家業

予想だにしない悲劇と言うのは意外と身近に訪れるものである。


「竹塚、課題を手伝ってくれ。」

「今日は予定があるので無理です。」

「そんな!?」


まさか竹塚に課題の協力を要請して断れるとは。

マズいな。課題提出の時の言い訳どうしよう。


「今日新作のゲームが発売するので。」

「私の課題はゲーム以下だったのか。」

「はい。」


『はい。』じゃないよ、『はい。』じゃ。

迷いなく即答しなくてもいいじゃないか。

困っている友達をもう少し労わってもいいんじゃないかな。


「普段助けてあげてるんだから、偶には頑張りましょうか。僕もゲームで頑張るんで。」

「それは頑張るとは言わないと思うが、普段が普段だけにぐうの音も出ない。」


竹塚は私を見捨てて教室を後にするのであった。

私の救いの手は無いのか。現実とは残酷過ぎる。

悲しみに打ちひしがれていると救世主が現れる。


「だったらうちに来るか?俺もあんまり頭ぁ良くねぇが、手伝ってやんよ。」

「お、親方………!」


やっぱり親方は頼りになる!

でも待ってくれ。


「『うちに来るか?』って、親方の家じゃなきゃダメなのか?」

「家の手伝いの兼ね合いもあるから、その方が都合が良いなぁ。」


大丈夫だろうか。

メッチャ豪華な和風屋敷とかに住んでないだろうか。

家の中に強面の兄さん方がいないだろうか。

黒塗りの高級車とかあるのではないだろうか。


「私の命の保証はあるか?指とか詰められたりしないか?」

「何度も言ってるが、うちはそんなに危ねぇとこじゃねぇからな?」


だって親方の見た目的にその筋の人って言われても違和感ないし。

背が高くてガタイが良い。しかも顔つきも大人びた風貌をしているし、風格が高校生ではない。


とは言え、


「背に腹は抱えられないし、親方の事は信用しているから、ご厚意に甘えるとするよ。」

「おう。」




そして親方の家へと向かい、


「見えてきたな。あれが俺の家だ。」


親方の指さした方向には豪華な和風屋敷が。


「やっぱりかよ!私の予想間違ってなかったじゃん。見えたよ。でっかいお屋敷が。」

「屋敷?何言ってんだぁ?その手前だよ、手前。」


手前?

よく目を凝らして眼前の景色を眺める。


「『そば処 うめや』?」

「そうだよ。俺んち、蕎麦屋だから。」


まじか。一般家庭だったとは。

というか、その奥の豪華な和風屋敷の存在感が凄すぎて初見だと絶対勘違いすると思うぞ。


「ただいまぁ。」

「お邪魔します。」

「おう、お帰り。」


店の裏手から親方の家に入る。

すると親方の父親と思しき人物が迎えてくれた。


「ん?そっちの子は?」

「俺の友達だよ。」

「初めまして、安達って言います。」

「ほぉ!牛雄が友達を連れて帰ってくるなんて珍しいじゃねぇか。俺は牛雄の父親の勝雄かつおってんだ。狭い家だがゆっくりしてってくんな。」


勝雄さんは私の事を見て驚き、歓迎してくれた。

ガタイの良い風貌から親方との血のつながりを強く感じたが、実はこの蕎麦屋がシノギの一種とか言ったりしないよな?

どう見ても蕎麦屋の店主ってよりは組長って感じの見た目なんだが。


「部屋で課題やってっから、手伝いが必要なら呼んでくれ。」

「おう。」


組長から逃げ、もとい課題の為に親方の部屋に向かった。

しかし放課後、よく家の手伝いと言ってさっさと帰っていたのは蕎麦屋の手伝いだったのか。

危ない事をしていなくてよかったと思いつつ、イメージと違うとも思う。

それにしても、


「こう言っちゃなんだが、あんな強面な父さんに手伝い頼まれたら断れないよな。」

「ん?何言ってんだ?俺の親父は結構優しいんだぜ。それに生まれた時から見てきた顔なんだから怖いなんて思わねぇよ。」


なるほど。慣れがあるのか。


「それじゃあ、なんでいつも家の手伝いしてんだ?面倒臭くないか?」

「そりゃあ大変な時もあるが、家族で助け合うのは当然だろぉ。俺は学校通わせてもらって、生活も守ってもらってる。なら俺は店の手伝いって形でちっとでも支えるんだよ。」

「親方………!」


こいつほんとに同い年か?人生二週目とか言ったりしないよな。

この年でそんなにしっかりしたことが言える奴なんてあんまりいないと思うぞ。

高校に入学して一番最初に出会った時はちょっとビビったけど、やっぱり親方は良い奴だ。

そんなことを思っていると親方の部屋の扉が開き、


「うぅ、俺はなんて良い息子を持ったんだ………。こっちこそ、いつもありがとよぉ……。」


飲み物を持ってきてくれた勝雄さんが感激して涙を流していた。


「親父、いつも言ってんだろぉ。家族なんだから当たり前だって。その度に泣いてんじゃねぇよぉ。」

「馬鹿野郎!自慢の息子に感動して何が悪いか!これから先もおめぇの成長に感動し続けるんだよぉ!」


度々泣いてるのか、この父さんは。

まぁ、親方を息子として誇らしく思う気持ちは、友人として誇らしい気持ちを持てるから理解できる。


「お父さん、親方、じゃなくて牛雄くんは学校でも困ったことがあれば助けてくれる良い奴で、大切な友人なんですよ。」

「うおおぉぉ!牛雄ぉ!友達想いたぁ、良い漢に成長しやがってぇ!」

「安達、火に油を注いでんじゃねぇ。」


事実を言ったまでだ。

決してリアクションが凄まじくて見てて面白いからなんて理由ではない。




その後、勝雄さんが店の仕事で呼ばれるまで親方の昔話に浸っていた。


「そう言えば、すぐ傍の和風屋敷は結局何だったんだ?」

「普通に堅気の地主さんが住んでるぞ。うちの常連さんだ。」


よかった。実は本家がそっちとか言い出さなくて。

しかし、






「話してたから課題が全然進んでないぞ。」

「今夜はうちで晩飯食ってきな。手伝ってやっからよぉ。」

「親方、ありがとう………。」


課題は頑張って終わらせた。

お蕎麦は美味しかったです。

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