劇画調

ある日の放課後、教室にて。


「安達、安達。」

「ん、どうした?」

「はい、チーズ。」

「え?」


振り向くと、そこにはスマホを構えた竹塚がいた。

パシャ、と言う音と共に写真を撮られる。


「何いきなり写真撮ってるんだよ。」

「まぁまぁ、少し待ってて下さい。」

「一体何なんだ………。」


竹塚は撮影した写真を確認すると、私を他所にそのままスマホを弄り始める。

仕方がないので少し待つと、スマホの画面を見せてくる。


「どうですか?」

「どうですかって………。うわっ………。」


そこには撮影した写真を加工したもの。


「よく出来ているでしょう。」

「普通に怖いから。恐怖だから。」

「出来栄えが良過ぎてですか?」

「黒板に顔がギッチギチに詰め込まれてるからだよ!」


より正確に表現するのであれば私の顔を切り取って、背景に写っていた黒板一面に貼り付けられている。

撮った写真を加工して遊びたかったのは分かる。

背景に手を付けるだけだから比較的簡単であろう事も分かる。

何らかの物に顔を貼り付けて面白くしようとしたのも分かる。

しかしなんで私の顔を黒板に、しかも1つだけじゃなくて所狭しと何個も貼り付けてるんだよ。


「驚きの傑作だと思ったんですが。」

「驚きしかないから。」

「つまりは大成功って事ですね。」

「顔を他の物に貼り付けるのは百歩譲って良いとして、もう少しマシなものを作ってくれよ。」


竹塚は満足げだが、私は不満しかないぞ。

それを伝えると竹塚は再びスマホを弄り始め………


「仕方がありませんね。それなら安達の顔を加工して、はい。出来ました。」

「早っ!?」


さっきとは打って変わって数秒で完成した写真を見せてくる。

そこに写っていたのは………


「なんで劇画調?」

「これなら簡単に面白い物を作れるので。」

「いや、さっきよりはマシだけど………。」


何故数ある選択肢の中から劇画調を選択した。

まぁ少女漫画調とかアメコミ調にされてもリアクションに困るけど。

そんな話をしていると………


「安達くん!面白い薬が出来たんだ!飲んでくれたまえ!」

「青井!?」

「面白い物って何ですか?」

「それは飲んでみてのお楽しみさ。あ、このクリームを顔に塗ってからで頼むよ。」

「飲む前提なのかよ。ぶえっ………。」


私が呆れていると、青井がまるで肉料理の下拵えかの様に私の顔にクリームを塗り込んでくる。

話している最中に頬を触るんじゃない。

塗るなら塗るって言え。

そんな不満げな私を他所に、頬やおでこ、顎や鼻と言った顔面全体にクリームを塗り込む青井。

なんだかいつも以上にマイペースな気が………。


「と言うか青井、大丈夫か?なんだか顔色悪くないか?」

「その薬を最終治験で服用してみてね。その副作用で眠いんだ。と言う訳で安達くんに効果が出るまで、大体1時間くらいだね。寝てるから、効果が表れたら、起こして…………。」

「青井?青井ー?」

「寝てますね。」


青井は私に薬を渡した後、適当な机に座り、そのまま突っ伏して寝てしまった。

声を掛けても反応は無く、寝息を立てている。


「え、マジで飲まなきゃいけないの?」

「青井が待ってるんだから早く飲んであげて下さい。」

「待ってるって言うか寝てるんだけど。それに竹塚が飲めばいいじゃん。」

「僕は安達の顔に塗られたクリームを塗られていないので。ほら、早く早く。」


こいつ、他人事だからと楽しんでやがる………。

竹塚に急かされ、仕方がないので青井に渡された薬を飲む。






そして雑談をしながら1時間が経過した。


「安達、なんだか顔付きが変わりましたね。強敵との激闘でも繰り広げましたか?」

「おいおい、さっきからお前と話してただろ?まぁ竹塚が曲者的な意味では強敵と激闘したと言えない事もないか。」

「いえ、そういう事じゃないです。トイレで鏡を見て来て下さい。」

「なんなんだよ………。」


竹塚が私の顔について話し始めた。

鏡を見て来いって言うが、私はいつだって精悍な顔つきだろう?

今更確認する必要なんて………


「は………なんだこれ!?」


仕方なくトイレの鏡を見ると、そこにはいつも見慣れた自分の顔は無く、代わりに………


「顔が劇画調になってる、だと!?」


意味が分からない。

薬の効果か、クリームの効果か、はたまた両方か。

とにかく青井を問い詰めなければ、と急いで教室に戻る。

道中他の生徒や先生に見つからなかった事だけが幸いだった。


「おい青井!なんだこれ!いやほんとに何なんだ!」

「ふあぁ~………おはよう。少し寝たら楽になったよ。」

「あぁ、おはよう。………じゃなくて、なんだこれって聞いてるだろ!」

「面白い事になる薬だよ。」

「確かに愉快な事になってますね。」

「周りからすると面白いって事かよ。これ、ちゃんと元に戻るんだろうな?」

「そこは安心して良いよ。しばらくすると元に戻るから。代わりに眠くなるけど。」

「しばらくって、これじゃ帰れないんだけど………。」


とんでもない事をしてくれたものだ。

こんな顔で帰ったら間違いなく母さんが悲鳴を上げるぞ。


「まだ教室に残っていたんです、か………。」

「あ。」


校内の見回りをしていた保木先生が教室を訪れ、私の顔を見るとともに絶句する。


「安達くん。」

「はい。」

「悩みがあるなら先生に、いえ、誰でもいいので相談して下さい………。そんな顔つきになるまで思い詰めてしまったんですね?」


そう来たかー。

これ以上面倒くさい事にならないように説明しなくては。

そう思い青井に説明を任せよう。


「青井、説明を………っていない!?」

「保木先生が来た時点で『家に帰って寝る』って帰りましたよ。」


そう思ったが、青井は既に帰宅していた。

せめて説明をしてから帰れ。


その後、説明に四苦八苦している間に顔付きが元に戻り、強引に先生の見間違えと言う事にして事なきを得た。

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