睡魔

「もうすぐ2年も終わり、か。」

「あっという間だったな。」

「来年も同じクラスになれると良いですね。」

「竹塚は安達と丹野を制御する役として同じクラスになりそうだけどな。」


いつものように、竹塚と伊江と雑談をしていた。

温かくなってきた気温は新しい学期の近づきを感じる。


「ふぁあぁ、なんか眠くなってきたぞ。」

「春眠暁を覚えず、処々啼鳥を聞く、夜来風雨の声、花落つること知る多少。」

「もう……無理だ……。起きてられ………。」

「完全に寝かせにかかったな。」

「安達は難しそうな言葉を聞くと眠くなる。実証出来ましたね。」

「実証する必要性は一切感じられないけどな。」


竹塚と伊江が何かを話しているが、私は睡魔に負けて意識を手放す。






「……い。…輩。」

「んんん…………?」


誰かに呼ばれている気がする。


「先輩!」

「んあ?」

「いつまで寝てるんですか?先輩。」


目を覚ますとそこには誰かがいた。

その誰かが、私に呼びかけていたようだ。


「あれ?私、いつの間に寝てた?」

「せっかく後輩が暇そうに、じゃなくて寂しそうにしてる先輩の下に訪れてあげたのに。寝ちゃうなんて酷いですよ。」


さり気なく暇人扱いするな。

とは言え、寝てしまったのは事実だし、多少の文句は受け入れよう。

それにして、目の前にいるのは誰だっけ?

自分の事を後輩と言い、私の事を先輩と呼ぶから、後輩であるのだろうけど、頭が回らない。


「悪い悪い。えぇっと………。」

「まだ寝ぼけてるんですか?コハネですよ、コハネ。なんだったらブラックコーヒーでも差し入れしてあげましょうか?」

「お前、絶対私がブラックコーヒー飲めないって知ってていてるだろ。」


コハネ、と名乗る後輩は冗談交じりに差し入れを提案する。

少なくともコハネは私の事を知っているようだ。

たぶん寝起きだから、分からなかっただけだろう。


「それで、なんの話をしてたんだっけ?」

「そっからですか……。ほら、世の中には不思議な事がたくさんある。って話をしてたじゃないですか。」

「あー、そう言われれば、そうだったような気がする。」

「気がするんじゃなくて、事実そうなんですよ。」


世の中には不思議な事がたくさん、か。

たぶんテレビで見た事の話でもしていたのだろうか。


「世の中には不思議な事がたくさんあります。幽霊の出る廃墟だったり、ループする時空があったり、異星人が日常に紛れていたり、箱の中の猫が生きていたり。」

「不思議な事がたくさんあるって言うのは分かるが、コハネが何を言っているかは欠片も理解出来ないぞ。」

「良いんですよ。理解する、考えるんじゃないんです。感じるんです。そうすれば願いは叶うんですから。」

「お前周りから不思議な奴とか奇人変人扱いされてないか?」

「はぁ、まったくもう。先輩、何を言ってるんですか?」


コハネが意味の分からない事を言うので、つい思った事を言ってしまった。

するとコハネは呆れたように溜め息をついてジト目でこちらを見ながら返事をする。


「もしかして気に障ったか?だったらごめん。」

「何を今更。」

「謝罪は取り消すわ。謝罪した事実も取り消したいくらいだ。」


胸を張って自慢げに言うな。

そんな奴に謝罪してしまって悔しいくらいだよ。


「ところで先輩は初詣とか流れ星とかで願い事をして、それが叶うとしたらどう思いますか?」

「え?いきなりどうした?まぁそれならラッキーくらいの認識だろうけど。」

「いえ、何となく聞いてみただけです。」


話題と関係があるような、ないような質問をされ、首を傾げる。

何となくかよ。マイベースだな。


「ふぅん。………んー、なんだかまた眠くなってきたよ。」


それにしても、温かい気温のせいか、またしても睡魔に襲われる。


「さっきまで寝てたのにですか?しょうがない先輩ですね。それじゃ、私はもう行きますね。」

「ん。またなー…………。」


コハネは呆れながら、席を立って去って行った。

その背中を最後まで見送ることなく、眠りに落ちる。






「でさぁ、俺は言ってやったんだよ。『ダンクとダンゴの違いくらい分かるに決まってるからな。』ってな。」

「あははは。丹野は相変わらずですね。伊江もよく真面目にツッコミを入れましたね。」

「そりゃ竹塚だったら、むしろ乗っかって話を碌でもない方向に誘導してただろうな。」

「…………ん?」

「あ、起きましたね。」


話し声によって意識は浮上し、目を覚ます。


「ぉはよう……。」

「はい、おはようございます。」

「新学期始まって暖かくなってきたからな。眠くもなるか。」


どうやら雑談中に眠ってしまったようだ。

気が付けば新学期が始まっていたんだな。


「そっか、もう3年だったか………。」

「はぁ?何言ってんだ?」

「ついこの間2年生に進級したばっかりですよ。」

「あれ?」

「まだ寝ぼけてるみたいだな。」


やっぱり寝起きは意識とか記憶とかが朦朧としているようだ。

でもなんだろうか、何かを忘れているような気がするが………。


「安達も起きた事だし、そろそろ帰りますか。」

「そうだな。」


まぁ忘れる程度の事なら大した事じゃないか。

帰るとしよう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る