読書

ぺらり………ぺらり………

本のページをめくる音のみが聞こえる。

穏やかな気温、静謐とした空間。面白い本。

絶好の読書日和だ。こんな時間が永遠に続けば良いと思ってしまうほどに。


それでも時間は有限である。有効活用しなくてはもったいない。

そういった意味では私は今、読書という非常に有意義な時間を過ごしていると言えよう。


この時間が、この読書によって得た含蓄が、将来我が身を助けることになるかも知れない。


「……ち。…だち。」


読書に集中していると誰かの声が聞こえてきた。

静かにしてほしいものだ。


「安達。」

「なんだ?伊江、今、読書しているんだ。静かにしてくれないか。」


まったく、無粋な奴め。邪魔しないでほしい。

ここは図書館だ。会話をするための場所じゃない。




「読書って言ってるが、それ漫画だよな。」

「本は本だ。漫画だって本のカテゴリに入るだろ。」


漫画だって立派な文化だ。本として扱うことに問題はないだろう。

そんな狭窄な視野では偏見に満ち溢れた、面白みのない大人になってしまうぞ。


「いや、漫画が本じゃないって言ってるんじゃなくてだな。




課題はどうした?もう終わらせたとか言わないよな?」


課題ばかりやっていると疲れてしまうし、心の潤い、余裕がなくなってしまう。

時に娯楽によって癒されるのも大切だから、漫画を読んで息抜きをするのも必要なことなんだ。


「い、今は息抜き中だし。」

「そのセリフ、さっきも聞いたな。」

「ちょいちょい間に課題やる時間も挟んでるから。」

「で、課題の進捗は?」

「よし、息抜き終わり!頑張るぞー。」


息抜きも大事だけど、程々にしないとね!

決して進捗具合を話したら怒られると思った訳ではない。一応。


「えーと、鎌倉幕府の始まった年は、たしかこの前授業で………」




『将軍になりたいなー。どんな法律を作るとか考えておこう。』




ダメだ。記憶の中の私が変なことを考えていた事しか思い出せない。

授業は真面目に受けるべきなのに、過去の私と言えば、現在の私を困らせるばかりだ。

しかし鎌倉時代か。たしか結構前の時代だったような気がする。

現在から遡って考えてみよう。

現在、近代、江戸時代、戦国時代、鎌倉時代。よし!一つの時代を約100年と考えたら4~500年前。つまりは1500~1600年くらいのはずだ。


「間を取って1550年、っと。」

「なんの間を取ったんだよ。それじゃ戦国時代あたりだろ。」

「マジか。」

「マジだ。」


なんてこった、完璧な理論が崩されてしまった。

しかしもっと昔ってことは一つの時代で約200年と考えよう。

となると800~1000年前。

つまり答えは!


「1100年だ!」

「さっきと比べると惜しいが、どうやって考えたんだ?」

「ふっふっふ、説明しよう!」


伊江に私の天才的思考方法を説明してやると、


「はぁ………。」


何故か溜息をつかれた。


「おいおい、惜しかったんだろ?何で溜息を?」

「歴史的出来事から計算して思いついたのかと思ったら………。」

「計算ならしたぞ。」

「違う、そうじゃない。」


計算は計算だろう。

何をそんなに呆れているんだ。


「例えば江戸時代はだいたい1600年からだよな?」

「そうなのか。」

「そうなんだよ。てことはそれより前の時代って訳だな。」

「そうなるな。」

「室町幕府は1330年くらいから。つまりはそれより昔。飛んで平安時代は、えーとたしか790年くらいからだったはずだ。」

「さっきから曖昧だな。」

「黙って聞け。俺だって教えられるほど勉強は得意って訳じゃないんだ。とにかく、室町時代と平安時代の間に鎌倉時代があるって考えたら790~1330年の間にあるって考えられるよな?」


うーん、分かりづらい。


「それだとやっぱ覚えづらいぞ。」

「お前が『間を取って』って言い出したから考え方を合わせたんだよな。歴史ってのは年号の語呂合わせの方が覚えやすいわな。」


なんだ、そうだったのか。


「道理で分かりづらいと思った。てっきり致命的に教えることに向いていないのかと。」

「教えてもらってる上に話を合わせてもらってる側が何て言い草だ。つーか竹塚はどうした?いつもは課題と言えば竹塚頼りだったよな?」

「実は、いい加減頼り続けるものどうかと思って。」

「ダウト。」


何故バレた。私は伊江に『図書館で課題やるけど、お前も来るか?』としか言っていないのに。肝心の竹塚は用事があって来れない事は一切話していないのに。


「日頃の行いが、な?大方、今日は用事があって来れないとかだろうな。」

「伊江、お前まさかエスパーか?」

「実はそうなんだよ。って言ったらどうする?」

「今度の中間試験の問題を教えて下さい!」


まさか私の友人に超能力者がいたとは。これで今後のテスト対策も安泰だ!


「そこで回答を教えてくれとか金儲けに走らないのがお前らしいよな。」

「それは褒められてるんだろうか。」

「誉めてる誉めてる。」


棒読みにしか聞こえない。絶対誉めてないぞ、こいつ。

それに回答を教えてもらうのは卑怯だろう。問題を教えてもらって今のうちから試験対策ならまだセーフ。たぶん。


「それにしても竹塚はいないけど、わざわざ付き合ってくれるとは。」

「安達ってなんだかんだで課題はやるからな。友達の応援くらいはするさ。」

「ま、そこらへんは真面目だから。」

「さっきサボって漫画を読んでたのはどこの誰だったかな?」


あ、あれはサボってた訳じゃなくて息抜きだから。息抜き。

1人だったら確実に漫画を読み続けてたと思うけど。


仕方がない。課題に取り掛かるとするか。




「伊江。」

「ん?」

「ありがとう。」

「気にすんな。さっさと終わらせて飯でも食いに行こうな。」

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