支払いはカードで
「安達。」
「どうした竹塚?」
「やってみたいことがあるので協力して下さい。」
「協力?OKだ、任せてくれ。」
珍しく竹塚が私に助けを求めて来た。
普段は課題で協力してもらっているので二つ返事で了承する。
「それじゃあ、はい。」
「ん?これは、漫画?」
「安達は店員さん役をやって下さい。思いついた事があるんです。」
店員さん役って。まるで子供ごっこ遊びみたいな事を要求された。
珍しく協力を求められたから少し張り切ったが、一体何を考えているんだろうか。
「それ下さい、支払いはカードで。」
「………!はい。」
竹塚、お前!
子供の頃は誰もが憧れた『支払いはカードで』をこの瞬間にやってくるか!
確かになんだかカッコ良くて私も大人になったらやってみたかった。
たぶん大人になったらやってみたい事ランキングで第4位くらいにランクインしそうな行動だ。
「って、なんだそれは。」
「商品券です。」
「いやカードと言っちゃカードとだけど………。」
竹塚が取り出したカードは商品券だった。
どんなカードが出てくるのか期待していた分、少し残念に感じた。
「ふっ、甘いですね安達。この前コンビニに売っていた『チョコたっぷり!チョコレートドーナツEX』より甘いですよ。」
「なんだそのドーナツは。いやドーナツは置いておくとして、何が甘いって言うんだよ。」
「このカードのカラーリングをよく見て下さい。」
竹塚が謎の商品名を挙げ、それより甘いと言うが、私には何のことだか理解が出来なかった。
カラーリングに注目しろと言うが、何が言いたいんだ?
「よく見ると全体的に黒系のカラーリングでブラックカードっぽくないですか?」
「はっ!確かに!」
「ブラックカードと言えばあらゆるカードの中でも最上級のカード。つまり最もカッコいいカードと言っても過言でもないんですよ。」
「他にどんな種類のカードがあるかと言われるとさっぱり分からないけど、なんか高級で凄いカードって事だけは分かるぞ!それに黒ってカッコいいと言うか、落ち着いてて大人っぽいイメージがある。」
そう言う事だったのか。
ただのカードで『支払いはカードで』をするよりもブラックカードっぽいカードで『支払いはカードで』をやった方が、より大人っぽくてカッコいい。
動作と使用する道具は掛け算だ。
カッコいい動作にはカッコいい道具を用いる事によって、よりカッコ良くなる。
流石は竹塚。抜け目のない男だ。
「なぁ、竹塚。」
「安達もやりたいんでしょう?そう言うと思ってましたよ。」
「流石竹塚、話が早い!でも私は今、カード的な物を持っていないんだ。」
動作と使用する道具は掛け算だ。
カッコいい動作であっても、道具が無い状態。つまりは0であっては掛け算をしても0のまま。カッコ良くはならないのだ。
「それならこれを貸してあげましょう。」
「おぉ!ありがとう!」
見かねた竹塚は私に何かを貸してくれるようだ。
流石に商品券を貸すことは出来ないので鞄を漁っている。
そして取り出したのは………
「はい。」
「いやトランプじゃねぇか。大富豪でもするのかよ。」
「それも悪くはありませんが、よく見て下さい。」
トランプを渡された。
これで『支払いはカードで』をやってもカッコ良くはならないぞ。
むしろマイナスになると思う。
しかし竹塚はカードをよく見ろと言う。
「このカードは……ジョーカー!」
「そうジョーカーです。ジョーカーって強そうじゃないですか?それに漫画とかでトランプを使って戦うキャラクターって強そうだと思うんですよね。」
「確かに………。いや待て、よく考えたらトランプで戦うキャラクターが『支払いはカードで』ってやってたらギャグだろ。」
いくら強くてカッコいいキャラクターでもレジとかで『支払いはカードで』って言ってトランプ渡してたら笑うだろ。
「贅沢ですね。それならこれを。」
「ウノ。」
「ウノです。」
更に斜め下にいったものを渡された。
あれか、ウノって叫んでから『支払いはカードで』って言えば良いのか。
ゴリ押しが過ぎるのでは?
「カードをよく見て下さい。」
「次は何だ。」
カードには、
「ドロー4。」
「これで誰かがドローカードを切っても安心ですよ。」
「日常でドローカードを切る瞬間なんてあるのか?」
私は竹塚に呆れてツッコミを入れた瞬間、竹塚はカードを頭上に掲げ、宣言する。
「ドロー4!」
「ドロー4!」
「ドロー2!」
「くっ、10枚ドローか………。てか安心じゃないじゃん。ドローカード使った上で、もう一枚持ってるじゃん。追撃してきたじゃん。」
日常でドローカード使って来る奴いたわ。目の前に。
しかも反撃されても大丈夫なように予備を控えされておくとか。
「残念でしたね。やはり安達には『支払いはカードで』は早かったようです。」
「バリバリ八百長だろ、今のは。」
どうやって今ので勝てと。
「仕方がありませんね。」
「またふざけたもの、じゃないな。」
そして竹塚が差し出してきたはポイントカードだった。
普通のカードがあるなら最初から出せよ。
ん?
「カードを掴む手が強すぎじゃないか?」
竹塚がカードを離さない。
貸してくれるんじゃないのか?
「支払いはカードで。」
会話の流れ的に貸してくれると思うじゃん。
誰もが感じるツッコミを口にしよう。
「いやお前が言うのかよ!」
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