彫像と生首

「安達、聞いてくれぃ。」

「どうした親方?」

「おめぇ、この学校の七不思議って知ってるか?」


唐突に親方に七不思議の話を振られた。

知らないわけではないけれど、親方がそんな話をしようとするだなんて珍しいな。


「いきなりどうした?まぁ多少は知ってるけど。」

「やっぱり知ってたか。安達には数学の公式を聞いても絶対知らねぇだろぉが、勉強を関係ない分野だったら意外と知ってると思ったんだ。」

「そして唐突なディス。実際、数学の公式なんて聞かれても答えられないけどさ。」

「この前見ちまったんだぁ。」


見た?さっきから何の話をしているんだ?


「見たって、何を?」

「忘れ物を取りに来た時の事だ。美術室にデッサンとかで使う彫像ってのがあるだろぉ?」

「うん。あるな。」

「美術室に置いてある彫像って言ったら胸元から上の部分しかねぇ、いわゆる胸像?だったか、そういうのしかねぇよな。」

「それ以外の彫像は見たことが無いぞ。」


親方は彫像について話し、私が同意していくと少し間を置いて口を開く。


「………ところがよぉ、全身大理石で作られた見たこともない彫像が美術室から出てきて歩いてたんだよぉ!」

「へ、へぇ。」


うん。なんだか聞き覚えのある話だぞ。

この間、校舎内でかくれんぼをした時に湊が彫像に扮して隠れていたんだった。


「ありゃぁ、きっと学校の七不思議ってやつに違いねぇって思ってな。さらにその前も屋上に上がる階段の前を歩いてたら生首が飛んできてなぁ。」

「ふ、ふーん。」


うん。やっぱり身に覚えのある話だぞ。

この間、何故か屋上にマネキンがあったけど、雨が降って来たから丹野と一緒に職員室に運ぼうとしたら落っことしてバラバラにしてしまって、見つかったらマズいと思ったから通りすがった生徒にマネキンの首を投げつけた記憶がある。


「なぁ安達。学校の七不思議に今言った事は含まれてんのかぁ?七不思議に含まれてるとしたら二つも遭遇しちまった俺はどうなっちまうんだぁ?」

「えーと、そうだな………」


道理で親方が屋上に行きたがらなかったり、美術の時間は緊張した顔をしていると思った。

さて、どう説明したものか。

正直少し面白くなってきたな。少し話を盛って話してみてリアクションを楽しもうか。それとも普通に真実を話して落ち着かせるか。

そんなの答えは決まり切っている。


「が、学校の、七不思議。貴方は、そ、遭遇して、しまったのね。」

「え?誰?」


説明してやろうと思ったらいきなり知らない女性に横から声を掛けられる。

少しビビったぞ。


「あ、貴方は、運が良いわ。二つも、七不思議に遭遇、して生きている、なんて。」

「実は俺、命の危機だったりしたのかぁ!?」


スルーされたし、親方は普通に話を進めているし。

一瞬にして置いてけぼりを喰らったぞ。


「美術室の、う、動く彫像。普段は、人前に姿を、現さないけど、極稀に、見てしまう生徒がいるの。」

「見ちまった生徒はどうなるんだぁ!?」

「み、三日後、行方不明になって、美術室には、その生徒と同じ顔をした、彫像が増えているわ。でも誰も、違和感なく受け入れるのよ。さ、最初から、その生徒がいなかった、かのように。」

「な、なんだってぇ!?」


親方、その彫像、湊なんだ。

親方は美術室に飾られないから安心してくれ。

それに彫像が増えてくなら将来的には美術室を埋め尽くす可能性があるのでは?


「屋上前の生首は!?どうなんだ!?」

「そ、空飛ぶ生首。それは、かつて事故で首から下が、ぺちゃんこになった生徒が、じ、自分の身体を、探している。」

「ゴクリ………!」

「でも本当の身体なんて、み、見つかる、はずがない。だって、ぺちゃんこなんだもの。でも………」

「でも?」

「か、身体が、欲しいから、時々、歩いている生徒の身体を、貰っちゃうの。そして、その身体が違うと、分かったら、ま、また、新しい身体を探して、彷徨うのよ。」

「お、俺の身体も持ってかれちまうのかぁ!?」


親方、その生首、マネキンなんだ。

親方の頭がマネキンと入れ替わったりはしないから安心してくれ。

それに親方の身体とマネキンの頭じゃ、アンバランス過ぎると思うぞ。


「こいつぁやべぇぞ!俺の身体は生首に乗っ取られて頭は彫像にされちまう!」

「なんか合体してんだけど。」

「あ、安心なさい。貴方は七不思議と、出会って、どれくらいの時間が、経ったの?」

「一週間以上は経ってるぞ。」

「この話は、いずれも、七不思議と、出会って三日以内に、起こった話よ。」

「って事ぁ、俺は七不思議に打ち勝ったのか!?」

「そうよ。あ、貴方は奇跡的に、生き延びたのよ。」

「よっしゃあぁ!!!」


親方は心から歓喜し、大きくガッツポーズをしている。

そりゃ結果的に七不思議に見えただけで、実際には七不思議でも何でもなかったからな。


「いやぁ、安心したぜぇ。これで安心して眠れるってんだ。」

「あぁ、うん。良かったな。」


親方の喜び具合に水を差せない。

ここは黙っているのが一番だ。

しかし、


「結局、あなたは一体何者、っていないし。」


横を向くといつの間にか七不思議の話をしてくれた女性が居なくなっていた。

まるで最初からいなかったかのように………。


「も、もしかして今の奴も七不思議なんじゃ………。」


親方が怯えている。さっきまで横にいた人がいきなりいなくなったんじゃ、それも仕方がないが、




「彼女が七不思議の話をしていると現れると言う七不思議の女性だったのか。かつて七不思議によって行方不明になり、道連れを探して彷徨っているとか。」

「お、俺は道連れにされちまうのかぁ!?」


顔面蒼白で怯えている親方が面白いので適当にこじつけておこう。

そうか、七不思議ってこうやって増えていくんだな。

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