ガーター

「私には神が宿っていると言っても過言ではない。」

「そうだな。流石にこの結果を見せられたら、な。」

「凄いですね、安達。」

「そう、私には






ガーターの神が宿っているんだ。」

「神様を言い訳にしないで真面目に投げなさい。」


ボウリングでここまで意図せずにガーターを叩きだせるのは、神が宿っていると言っても過言ではないだろう。

あまりのガーターっぷりに、普段は私が才能とか言ってるとツッコミを入れてくる竹塚と伊江も半ば同情気味に肯定して来る始末だ。

そこはいつも通り否定してくれた方が嬉しかったぞ。


「大真面目だよ。全力なんだよ。」

「変にカーブを掛けようとするからでしょ。」

「だとしてもほぼ全ての投球でガーターはある意味、才能ありますよね。」


ふっ、甘いぞ沙耶。

何回普通に投げてもガーターとか1,2ピン倒せる程度だったから変化球で勝負しようとしているんだ。

結果は変わらずだけど。


「と言うかそれを言ったら入屋は普通に凄いよな。投げたボウリング球は基本的に真っ直ぐ進むし。」

「そりゃそうだろ。だって沙耶はテクニック関係なく腕力で強引に真っ直ぐにしてるからな。ゴリラ投法いだだだだ!ごめんなさい!」


沙耶!私の頭はボウリング球じゃないから!そんな力を込めて掴まないで!

私はただ事実を言っただけなのに。

正論を暴力で遮るのは横暴だと思うぞ。

だから私がまた何か言ったらすぐに頭を掴めるようにロックオンするのは止めて欲しい。


「誰がゴリラよ、誰が!これも1つのテクニックよ。それに真っ直ぐ投げてるお陰でストライクが多いから良いじゃない。」

「パワーをテクニックと言い張るのは……いえ何でもないです。」

「まぁアレだな。脳き……うん、ある種の才能ってやつだな。」


おい、竹塚、伊江。正直に言ってやれ。

パワーはテクニックとは言わないと。

脳筋と。

沙耶の暴虐を恐れずに思った事を言ってやれ。

そして私からターゲットを変更させてくれ。


「竹塚?伊江?何か言いたい事でもあるのかしら?」

「いやー入屋はボウリングが上手ですね。」

「流石は入屋。才能があるな。」

「屈するなよ!」


沙耶から威圧されて竹塚も伊江も即座に屈服した。

まぁ私でもあの眼光で睨まれたら屈するけど。

よし、これ以上沙耶を弄るのは危険だし、対象を変えよう。


「そう言えば竹塚もボウリングは全然下手だよな。」

「ふふふ、僕にパワーを求められても困りますね。」

「なんでちょっと誇らしげなのよ。」


竹塚の場合、パワーが無さ過ぎて投げたボウリング球がヘロヘロで真っ直ぐ進まない。

ピンを倒せるときもあれば、ガーターもあると言った感じだ。

それなのに本人は恥じるどころか誇らしげに微笑んでいる。


「まぁ下には下がいるって分かると、僕のボウリング力もそんなに卑下する物ではないのかなって。」

「いやそこは自信持つとこじゃないでしょ。あんたもあんたで相当下手よ。」

「ん?なんだ?挑発か?宣戦布告か?やってやろうじゃないか!」

「うーん、言っちゃ悪いが、安達のスコアじゃ竹塚には敵わないと思うな。竹塚はスコアが2桁は間違いなく行くが、安達はスコアが1桁か、どうにかギリギリ2桁ってところだからな。」


沙耶は私に代わって竹塚に現実を突きつける。

そうだ、もっと言ってやれ。竹塚、お前も私の事を馬鹿に出来ないくらい相当下手くそだからな。

伊江は止めるが、その挑戦受けて立つぞ。


「さて竹塚、早速勝負と行きたいところだけど、終わった後から文句を言わないようにルールを再確認しておこう。」

「安達が理知的な事を言っている!?」

「敦、ごめんなさい。さっき強く頭を掴み過ぎたわね。」

「なんで私が普通の事を言っただけなのにそんな反応されなきゃいけないんだよ!」




「で、ルールとは?互いに1ゲーム投げ合ってスコアを競うのではないですか?まさか妨害は無しなんて当たり前のことを言うつもりですか?」

「もちろんそうだけど、それ以外にも条件を公平にした方が良いと思うんだ。」

「公平?」

「そう、やはり条件を公平にするために同じ重さのボウリング球を使った方が良いと思うんだよ。」

「うわ、セコ……。それじゃハンデなんだよな。」

「情けないわね。正々堂々勝負すれば良いじゃないの。」

「外野は黙っててくれ。」


ハンデじゃないから。

正々!堂々!勝負するために!条件を公平にしてるだけだから。


「それなら安達の力も僕と同じ程度にしなくては公平ではありませんよね。」

「え?」

「と言っても筋力を抑えていても、それは見て分からないので疲弊させることで力を出せないようにしましょうか。」

「え?」

「という訳で、この一番重いボウリング球をダンベルみたいに上げ下げして下さい。」

「え?」


おかしい、これで竹塚をぎゃふんと言わせる事が出来るかと思ったら、何故か私の方が疲れる羽目になったぞ?


「いやぁ、安達が正々堂々勝負する事を重んじる性格ですからね。私も賛成するほかないですね。」

「いや、あの……。」

「安達、諦めろ。自業自得って奴だな。」

「そうね。良い薬だわ。」

「チクショウ!やってやるよ!」


なお勝負はお互いガーターを連発して引き分けだった。

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