる。そういう意味では誕生日と言っても差し支えないだろう。」


いきなり目の前に現れた長谷道は意味の分からない事を言い始める。

意味が分からない事を言うのは今に始まった事ではないが、人の誕生日を捏造するのは止めてもらいたい。


「生まれ変わるだなんて大袈裟だな。一体どういう事だ?」

「焦らない焦らない。ほらこれをあげよう。」

「なんだこれ?」


カラフルな包み紙に覆われ、リボンを巻かれた、いかにも『プレゼント』と言った包装の箱を渡される。


「開けてみれば分かるさ。さぁ開けてごらん。」

「まぁそこまで言うなら………。」


長谷道に勧められ、とりあえずガサガサとプレゼントを開封する。

その中に入っていたのは………


「長谷道、竹塚辺りから変な入れ知恵をされなかったか?」

「いや、我が親友からは何も変な事は聞いていないさ。ただ君が悩みを抱えていると聞いてね。心の友たる君の悩みを解消できればと思って用意したんだ。」

「竹塚ぁ!」


カツラだった。

どんだけこの勘違い引っ張るんだよ。

私は音楽室の肖像画に描かれている音楽家を引き合いに出しただけなのに人の事をハゲ扱いしやがって。

と言うか竹塚は既に勘違い解消してるだろ。


「と言うか、誰が心の友だよ。」

「酷いなぁ。私と君の間柄ではないか。」

「百歩譲って友達ならまだギリギリ認めるけど、心の友は無い。それにそんな事言っておいて行動理由は思いやりじゃなくて思い付きだろ。」

「もちろん!」

「自信満々に答える事じゃない!」


自称心の友、自分の思い付きを最優先にしてるから自称なんだよ。

そもそも普段からそこまで絡みがある訳でもないし。


「しかし友達の定義なんて曖昧な物だ。だから私が親友や心の友と思えば、その時点で親友であり心の友なのさ!それに竹塚くんだって面白さを優先して行動する事は多々ある。私と何ら変わりがないのさ。故に竹塚くんと似通った思考を持つ私も君の親友という訳だ。」

「定義が曖昧とかはまだ分かるけど、最後はおかしいだろ。それに竹塚はお前と違って面倒見が良いぞ。」

「私も面倒見なら良いよ。」

「面倒ごとを起こすの間違いじゃないか?」

「無二の親友に対して辛辣だなぁ。」


なんで親友面してるのか説明してくれたが、まったく理解できない。

少なくとも自称無二の親友とやらの面倒見が良いと思う瞬間を見た覚えはない。


「安達の親友枠は譲りませんよ!」

「竹塚!?」


長谷道が馬鹿な事を言っていると教室のドアがガラリと開く。

そこには竹塚が立っていた。

まぁ竹塚になら親友を名乗られるのも悪くはない。

いきなり現れて驚いたが、いきなり心の友だの親友だのを自称してカツラを寄越してくる長谷道よりは驚かない。


「安達君、ここは『私の為に争わないで!』って言うシーンだよ。」

「私に拒否られても折れないメンタルは認めるけど親友とは認めないぞ。あと男に奪い合われたくはない。」

「我が親友、竹塚くん。安達くんが冷たい。私の心はボロボロさ。」

「おいおい、竹塚はさっき私の親友って言ってただろう。」

「僕の為に争わないで下さい!」

「前言撤回しようか悩む。」


長谷道のノリに乗ってセリフを言う竹塚。

満足げな表情をしているけど、別に奪い合うつもりとか無いから。

あと長谷道に関しては第一印象の悪さが原因だぞ。


「私は安達くんに何もしていないのに………。ただカツラをプレゼントしただけなのに………。」

「だって初対面の時点で尋常じゃないくらい変人ぶりを晒してたし。」

「確かに図書室で出会った時は力になれなかったかも知れないけど。」

「ん?図書室?生徒会室の間違いじゃないか?」

「あれ?そうだっけ?いやぁごめんごめん。他人の事を覚えるのは苦手なのさ。」

「まぁその時は長谷道が生徒会長に追い出されてて顔を合わせたのは一瞬だけど。逆に私はインパクトが強過ぎて記憶に残ってたぞ。」


と言うかその時の印象が強過ぎて私の中では長谷道=碌でもない変人ってイメージになってるんだけど。

今回のカツラの件でも更に印象悪くなってるけど。




「ん?と言うか、カツラに関しては原因は竹塚なのでは?」

「すみません。長谷道なら面白……じゃなくて良い解決策を用意してくれると思って。」

「今面白そうって言いそうになってたよな?バッチリ聞こえてるぞ。」

「そんなに信用してもらえていただなんて!私は嬉しいよ!竹塚くんの友情に恥じないアイデアを出さなくてはね。」

「勘違いって分かったんだからアイデアなんて必要ないだろ。あと信用されてるのは何かをやらかす人間性の部分だけだと思うぞ。」


こいつらが友達もなるのは必然だったんだと思う。

面白さを優先して行動する辺り、初対面でも意気投合して何かしらやらかしてそう。


「類は友を呼ぶ。友人想いの私たちが出会ったのは運命なのだよ。」

「変人同士が引かれあった訳か。ってそうじゃなくて竹塚!長谷道にカツラの話なんてしやがって………。」

「おっと、急用を思い出す予定がありました。それでは失礼。」

「待てぇ!逃げるな!」


「愉快な友人を持てて私は幸せ者だなぁ。」


何か長谷道がしみじみと言ってるが、今はそれより竹塚の捕獲が優先だ。

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