追及

決して悪気があった訳ではなかった。

己の天啓に従って行動した。

己の心に従って行動した。


その結果、どのような影響を及ぼし、その影響がどのような形で我が身に降りかかるか。

それを理解していなかった。

後悔はしていない。己に従ったのだから。

反省はしている。思考せず行動したのだから。


眼前の、こちらを睨みつけてくる女子生徒は私の行いを追求する。

その権利が相手にはある。その責任が私にはある。


故にこちらは謝意を伝えるのである。

間違いを犯すことは罪ではない。

犯した間違いを認めず、省みない事こそが罪であろう。

故に私は告解し、行いを懺悔する。



だからそろそろ許してほしい。


「だからどうしてあんな事したって聞いてるの!」

「いや、だから、ナスカの地上絵を作ろうと思って。それでライン引きを持って行ったんだけど。」

「それが訳わかんないの。何?ナスカの地上絵?どうしてそんなもの作ろうと思ったの?」

「その、天啓が舞い降りて。」

「訳が分からないって言ってるの。」


眼前で私にお説教をする隣のクラスの本郷ほんごう聡里さとり

かつて昼休みに校庭でナスカの地上絵を作ろうとした時に、体育倉庫からライン引きを持ち出そうとしたところで私達を見つけた生徒である。


先程から説明しているのだが、一向に理解を得られない。

おかしいな、しっかりと事実を説明しているのに。


「あなた、聡里の事を煙に巻こうとしてるの?それともバカにしているの?」

「だから何回でも説明するけど、今言ったことが全てだから。」

「何回説明されても理解できないの。とにかく体育の授業前にライン引きを拉致監禁した罪は重いの。重罪なの。」


迷惑をかけた自覚はあるけれど、そこまで罪に問われることだろうか。

道具に対して拉致監禁とか聞いたことないぞ。


「ライン引きを教室まで持って帰っちゃった事は謝るけど、そこまで怒らなくてもいいのでは?」

「聡里は体育係なの。体育の準備をしようとしたらライン引きがなくて準備できななったの。おかげで先生に怒られたの。結局放課後までライン引きは見つからなくて先生は聡里を怒ったことは謝ってくれたけど、自分のせいじゃないのに無駄に怒られたのは納得いかないの。」

「ごめんなさい。」


そこまで怒られる案件だった。

流石に自分の行動の結果、無関係の他人に迷惑をかけるのは良くない。

まさかこんな事になるだなんて予想だにしなかった。


「まったく、B組の3馬鹿には困ったものなの。」

「え、3馬鹿?」

「自覚無かったの?安達、丹野、竹塚。日頃の行いから、そう呼ばれているの。」


納得いかない。丹野はともかく、私と竹塚はその括りに入れられたくない。


「抗議する!私と竹塚は馬鹿呼ばわりされるような頭ではないと!」

「安達は否定できないと思うのに、その自信はどこから来るの?竹塚は頭の良いバカって事なの。成績は良いけど、言動から3馬鹿の括りに入れられているの。」


確かに竹塚はノリが良いからな。そう見られてしまうのも仕方がないかも知れない。


「あれ?安達、こんなとこ後輩と一緒にで何やってんだ?」

「噂をすれば3馬鹿の一角が現れたの。聡里のどこが後輩だって言うの?タイの色で同級生ってわかるはずなの。」

「あぁ、そうだったのか。ちっさくて安達の陰に隠れてたから勘違いしちまったぜ。」

「誰がちっさいの。あなたの背が高過ぎるだけなの。」


本郷と会話しているとライン引き拉致監禁事件の主犯格が現れた。

よくよく考えると私だけ怒られるのは納得がいかない。

丹野も罪を裁かれるべきだ。


「本郷、こいつがライン引きを教室まで誘拐した男だぞ。」

「知ってるの。ちょうど良いところに来たの。丹野、そこに正座するの。」

「え?いきなりなんだ?」


よし、生贄確保完了。

これで安心だ。

後はお説教に集中している隙を突いてフェードアウトしていけばいい。

もう十分に怒られたから。


「安達、なにボーっと突っ立ってるの。安達も正座するの。」


訂正、安心できない。

どうやらナチュラルに逃げることは出来ないようだ。

でも廊下に正座ってどうかと思うんですが。


「大体あなた達はいつもいつも変な事ばっかりして、他の生徒や先生に迷惑がかかると思わないの?そんなことだから3バカなんて言われるの。今回だって勝手に体育倉庫から…………」

「こりゃ長くなりそうだぜ。声かけなきゃ良かった。」

「これも定めだろ。迷惑かけたのは事実なんだし。」

「ちょっと!なにコソコソ話してるの!」

「「ごめんなさい!」」


どうやら嵐が過ぎ去るのには、もう少し時間がかかりそうだ。

とりあえず次からはナスカの地上絵を作る時はライン引きで線を引くのではなく、溝を掘って白いペンキでも流すとしようか。

そうなると一人ではかなり難しそうだし、友人たちに声でもかけるか。


「ちょっと、きちんと話を聞いているの?」

「聞いてる聞いてる。」

「はぁ、とにかく、あんまり変な事ばっかりしてないの。」


どうやら考え事をしている間にお説教は終わったようだ。

迷惑はかけ過ぎないようにしようと思いつつ、天啓にも従うことも忘れない。

とは言え、今日は時間もなさそうだし止めておこう。




それに脚が痺れて動けないし。

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