おみくじ2
おみくじ。
初詣と言えばお参りとおみくじである。
お参りをしてお賽銭を入れて、神様に願いを伝える。
おみくじを引き、今年の運を占い、結果に一喜一憂したり、友達と盛り上がったりする
はずだと思った。
「すまん、よく聞こえなかったわ。おみくじの結果がなんだって?」
「『吉夫』ですね。」
「いや、何だよ。吉夫って。なんかデジャヴを感じるぞ。」
お参りを終え、竹塚が引いたおみくじを見せた瞬間から混沌が始まった。
マジで誰だ。吉夫って。
「見て下さい。あらゆる項目に吉夫が点在しています。きっと今年は吉夫って名前の人と何らかの縁があるに違いないでしょう。」
「そんな正体不明の縁なんて捨てちまえ。」
「とりあえず結んどいたら?それよりあたしのおみくじ見てよ?」
「『恐』?沙耶、お前にピッタリじゃないか。」
続いて沙耶がおみくじを見せてきた。
いや、似合ってるとか冗談なんで、首を掴むのを止めてください。少しでも力を入れられたら首がへし折られる。
「だ・れ・が・恐ろしいですって?」
「物語の怪物みたいに人の首をへし折ろうとする奴、ぐえぇぇぇ!」
「変わったおみくじが続きますね。僕の知り合いに吉夫と言う人はいないし、入屋は怪物にジョブチェンジ、ぐえぇぇぇ!」
「知ってる?人間に腕は2本あるのよ?」
「でも確かに変だな。俺も『ファミキチ』って書いてあったし。意味が分からないな。」
伊江もまた、意味の分からないおみくじを見せてきた。
「吉が漢字ですらないからな。」
「と言うか字面的に一瞬ファミチキに見えるぞ。」
「吉夫は?」
「知らん。」
「なるほどヨシオ表記ではなかった点を考慮すると実はキチオの可能性もありますね。」
吉夫はどうでもいい。
そんなことよりも本格的に意味が分からない。
夢ならさっき沙耶に首を絞められた時に覚めているだろう。
いや、最悪永眠の可能性もあったけど。
「それよりあんたのおみくじにはなんて書いてあったのよ?」
「………何も書いてなかった。」
「は?」
「今見てみたけど、何も書いてなかったんだよ。白紙なんだよ。」
「単なるミスプリじゃないんですか?」
「でも、これだけ訳の分からない内容のおみくじを見ると、何か意味があるんじゃないかって思うぞ。」
これまで引かれてきた変なおみくじ。
だったら空白のおみくじも意図的に作られた可能性は十分にある。
そして意図的に空白のおみくじを作っているのなら、その意味を知りたいと思うのは当然だろう。
「マジで誰がこのおみくじを作ってるんだ?空白の意味を教えてほしいぞ。」
「それを言ったらファミキチもだな。」
「とりあえずしばくわ。」
「それに吉夫って誰でしょうか。」
「私だ!」
「うわぁ!いきなり現れて、なんだよお前!?」
いったい誰がこんなおみくじを作ったものかと話しているとどこからともなく会話に割って入る男がいた。
と言うか、このおっさん、なんだか見覚えがあるような気が………。
「あ、貴方は………!」
「私こそが吉田吉夫だ!」
「吉田さん!」
「………誰?」
「なんか去年だったか、変なおみくじを混入させてたおっさんがいたじゃん。」
「あぁ、言われてみれば、そんな奴がいたような気もするな。」
「去年も怒られてたのに、懲りてないのね。」
そう、去年変なおみくじを混入させていたおっさんだ。
竹塚は覚えていたようで、まさかの再開に驚愕している。
先ほどまで製作者をしばくと息巻いていた沙耶も、吉田の再来に呆れている。
私も口にこそ出していないが、『このおっさん、クビになってなかったんだ』って思ってるぞ。
「やっぱり貴方と僕の縁は切っても切れないようですね。まさか今年も貴方のおみくじを引くとは思いもしませんでしたよ。」
「いや可能ならばうら若く、美人で、可愛くて、寛容な大和撫子的女子に引いてもらって運命を感じてほしかった。君のような少年に引かれて心底残念で仕方がない。」
「あたしたちはあんたにドン引きよ。あんな真似しておいてよく解雇されなかったわね。」
「ぐふっ!」
竹塚は謎に運命を感じているようだが、吉田側は欲望全開だ。
それを聞いた沙耶の一言に吉田はダメージ受けている。
私も先ほど気を遣わずに、思ったことを言っても良かったかも知れない。
「しかし!吉夫と書かれたおみくじはそれだけではない!まだチャンスはあるはずだ!」
「そんな事より吉田。」
「さんを付けろ!若いの!年長者は敬うものだぞ!」
「吉田…………さん。この空白のおみくじはなんだよ。どんな意味があるんだ?無限の可能性的なやつか?」
吉夫のおみくじはどうでもいいから、私の引いた空白のおみくじについて尋ねる。
正直こんな男にさんを付けて呼びたくはないが、意図が気になるので仕方なく敬称を付ける。
「…………そうだ!白紙であるということは何者にも成れるという事!つまりは無限の可能性を意味しているのだ!」
「めっちゃ間が空きましたね。」
「明らかに今考えたよな。」
「絶対ミスプリでしょ。」
意図なんてなかった。
この反応が口よりも顕著に語っている。
なんでおみくじで外れくじがあるんだよ。
いや吉田が作ったおみくじなんて全部外れだろうけど。
「それならファミキチってなんだよ。」
「ファミキチは君の受け取り方次第で無限の可能性を秘めているぞ!」
「それ去年も聞いた気がするんだよな。」
伊江の引いたおみくじはおみくじで碌なものじゃなかったし。
適当過ぎるだろう。
「で、この『恐』って何よ。うら若い女子とやらに自分の名前のおみくじを引かせたいとか言ってたやつが、こんなもの混ぜるんじゃないわよ。」
「いや、そのおみくじは『え、なにこれ?怖―い!』みたいな感じで相談に来てくれる可能性を作るために「うわっ……」ぐはぁ!」
沙耶は自身が引いたおみくじを見せて問い詰める。
帰ってきた答えに純粋にドン引きしているが、そのリアクションが吉田にダメージを与えたようだ。
そのままうな垂れていてほしい。
「おい、吉田。」
「だからさんを付けろと!………あっ。」
「おい、吉田さん。ちょっと事務所でお話しすんぞ。」
「すいませんでしたぁ!」
「てめぇの土下座なんざどうでもいいから、とっとと事務所に行け!いやぁ、お兄さん方、うちの馬鹿がご迷惑をおかけ致しました。そこの張り紙の宛先までおみくじを送付してもらえたら、返金させていただきますんで。」
私たちがドン引きしていると、吉田に声をかける人物が現れる。
その声に対して吉田は噛みつくが、声の方を見ると、顔を青ざめさせる。
そこにいたのは神社の関係者らしき人物だった。
その人は去年も聞いたようなセリフとともに吉田を回収していった。
「………まぁ、何はともあれ、今年もよろしく。」
「そうですね。」
「今年も騒がしい1年になりそうだな。」
「年明け早々騒がしかったものね。」
絶望した表情を浮かべながら連れていかれる吉田を眺めながら、話題を切り替える。
そうだな。今年も楽しい年になりそうだ。
でもなんだか、違和感があるような………。
まぁ、いいか。
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