トランプタワー
今日も今日とて私と丹野は、担任の保木先生によって職員室に呼び出されていた。
「さて安達くん、丹野くん。今日はなんで職員室に呼び出されたか分かりますか?」
「オレたちの偉業を称えるためっすか?」
「違います。」
「私たちにアドバイスをする為に呼んだんですよね。」
「違います。」
違うか。そうなると分からないぞ。
「君たち、どうして校庭で脚立を広げて、並べて、脚立の上に脚立を置いていたんですか?」
「先生、トランプタワーって知らないんですか?」
「知ってます。と言うかアレ、トランプタワーのつもりだったんですね。」
「そうですよ。あの形状はどう見てもトランプタワーじゃないですか。」
アレを見てトランプタワーに見えないとは。
これがジェネレーションギャップってやつか。
「いえ、あの脚立はトランプタワーのつもりで重ねていたのは分かりました。でもどうして脚立でトランプタワーなんて作ろうとしたんですか?普通にトランプで作れば良いじゃないですか。トランプのタワーなんだから。」
確かに先生の言う事も最もだ。
しかしこれには悲しくも前を向き、歩む事を止めなかった私たちの感動ストーリーがあるのだ。
お説教をするか否かは私たちの話を聞いてからでも遅くはないだろう。
「「………。」」
私と丹野はお互いに固唾を飲み、指先に意識を、神経を集中する。
呼吸さえ忘れ、心音がうるさいくらいに感じられる。
僅かな動きさえ見せず、眼前の戦いに集中する。
ほんの少しの油断が命取りになるからだ。
数多の失敗を繰り返しながら、ようやく一組目のトランプが互いに支え合い、次のトランプに挑んでいる。
しかし、
パタン………
「ああぁぁぁ………。」
「また失敗だぜ。これで何回目だ?」
「忘れた。10回から先は数えてない。」
無慈悲にもトランプは倒れ、先に組み上げていたトランプもその余波で崩れていった。
失敗した回数なんてテンションが下がるだけだ方数えるのを止めたが、それでもここまで失敗続きだと気が滅入る。
このまま諦めるつもりはないが、上手くトランプタワーを建設できる良いアイデアは無い物だろうか。
「なぁ安達、もう諦めてもいいんじゃねぇか?」
「馬鹿野郎!諦めたらそこで試合終了って名言を、バスケ部のお前が知らないのか!私は絶対に諦めないぞ!」
「そうだったぜ。オレとしたことが、大事な事を忘れる所だったぜ。」
諦めかける丹野に喝を入れる。
確かに厳しい戦いなのは事実だが、それが諦める理由にはならない。
せめて2段目までは完成させたいんだ。
「安達、オレ、天才的な閃きを思いついちゃったぜ。」
「丹野が、天才的?閃き?」
「疑いたっぷりの顔でこっち見んな。」
だって丹野だし。
天才の対義語みたいな男じゃん。
「まぁ疑い持つのはオレの話を聞いてからにしとけって。」
「聞いたら疑いから確信に変わるんだよ。」
「いいから聞け。脚立ってさ、開くとトランプタワーの一部みたいな形をしてるように見えないか?」
「丹野…………。」
いつも馬鹿な事ばかり言っているし、やっているが、今回のアイデアについては認めざるを得ない。
「お前、天才か?」
「だろ?」
確かに脚立の安定性はトランプの比ではない。
脚立を使えば夢にまで見た訳ではないけど望んでいた2段目も到達できるだろう。
「そうと決まれば早速、脚立を集めて来よう。」
「おう!たぶん倉庫とか、そんな感じの所にあるだろうぜ。」
「脚立を使うってなると教室じゃ手狭だな。校庭に持って行こう。」
「という訳で脚立でトランプタワーを作ろうって話になりまして。」
「なりまして、じゃありません。トランプタワーはトランプで作って下さい。」
「でも画期的で革新的なアイデアだと思ったんすけど。」
「本来の用途ではない使い方で脚立を使うのは危険なんですよ。もし崩れて怪我でもしたらどうするんですか。」
「一応2段目まで重ねたから、それで終わる予定だったんですけど。」
「今度作る時はガムテープでガッチガチに固めて作るっす。」
「2段目までとか、そういう話ではありません。脚立は本来の用途で使うように言っているんです。次はありません。」
先生に我々の戦いの記憶を語るが、一切理解してもらえなかった。
「はぁ、普通にお説教しようにも暖簾に腕押しですね。ではこう言いましょう。トランプではない物を使ってトランプタワーを作るなんて安定性だけを優先した妥協の塊じゃないんですか?君たちはそれで本当に満足できるんですか?」
「「はっ!?」」
そうだった私としたことが、長引く戦いのせいで大切な事を忘れていた。
そうだ、私は困難であるが故に、完成した時の達成感と喜びを得られることを忘れていたんだ。
「先生、私達が間違っていました。先生のお陰で大切な事を思い出せました。」
「これからは妥協せずに全力でトランプタワーを作るっす!」
「これで納得するんですね………。とにかく、危ない事をするのはダメですよ?」
やっぱり先生は人生で大切な事を教えてくれる。
自分の目指した夢に対しては妥協無く、正直でいるべきなんだな。
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