「海、行こうぜ!」

「えぇ、外暑いじゃん。涼しい所でダラダラしてる方が良くないか?」

「夏と言えば海だぜ!海、行こうぜ!」


暑さで頭がやられたのか、元からか、丹野が海に行きたいと騒ぎ出す。

正直、海にはそこまで魅力を感じない。

今みたいに冷房の効いた建物の中でグダグダと話をしている方が良い。


「俺はこの前、海行ってきたんだよな。」


しかし伊江は丹野に自慢とも取れる発言をする。

それを聞いた丹野は絶対にごねると思うぞ。

言わない方が良かったのでは?


「どうして誘ってくれなかったんだよ!」

「家族旅行だったからな。」

「オレ達家族みたいなものだぜ!水臭いぜ!」

「無理があり過ぎるだろ………。」

「俺は丹野を家族と思った事は一切無いけどな。」


予想の斜め上にごねたぞ。

いきなり家族を自称し始めるとか、やっぱり暑さで頭が………

いや元からか。

伊江もそれを理解してか、バッサリと切り捨てる。

まぁ、ここで伊江が丹野の事を『家族の様に親しく感じていた』なんて言い出したら驚きだけど。


「と言うか、仮に海に行ったとして何すんだよ。」

「…………砂浜トレーニング?」

「1人で行け。」

「どうして泳ぐとかビーチバレーとかの答えが先に出てこないんだろうな。」

「泳ぐのもビーチバレーも砂浜トレーニングみたいなもんだぜ。」

「水泳は砂浜とは違うだろ………。」


わざわざ砂浜トレーニングをする為だけに海なんて行きたくないから。

伊江が言ったように水泳とかビーチバレーが出てこない時点でコイツと海に行っても楽しめないだろ。

しかも水泳なのに砂浜トレーニングとか言い張ってるし。

水泳のどこに砂浜要素を見出した。


「でも水泳とかビーチバレーとか砂浜トレーニングとかの運動をした後に海の家で焼きそばとかカキ氷とか食べるのって最高だと思うぜ。」

「確かにあれは良い思い出だな。」

「既に経験済みの奴がいるぞ。」

「この裏切り者!お前がそんな奴だなんて思わなかったぜ!」

「家族で海に行っただけで散々な言われ様だな。」


丹野が海でやりたい事、理想としている事を語る。

そう言われると海も良いかも知れないと感じるが………。

既にその先を往く伊江がいた。

別に裏切ってはいないだろうけど、少し羨ましさを感じないでもない。

まぁ私は丹野と違って家族旅行にケチをつけるつもりは無いけれど。

しかしその光景をイメージするだけでは私の心は動かせない。


「じゃあ適当に水溜まりを作ってやるよ。ほら、水溜まりでも水がすぐ傍にあるから気分的には海になれるだろ。」

「ショボ過ぎるぜ。」

「じゃあ水溜まりのすぐ傍に校庭の砂もオマケで付けといてやるから。」

「そう言う事じゃねぇ。」


適当にあしらおうと思ったが、適当過ぎたか。

丹野なら水溜まりでも満足出来ると思ったんだが………。


「いっその事お前は川にでも遊びに行けば良いんじゃないか?」

「川か………。」

「川でザリガニを釣ったり、水遊びをしたり、ザリガニを釣ったり、水泳をしたり、ザリガニを釣ったり出来るぞ。」

「ザリガニばっかりじゃねぇか。」


丹野が伊江のアイデアには真剣に耳を傾ける。

私も援護をしようと思ったが、特に良い感じのアイデアが思い浮かばなかった。

だって川ってザリガニにイメージが強過ぎるんだ。

むしろザリガニ以外に何があると言うのだろうか。


「つってもこの辺にそんな綺麗な川なんて無いぜ。」

「まぁ大体は濁ってたり汚れてたりしてて遊びたくは無いな。」

「それなら綺麗にすればいんじゃないか?こう、ゴミ拾ったり、水を綺麗にしてくれそうな魚とか植物とかを放流して………。」

「それ絶対に海行く方が楽だぜ。」

「そもそも無許可で放流とか生態系が崩れる原因になるからな。」


川を綺麗にするのも夏の良い思い出になると思うんだけどな。

数年単位で時間が掛かるだろうけど。

私だったら絶対にやらないだろうけど。

生態系については一切考えていなかったけど。


「やっぱり海だぜ!」

「でも丹野、お前泳げるのか?」

「普通に泳げるけど、それがどうかしたのか?」

「知ってるか、丹野。海にはサメがいるんだ。」

「マジで!?」

「いや場所による「そう、あのサメだ!時に空を飛び、時に竜巻にフォルムチェンジし、時に頭が2つや3つに別れたりする、あのサメだ!」………。」

「そいつはヤバいぜ!」


サメはヤバいぞ。

なんたってサメだから。

そんなサメがいる海に行こうだなんて、正気を疑うぞ。


「なぁ、安達。」

「なんだ、伊江。」

「お前、この前サメ映画とか見たりしてるよな?」

「なんで分かった!?さては伊江、お前エスパーか!?」

「そうか、それでサメが怖くなって海に行きたくないのか。」

「ソンナコトナイヨ?」

「片言じゃねぇか。」


馬鹿、私がサメ映画を見てサメにビビってるとか、そんな訳……………無いだろう。

サメなんて、なんか、こう、大丈夫なんだ。

だから海に行く必要なんて無いんだ。


「気が変わった。丹野、安達を連れて海に行こう。」

「やったぜ!」

「いやだ!砂浜トレーニングしか能が無い男と私を陥れようとしている男と一緒に海なんて行きたくない!」

「安心しな。サメはいない所に行くから。」

「…………本当か?」

「たぶんな。」

「私は絶対に海なんて行かないぞ!」

「往生際が悪いぜ。そんな事を言ってると、お前が今飲んでるドリンクからもサメが出て来るかも知れないぜ?」

「流石にそれじゃビビらな「伊江、このコーラやるよ。」いらねぇよ。マジか、お前。」


丹野はノリノリだし、伊江は悪い笑みを浮かべてるし、私の味方はいないのか。

こうなったら最悪、こいつらを囮にして生き延びよう。

なんか映画とかだと、そういう奴から食べられてたけど、きっと大丈夫、のはず。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る