大岡裁き
ある日の放課後、教室にて。
「オーオカ裁き?がしてみたいな。」
「なんで疑問形なんだよ。」
「そもそも裁く方をやりたいのか、裁かれる方をやりたいのか、はたまた引っ張られる役をやりたいのかが不明瞭ですね。」
なんとなくやりたいと思ったんだ。
しかし強いて問題点を挙げるとすれば………
「ところでオーオカ裁きってなんだ?」
「やってみたいって言っておきながら知らないんだな。」
「流石ですね、安達は。」
それほどの事でもない。
竹塚からの称賛を誇らしげな表情で受け止めていると、伊江は何故か呆れながら問いかけてくる。
「そもそもどうして知らないのに大岡裁きなんて言葉が出てくるんだよ。」
「何故か脳裏に浮かんだんだよ。」
「さっきの授業中に出てきたからですかね。そしていつもの様に安達はほとんど授業を聞いていなかった、または寝ていたから大岡裁きと言う単語だけが脳に残ったんでしょう。」
多分そうだろう。
これが日々睡眠学習に打ち込んでいる成果と言う事だな。
具体的にどんな事だったのかはさっぱりだけど。
「ちなみに大岡裁きって結局何なんだ?」
「ざっくり言うと、江戸時代に1人の子供を自分の子供だと言い張る親が2人いまして。でもどちらが本当の親か分からないので、それぞれ子供の腕を掴んで引っ張りあって、子供を引き寄せる事が出来た方が本当の親と言う理屈で解決するように奉行、つまりは裁判官的なポジションの人が提案します。この人が大岡さんですね。」
「つまり『日頃から筋トレを頑張れ』byオーオカって話か。」
「最後まで聞け。と言うかそんな脳筋全開な訓話なんて嫌過ぎるからな。」
筋トレではなかったか………。
じゃあ力こそ正義とか、そんな感じかな?
まぁ、答えは竹塚の話の続きを聞けば分かるだろう。
「そして左右から腕を引っ張られて痛みを訴える子供。その声を聞いて片方の親は手を離します。もう片方の親はこれで子供は自分のものだと喜びますが、大岡は手を離した方の親こそが本当の親だと判決を下します。」
「手を離したのに?」
「手を離したからこそですよ。」
「要するに痛がってる子供が可哀そうって感じて手を離したから、子供の事を真に思いやってるから親だってなる訳だな。」
「なるほど。確かに容赦なく腕を引っ張り続ける親とか嫌だし。」
痛みを訴えているのに全力で引っ張ってくるような人間を親だとは思いたくない。
と言うか思えないだろう。
子供の事を思いやれるから、と言われれば納得できる。
ちなみに………
「なんの授業で言ってたんだ?」
「確か物理の授業中に話題に上がったな。」
「歴史じゃないのか。」
江戸時代とか言っていたから、てっきり歴史の授業だと思った。
何故、物理の授業で江戸時代のエピソードが出てくるのだろうか。
江戸時代の物理エピソードでも話して、その流れで脱線したとか、そんな感じだろうか。
「確か子供を離さず引っ張り続けられた場合、引き裂かれるのにどれだけの力が必要になるかの話をしていましたね。」
「バイオレンス過ぎる。」
「テストに出るそうですよ。」
「マジで!?」
「んな訳あるか。そんな問題出すような教師がいたら免職か自主退職を促されるからな。」
想像の遥か斜め上を行く話題で驚いた。
しかもテストに出るなんて嘘で更に驚いた。
しかし伊江の言う通り、そんな教師は嫌過ぎる。
まぁ話題に出してる時点でアウトなのでは?と思わなくもないけど。
「取り敢えずさっきメッセージで大岡裁きに協力してくれる人員を招集したのでもう少しここで待っていて下さい。」
「え、招集?誰を呼んだんだ?」
「それは来てからのお楽しみですよ。」
話をしている間に竹塚が連絡していたようで、誰かが来るようだ。
なんだか嫌な予感がするが、取り敢えず待つとしよう。
しばらくして………
「呼んだかしら。」
「来たぜぇ。」
竹塚が呼んだのは沙耶と親方だった。
「今から入屋と親方には安達の腕を引っ張ってもらいます。見事引き寄せる事が出来れば安達の親権を獲得できます。」
「え、いらないんだけど。」
「同じくいらねぇぜぇ。」
竹塚が私の親権を勝手に報酬にするが、2人とも嫌そうな顔をして拒絶する。
そんなにきっぱり言い切らなくてもいいのでは………?
「入屋、親方。これは安達がやりたいって言い出した事なんです。友人として協力してあげられませんか?」
「そこまで言われて協力しなきゃあ漢が廃るってもんだぜぇ。」
「全く、しょうがないわね。」
「待って、私はこんな事になるなんて思ってなかったから辞退したいんだけど。」
拳を鳴らし、腕まくりをして準備は出来ている、みたいな雰囲気を出してるけど、そもそもやらないって選択肢は無いのか。
そんな雑な説得で納得してしまうのか。
まぁ、取り敢えずどっちかが面倒くさがって途中で手を放してくれればそれで良いから、さっさと終わる事を祈るとしよう。
「本当に親権がいらないなら掴んだ腕を離さなければ良いんですけどね。」
「「…………。」」
「おい、なんでそこで『確かに!』みたいな表情してるんだよ!」
そこまでして私の親権を獲得するのを嫌がるのか。
あと竹塚も余計な事を言うな。
私の目論見が一気に崩れたぞ。
結局、悲痛な叫びをあげても腕を引っ張られ続けるのであった。
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