マルチ商法
「なぁ、聞いてくれ。この前キャンペーンとかでよくある『絶対もらえる』の文字が一瞬『絶対もうかる』に見えてしまったんだ。」
「マルチ商法とかねずみ講は止めておきなさい。」
「自首するなら早い方が良いですね。」
「空見しただけだから。そんな犯罪行為やらないから。」
何となく思ったことを言ったら沙耶と竹塚に何故か既にやっている扱いされた。
もう少し友人の事を信頼するべきでは?
「おいおい、何言ってんだよ。安達がそんな事する訳ないよな。」
「伊江………!」
そんな中、私の事を信じてくれる友人、伊江が弁護してくれた。
そうだそうだ。そんな事をする訳がないだろう。
やっぱり人として友人を信用しなくてはな。
「安達がそんな事する頭があると思ってるのか?こいつはむしろ騙される側だな。」
「伊江………。」
違った。信用しているのは私ではなく私の頭の悪さだった。人格とか人間性の方を信用して弁護してほしかったんだが。
いくら私が人を信じる清い心を持った誠実な人間でも流石に騙されないっての。
「確かにそれもそうね。」
「すみません、安達の事を見くびっていました。」
「納得しないでほしいんだけど。」
むしろそっちの方が見くびっているだろ。
え?そこまで馬鹿だって思われてたの?私。
「そこまで言うなら私の頭脳を見せつけてやる!」
「どうやってよ?」
「この前の小テストでも見せてくれるんじゃないですか?」
違う。小テストは闇に葬った。
そうじゃなくて、
「私が説得力のあるマルチ商法とかねずみ講とかの話をお前らにしてやれば私が頭脳明晰で騙されるような奴じゃないと分かるだろう。」
「今日も暴走してますね。」
「いつも通りって事だな。」
そんな余裕ぶってられるのも今のうちだ。
今から良い感じの話を考えてやるからな。
「そうだな、ここにある緑茶を例に話をしよう。」
「聞きましょう。」
「この緑茶はとても身体に良いんだ。なんとカテキンの量が通常の緑茶と比べて十倍ある。しかもカフェインは半分だ!これからは確実にこの緑茶が売れる。この情報はまだ私しか知らないんだが、友人の為に特別に教えてやったんだ。今のうちに緑茶のケースを格安で売るから買ってくれ。」
自信満々に『マルチ商法に注意』のプリントに書いてあった内容、自分しか知らない情報とか、特別とかの言葉をなんか良い感じに応用して説明した。
自信満々だった方が信憑性が増すだろうし、なんか比較して十倍とか言っとけば説得力あるだろう。
「十点。」
「十点満点中?」
「百点満点中ですね。」
おかしい、随分と辛口な採点をされた。
「緑茶の良いところが具体的に説明されていないのと無理矢理詰め込んだ感があって魅力を感じませんでした。あと安達が数字の説明してる時点で懐疑的に感じてしまいます。」
「前半の意見はいいとして後半の意見はただのいちゃもんじゃないか。そのメガネには色でもついてんのか?」
「確かに偏見だとは思うけど、俺もその意見で納得しちまったんだよな。」
解せぬ。私の言葉をもっと真摯に受け止めた方が良いと思う。
なんなら友人の事をもっと信じるべきではないだろうか。私普段から嘘ばっかりついてる訳じゃないんだぞ。
「敦。」
「沙耶、励ましてくれるのか?」
「日頃の馬鹿っぷりが原因ね。」
「トドメ差しに来ただけかよ。」
私に味方はいないのか。
いやマルチ商法の話をする奴に味方する奴なんていないだろうけど、私個人の味方をしてくれる奴が一人くらい居てもいいと思う。
「安達、おめぇ遂にやっちまったのか……。」
「え?」
背後から声を掛けられ、振り向くとそこには親方が居た。
「俺は安達の事は馬鹿だけど良い奴だって信じてたんだがなぁ。」
「親方?」
「自首するなら今のうちだ。それが嫌だってんなら、仕方がねぇ。力尽くだ。」
「ちょっと待った!?親方、何か勘違いしてないか!?」
親方が拳を鳴らしながら威圧感を放つ。
自首が云々とか言ってたし、絶対勘違いしてるぞ。どうにかして弁明しなくては。
「廊下からおめぇがマルチまがいの話をしてるのが聞こえて来たんだが?勘違いだったってか?」
「そうそう、勘違いだ。」
「マルチ商法の話をしていたのは間違ってないですね。」
「竹塚ぁ!」
こいつニヤニヤしながら嘘ではない事を言いやがって!
嘘ではないから否定しづらくて質が悪いぞ。
「親方、違うんだ。私は確かにマルチ商法の話をしていた。だけどそれは私が引っかかる側だってこいつらが馬鹿にしてくるから………。」
「俺達の事を騙してやるって息巻いてたよな。」
「伊江ぉ!」
なんでこいつらは的確に私の弁明を妨害して来るんだ。
言い方一つでこんなにも誤解させられるだなんて言葉って凄い。
「安達、弁明は以上か?」
「待ってくれ親方!こいつらの表情をよく見るんだ!それはもうニヤニヤとしながらこちらを見ているんだぞ!あ、顔を背けるな!」
私が竹塚と伊江を指差すとサッと顔を背けやがった。
「とにかく!私はこいつらを騙そうとしたんじゃなくて私が騙されるような頭じゃないと証明したかったからマルチ商法の話をしただけなんだ!」
「なるほどなぁ。」
よし、納得してくれたか!?
徐々に親方から威圧感が無くなっていく。
「安達。」
「なんだ?」
「悪かったなぁ。」
「誤解が解けたか。」
「確かにおめぇは騙されて友達とかに紹介する側だもんなぁ。」
私は天を仰ぎ、感じた。
『親方、お前もか。』と。
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