宗教

「安達、良い事を教えてあげましょう。」

「良い事?」

「フランスは仏教発祥の地じゃないんですよ。」

「マジで!?」


そんな馬鹿な。

また竹塚の作り話か?

だって、


「フランスって漢字で仏って書くのに仏教の聖地じゃないのか!?」

「バリバリでキリスト教がメインの国ですね。まぁもしかしたら探せば仏教徒もいるかもしれませんが。」

「マズいな。さっきテストで仏教の発祥の地はどこかって問題でフランスって書いちゃったよ。」

「僕はさっきそれを聞いて驚きましたよ。自信満々に『今回のテストは自信あるんだ』って言われて話を聞いてみれば、中々に予想外な事を言い始めるんですから。」

「やっぱり私は常人には出来ない発想を可能とする優れた才能を有しているからな。」

「馬鹿と天才は紙一重ってやつですね。」

「おいおい、そんなに褒められると照れるぞ。」


やっぱりなんだかんだ言いつつ、私の事を認めてくれているんだな。

持つべきものは理解ある友達だ。


「安達はどっちかって言ったら大馬鹿の方ですよね。」

「どっちかってなんだよ。大天才か、大馬鹿か?」

「いえ、馬鹿か大馬鹿かです。」

「それ二択じゃないじゃん。実質馬鹿一択じゃん。」


やっぱりなんだかんだ言いつつ、私の事を馬鹿にしてるんだな。

もっと理解ある友達を持ちたかった。


「話を聞いて適当に作り話をするか、真実を教えてあげるか悩みましたね。」

「悩むなよ。真実を教えてくれたんだよな?いつもみたいな作り話じゃないんだよな?」

「…………。」

「否定しろよ。」


え?じゃあやっぱりフランスで合ってるのか?間違ってるのか?

いやでもたぶん間違ってるからツッコんできたんだよな。


「仏教の『仏』って左に『イ』が入ってるから、イギリスか、イタリアか、インドか悩んだけど、『そう言えばフランスって漢字にしたら仏じゃん』って天才的な閃きをして自信あったんだけどな。」

「フランスの前に並べた3つの選択肢の中に正解ありましたよ。」

「マジか。イギリス?」

「なんでそうなるんですか。フランスと同じヨーロッパの国ですよ?」

「イギリスの『ス』って形的に『仏』の右側の『ム』と似てるじゃん。イギリスからギリを取ったら実質『仏』じゃん。」

「安達は………ある意味凄いですね。」

「そんなに褒めるなって。」

「呆れてるだけですよ。」


おかしいな、完璧な理屈だと思ったのに。

こう、『ス』の上の横棒を下に持ってきたら『ム』になると思ったのに。


「じゃあイタリアか?」

「安達?イタリアもヨーロッパですよ?」

「イタリアの『ア』って『ム』感があるし。」

「無いです。」

「いやでも……。」

「無いです。」


即座に否定された。

更に理由を話そうとしたが、拒否された。

もう少し友達の話を聞いても良いと思うんだが。


「つまりはインドって事か。」

「ここまで辿り着けない事ってあるんですね。」

「どんな問題だって苦難の果てに答えを見つけるって誰かが言ってたし。」

「苦難の果てに悟りを開くならともかく、少なくとも仏教の発祥の地はこの前授業でやっていた範囲であって、苦難の果てに答えを見つけるような問いではないんですけど。」


いや、ほら、そこはアレだ。答えって認識によっては悟りでもあるだろうし。

それに私は仏教徒じゃないから。


「自分は仏教徒じゃないからって言う言い訳は禁止ですよ。」

「先を越された。じゃあアレだ、夢の中で神様が言ってたんだよ。フランスだって。」

「つまりは寝ていたって事ですね。しかも神様ってキリスト教の方を想起すると思うんですけど。」

「神様も仏様もあんまり変わらなくないか?」

「それ絶対にキリスト教徒の人と仏教徒の人の前で言わないで下さいね。仮に言うとしても安達が1人でいる時にして下さい。巻き込まれたくないので。」


そんな!?

私は一般的な日本人の感覚を話しただけなのに。

実際、普通に過ごしててそんなに神様と仏様の違いを理解してる奴なんてあんまりいないと思うぞ。

現に私がそうだ。


「友達が困っている時に助けようとか、一緒に苦難を乗り越えようって気持ちはないのかよ。」

「その友達が原因なので。陰から記念撮影だけしてあげますね。それに逆の立場だったら安達も絶対助けようとしないですよね。」

「うん。」


なんか面倒臭そうな雰囲気がするから関わりたくない。

クリスマスとかお盆とかお正月とかは日常的に関わってるけど、宗教に入信して関わろうとは思わない程度の距離感だし。


「まぁ日本ほど雑多に宗教を扱う国はありませんけどね。」

「そうそう。あ、それにほら、私が信じるのは私だから。」

「カッコ良さそうなセリフだと思ってそうですけど、思い付きで発言した感が強くて逆にカッコ悪いですね。」

「いやむかしからおもってたことだから。」

「棒読みじゃないですか。それに自分の事を信じて来た結果、仏教の発祥の地をどこって書いたんでしたっけ?」

「フランス!」

「安達は自分の事を信じるよりも疑ってみた方が良いと思いますよ。」


そうだろうか。

自信が無いよりもあった方が良いと思うんだけど。

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