三馬鹿

「聞いてくれよ、オレと安達と竹塚で三馬鹿って呼ばれてるらしいぜ。」

「今更その事を知ったのか?私はもっと前から知ってたぞ。」


丹野が今更な話をし始める。

私たちが周囲からそんな不名誉な呼び方で呼ばれているなんてとっくに知っていたぞ。

馬鹿と天才は紙一重って言うし、私が天才でも周囲には馬鹿に見えてしまう。

悲しいが、これも天才としての宿命か。


「なんか安達が馬鹿そうな事を考えてそうだが、それは置いておくとして。」

「丹野、お前も真実を見極める事が出来ない側の人間だったか。」

「丹野、気にせず続けて下さい。」

「三馬鹿、つまりは三人とも馬鹿って言われてるって事だ。」

「まぁ、そうですね。」


私の事をスルーして丹野と竹塚は会話を続ける。

身近な友人にも勘違いされてしまうとは、それほど私の天才性は凄まじい物だったのか。


「それならオレと竹塚の頭の良さは近いんじゃないかって思うんだよ。」

「あっはっはっはっは!」


丹野が馬鹿な事を言い始め、竹塚は爆笑する。

そして笑い終えて、


「寝言は寝てから言ってくださいね。」

「急に真顔になるな。びっくりするだろ。」


スンとして辛辣な切り返しをしてきた。

それはそうだろう。


「丹野は三馬鹿の中で最馬鹿だな。私ならまだしも丹野が竹塚と並ぶなんてありえないだろう。」

「安達、五十歩百歩とかどんぐりの背比べってことわざを知っていますか?」

「ほら、竹塚からのお墨付きも貰ったぞ。私が竹塚と同じくらいの頭脳だって。」

「ことわざの意味は理解していても現状を理解していなかったみたいですね。」


おかしい、ことわざの意味を理解しているのに馬鹿にされた。


「そうだぞ安達。お前が竹塚と同レベルとか、明日世界が滅ぶくらいにはありえないぜ。」

「なんだと!?丹野、お前こそ竹塚と同レベルとか今から大雪が降るレベルでありえないぞ。」

「ほら五十歩百歩ですね。僕と君たちのレベルの違いを形容するなら月とスッポン、雲泥の差と言った方が良いでしょう。」


丹野と言い争っていると竹塚は鼻高々に見下したことを言ってきた。

あまり見くびってもらっては困るな。


「私は日々、竹塚に勉強を教えてもらったり課題を手伝ってもらったりして進歩しているんだぞ!」

「教える側と教えてもらう側って言ってる時点で実力に結構な開きがあることに気付きませんか?」

「テストの点数だったらオレと安達の点数を合計すればいい勝負出来るはずだぜ!」

「それでも僕の点数に届いてませんよね。しかも合わせなければ勝負にならないって言ってるようなものですよ。」


くっ、流石は竹塚、頭だけじゃなくて口まで回る男だ。


「おい丹野、竹塚をぎゃふんと言わせる方法を考えるぞ。」

「このまま調子に乗らせておくのも癪だしな。」

「ほらほら、もっと僕を楽しませてください。」


なんかゲームの強キャラっぽいこと言い始めたぞ、この男。


「そうだ!ゲームだ!一人では難しくても、二人なら竹塚にだって勝てるはずだ!」

「え?あいつめちゃくちゃゲーム強いって聞いたことあんだけど。」

「大丈夫、私は昔、一回だけ勝利したことがあるから!」

「ハンデ込みの戦いでしたけどね。」


勝利は勝利だし。もしかしたら二人掛かりなら勝てるかも知れない。




『You Win!』


そして高らかに勝利のファンファーレが鳴り響く。




「僕に勝とうなんて百年早いですよ。」


竹塚の。


「くそ、二人掛かりでもコテンパンにやられちまったぜ。安達は口先だけだったし。」

「竹塚が強すぎるだけだから。それにお前もボコボコにされてたじゃん。」


やはりゲームでは竹塚には勝てないのか。

かといって頭を使う系では勝負にならないだろうし。

それでもこのまま負けを認めるのも嫌だ。


「丹野、何か良いアイデアはないのか?」

「いっその事、運ゲーに持ち込めばいけるんじゃね?」

「確かに!運の勝負だったら公平だし、満足した勝利が得られそうだ。」


そんな訳で、


「竹塚!」

「作戦会議は終わりですか?」

「勝負だ!最初はグー!」


じゃんけんならもしかしたら勝てるかも知れない。


「じゃんけん!」


この一瞬に全てを賭ける!


「ポン!」


私はパーを出し、


「僕の勝ちみたいですね。」


竹塚はチョキを出していた。


「何故だぁ!」

「知ってますか?安達。じゃんけんは頭脳戦ですよ。」

「安達は三馬鹿の中でも最弱、次はこのオレが勝負だ!」

「じゃんけんポン!」

「またしても僕の勝ちみたいですね。」


私に続き、丹野もあっさりと敗北した。

ここまで連敗すると勝利のビジョンが見えない。

なんでこの男は遊びの類がこんなに強いんだよ。


「僕は楽しい事が大好きですからね。いろんな遊びを全力で楽しんできたし、日々の生活も楽しんでいるんですよ。だから頭は良くても馬鹿な事やってるから三馬鹿って括りに入れられてるんでしょうね。」

「なるほど、そうだったのか。つまり私も日々の生活を楽しみ過ぎているせいで馬鹿に見られていた訳か。」


そう考えると納得できるな。だから馬鹿と呼ばれていたのか。




「いえ、安達と丹野は行動もそうですが、頭も悪いので普通に馬鹿扱いされていますよ。」


しかし現実は残酷だった。

そんな真実突きつけなくても良いじゃないか。

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