クレーンゲーム

「もう少し右ですよ!右!」

「いや、行き過ぎだろう。ストップストップ!」

「良い感じじゃねぇかぁ?」

「だぁ!うっさい!喋るなら一人ずつにしなさい!」


放課後のゲームセンターで友人たちが騒ぎながら遊んでいる。

沙耶が操作し、外野の竹塚、伊江、親方が指示を出す。

やってる側は苦境の中、必死に頑張っているのだろうが、見ている側はとても愉快。

これで500円玉を何枚入れたのやら。


「ふっふっふ、どうした?大丈夫か?手伝ってやろうか?」


顎を上げ、見下すように4人を見て、手助けの提案をする。


「安達はそこで見ていて下さい!」

「まだこれからだからな!」

「つっても全然取れる気がしねぇなぁ。」

「さっきまで散々煽っといて!絶対に私たちの実力で取って見せるんだから!」


煽っただなんて人聞きの悪い。

ただちょっと『大丈夫?私なら一発で余裕だけど、お前らじゃ、全財産つぎ込むのが関の山なんじゃないか?』って心配して言っただけなのに。


「学業じゃ大したことないのに、ここぞとばかりに活き活きしてますね。」

「生活を送る上でそこまで役に立たないことばっかり得意なのよね。敦って。」

「そこが安達らしいっちゃらしいけどな。」

「その技術を磨き上げた熱量を勉強に向けりゃあいいのになぁ。」


おかしい、何故か侮辱されている。得意なことでマウントを取っていたはずなのに。

そして親分、勘違いしてもらっちゃ困るな。


「そこまで練習とかしないでめちゃくちゃゲットできるからマウント取ってるのさ!これが才能ってやつかな?」

「そこがまた腹立つんですよね。」

「努力したってんならまだ認められるのに。」

「そういうとこだぞ安達。」

「つまり磨き上げる時間は必要なかったけど勉強もしなかったと。」


やはりおかしい。才能をひけらかしているだけなのに。

まぁ逆の立場だったら私も塩対応するけど。


「納得いかない。スポーツや勉学の才能がある人たちはその才能を自慢しても持てはやされるのに。何故クレーンゲームの才能は認められないのだろうか。クレーンゲームを差別するのは良くないぞ。才能が無いからってひがむんじゃない。」

「いや、クレーンゲームがどうこうってよりはあんたの態度が問題なんだけど。」

「傲慢不遜を体現してますよね。」

「その言い方がイラっとするんだよな。」

「わりぃが弁護のしようがねぇわ。」


普段、勉強とかで自慢できないから、ここぞとばかりに調子に乗った末路がこれだというのか。

いいもん!助けを請われても絶対に手を貸してやるもんか。


「やるわよ、あんたたち!敦に目にもの見せてやるわ!」

「任せときな!」

「合点承知!」

「いいですとも!」


拗ねてそっぽを向いている一方で沙耶たちは一致団結している。

なんだろう、一緒に遊びに来たのに蚊帳の外になっているような気が。




途中で店員さんから景品の位置をずらそうかと声を掛けられたが、それも断り、ひたすら挑戦すること15分。

遂に決着の時が訪れた。


「いいぞいいぞ!そのまま落っこちんな!」

「ここまで来れば今度こそいけますよ!」

「おぉ!入ったぁ!」

「やったぁーーー!取ったわ!」


沙耶たちの勝利という形で。


「中々やるじゃないか。」

「イエーイ!やったわよ!」

「おう!頑張ったな!」

「やっぱり努力の末の勝利は気持ちいいですね!」

「友情、努力、勝利ってなぁ!たまんねぇぜ!」


む、タイミングが悪かったか。ではもう一度。


「中々やるじゃないか。」

「ほらほら、ハイタッチ!」

「っしゃあ!」

「Foo!」

「ナイスファイトだ!」


私の声は届いていないのか、沙耶たちが4人でハイタッチしている。

疎外感が凄まじい。調子に乗りすぎたせいで混ざりづらいし。

どうにか自然な形で会話に混ざれないだろうか。


「結局、何を取ったんだ?」

「これよ。ポチモンのぬいぐるみ。」


沙耶は子供から大人まで世代問わず大人気のアニメ『ポチっとモンスター』、通称ポチモンのぬいぐるみを自慢気に掲げた。


「おー、がんばったなー。」

「ふふーん♪ざっとこんなもんよ!」


このまま機嫌を取っていこう。幸い、勝利の余韻のお陰で棒読みの賛辞でも喜んでいる。


「ところでいくら使ったんだ?」

「…………。」


はっ!しまった!純粋な疑問を投げかけたが、タイミングが悪すぎた。


「聞きたい?」

「あっ、いえ、やっぱいいです。はい。」


まずい、このままでは『あんたが煽ってくるから』とかを理由にされて制裁されてしまう。


「そうよ、この友情、努力、勝利の喜びはお金じゃ得られないのよ。すぐに景品を取ることが出来てしまう敦にはわからないでしょうけどね。」

「そうか、だから安達はあんなに煽って来たんだな。」

「そんな悲しい過去があったんですね。」

「安達、おめぇ……。」


おっと?何故か私が憐れまれる方向にシフトしているぞ?

確かに疎外感は感じていたけど、憐れまれるような悲しみは背負ったことがないぞ。


「でも大丈夫。あんたにあたしたちがいるじゃない。」


あ、これは疲労感とお金の使い過ぎでバグってるパターンだな。

きっと今夜か明日にでも後悔し始めるぞ。

けどこれ以上は藪蛇だし、いい話風の空気間で終わらせよう。


そう決めて私たちはクレーンゲームの前から離れていったのだった。

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