犬小屋

「なんで犬って校庭に入ってくるんだろうか。」

「そう言えば本屋の傍にあるコンビニで新発売の総菜パン見かけたんですよね。」

「へぇ、どんなの?」


聞こえなかったのかな?


「なんで犬って校庭に入ってくるんだろうか。」

「それがコロッケパンなんですけど、コロッケの具材がカボチャなんですよ。」

「コロッケパンってのはありふれてるけど、カボチャコロッケを具にしてるのは見たことないわね。」

「聞けよ!」


友達が語り掛けてるのに無視するのは良くないと思う。


「どうせまたSNSでも見て思ったことを言っただけでしょ。」

「そうだけど、そうだけど!無視しなくてもいいじゃないか!」

「でもコロッケパンの話もそれ以上に重要だったので。」


私の振った話はコロッケパンに負けたのか。解せぬ。


「そりゃコロッケパンは美味しいけど、犬だって可愛いだろ?」

「犬が可愛いのは認めるけど、前半と後半で脈絡が無さ過ぎでしょ。」

「美味しいと可愛いを並べるあたり安達らしさが溢れていますね。面白かったので話を聞きましょう。」


話を聞いてくれるのは嬉しいけど、面白くなければ聞いてくれなかったのか?


「それじゃあ、まずは犬が校庭に入ってくるための条件から考えていこう。」

「はい。」

「竹塚。」

「校庭に入って来れる侵入経路がある事です。」


初歩的だが大事な事だな。


「普通に校門から入って来れるんじゃないの?」

「出来れば抜け道的なところから入ってきてほしいな。」

「それあんたの願望じゃないの。」


だってその方が唐突に、何処からともなく犬が現れたって方が盛り上がるじゃん。

校門からスッと入ってくるのも悪くは無いけど、私はいきなり現れてほしい。


「沙耶は何か意見は無いのか?」

「そもそも入って来そうな犬が周辺に居なきゃ無理でしょ。」

「確かに。入ってくる犬そのものが居なくては成立しないからな。」

「だからクラスで犬を飼ってる子に頼んで仕込みでもしたらいいんじゃない?」

「沙耶は分かってない、分かってないよ。」


仕込みじゃ意味がないんだよ。

偶然、校庭に犬が迷い込んできたという事実が興奮と感動を呼ぶというのに、この幼馴染ときたら、ロマンと言うものを理解していない。


「人の事見て溜め息ついてんじゃないわよ。犬の話終了してコロッケパンの話に戻すわよ?」

「むしろコロッケパンの話って、そんなに広がるか?とにかく!私は偶然!校庭に犬が入ってくるという体験をしてみたい!」

「でも仕込みなしでの自然発生を期待するのって結構難しいと思うんですけど。」

「それは………。」


竹塚の現実的な一言に反論が出来ない。

確かに確率として考えるのであれば厳しいとは思うけど。


「諦めたくないな。何か良いアイデアは無いだろうか。」

「安達。校舎裏に犬小屋を建てれば良いんじゃないでしょうか?」

「犬小屋?」


何故犬が校庭に入ってくるためのアイデアで犬小屋が出てくるのだろうか。


「犬が過ごしやすい状況を作る事で、犬が侵入してくる可能性を高めるんです。」

「なるほど!まずはフィールドを整えるんだな!」

「ねぇ、竹塚。それって犬が住み着いていることが前提になるんじゃ………「しっ!安達が乗り気なうちに話を進めてしまいましょう。蒸し返されると面倒です。」まぁそうね。」


竹塚と沙耶がヒソヒソと何かを話しているが、そんな事より犬小屋を作らなくては!

工具類や材料は工作室で借りて来よう。






そして犬を召喚するための激戦が幕を開けるのであった。


「いった!指がぁ!」

「釘じゃなくて自分の指なんか叩いてなにやってんの。ほらさっさと冷やしてきなさい。」




「頑張れー。」

「見てないで手伝ってくれもいいんじゃないか!?」

「すみません。コロッケパンを食べるので忙しくて。」




「うおおぉぉぉぉ!あと少しだぁ!」

「それで駅前のファミレスで………。」

「へぇ、良いじゃない。」




数多の戦いを経て、ついに犬小屋が完成するのであった!


「出来た!」

「頑張りましたね。」

「お疲れー。」


なんだろう、私一人しか携わってないような気が………。


「とにかく、これで犬が入って来てくれると嬉しいんだか。」




そして授業中に先生に怒られるくらい校庭を眺めて、休み時間や放課後には校舎裏の犬小屋を見に行く日々が続いた。


しかし、


「全然来ないなぁ、犬。」

「そうですね。」

「まぁ、元々可能性は低かったわよね。」


残念ながら、犬が現れることは無かった。

それでも諦めずに放課後、校舎裏に犬小屋の様子を見に行くと………。


「ん?なにかいるぞ。」


犬小屋の中で動く生物を発見した。


「豚?」


何故か見覚えのある豚がくつろいでいた。

その小屋はお前の為に作ったんじゃないぞ。


「やぁ、安達君。」

「青井。」

「アルキメデスの散歩に連れて来たら、その小屋が気に入っちゃったみたいでね。そう言えば最近よく校舎裏に顔を出しているみたいだけど、もしかしてこの小屋は君が作ったのかい?」

「そうなんだ。実は………。」


どうやらアルキメデスと呼ばれた青井のペットの豚はこの小屋が気に入ったようだ。

用途は違うが、作った人間としては少し嬉しい。

青井に事情を説明する。


「なるほど。そうだったんだ。うちのアルキメデスがお邪魔しちゃったね。」

「いや、いいんだ。犬は来なかったけど、青井のペットが喜んでるみたいだし。犬についてはまた別のアイデアを考えるよ。」

「本当かい?ありがとう。」




それからしばらくして校舎裏で度々、豚が見られるようになった。

犬ではないけど、偶然の出会いは果たせたから犬小屋ならぬ豚小屋は満足できる結果に終わった訳だ。

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