音ゲー
それはゲームセンターに遊びに来ていた時の事、天啓が舞い降りた。
「天才的な発想を聞きたいか?」
「結構です。」
「どうせまたろくでもない事だろうな。」
人の話を聞いて否定から入るのは良くないと思う。
もっと友人の話に耳を傾けるべきだ。そして肯定してほしい。
「今、目の前にある太鼓の音ゲーを攻略する方法が思い浮かんだんだ。」
「話を聞きましょう。」
「ゲームの話になった瞬間に掌を返したな。俺はまだしょうもない話だろうと予想しているぞ。」
竹塚は一気に興味を持ち、伊江はまだ胡散臭げにこちらを見やる。
この反応の差は友情の差を感じるな。やはり竹塚は友人の話をしっかり聞いてくれる男だ。
「筐体は二台あるじゃん?」
「そうですね。」
「太鼓を叩くバチはそれぞれ二本あって、合計で四本あるじゃん?」
「そうだな。」
「一台に二人で四本のバチを使って叩きまくれば最高難易度もフルコンボでクリア出来るんじゃないか?」
「「………。」」
私が胸を張り、自信満々に最強の発想を教えてやるが何故か二人からは呆れた表情で見られた。
なんだ、言いたい事があるならはっきり言えば良いだろう。だから溜息をつくな。
「安達、それはかえってやりづらいと思いませんか?」
「二人でやったところで結果は変わらないと思うんだよな。」
「そこで諦めるんじゃない。それは1+1=2で考えるからだ!私たちの友情パワーなら足し算じゃなくて掛け算で実力を発揮できるはずだ!」
「1に1掛けたら1じゃねぇか。」
「むしろお互いが邪魔になって1-1=0にすらなると思うんですが。」
こいつらは友情パワーの凄さを知らないのか。
よく漫画とかで一人では勝てない強敵を相手に苦戦するけど、仲間が助けに来てくれて絆の力で勝利するって展開結構あるじゃん。熱い展開で良いじゃん。
負ける時もあるけど。
「なので考え方を変えましょう。発想の転換です。」
「考え方を変える?一人でバチを四本使うとか?」
「それはかなり使いづらいだろうな。」
竹塚は人差し指を立て、ニヤリと笑う。
「このゲームは正面か側面かで判定が分かれていて、流れてくる音符に対応する箇所を叩くことでスコアを獲得していくゲームです。」
「そうだな。」
「なので………。」
「なので?」
竹塚はもったいぶって間を作る。
早く教えてくれ。
「担当制にしましょう。」
「担当制?正面を叩く役と側面を叩く役で分かれるって事か?」
「そうです。伊江は理解が早いですね。」
なんだ、結局友情パワーじゃないか。私の考えは根本的には正しかった訳だな。
「いっそ二人でひたすら連打してればクリア出来るんじゃないか?」
「それだと微妙な判定のズレでコンボが途切れるのでフルコンボは狙えそうにないですね。」
なるほど。確かにそれもそうだ。
コンボが途切れてはスコアが稼げず、クリアすら危うくなるだろう。
「よし、竹塚!私とお前の絆の力を見せてやろう!」
「あ、僕は一人でやった方がやりやすいのでパスです。」
「自分で言っといて実践はしないのかよ。」
「あくまで安達のレベルに合わせて考えただけなので。」
この自信しかないゲーマーめ、だったら私と伊江の絆の力を見せつけてやる!
「竹塚一人のスコアと、私と伊江で協力して出したスコアで勝負だ!」
「良いでしょう。相手になって差し上げましょう。」
「いや俺はそこまで音ゲー得意って訳じゃないから自信ないぞ。」
「馬鹿野郎、始まる前から勝負を諦めるんじゃない!諦めなければ勝利の可能性は残っているけど、諦めたら負けなんだ!」
アクション系のゲームならともかく、流石に音ゲーなら二人で挑めば勝てるはず。
最高難易度を普通に一人でプレイしてたら脳の処理が追い付かず、ミスを連発するだろうが、片方だけを担当すればいいならミスらずにいける、はず。
「それでは勝負です。先攻は譲ってあげましょう。」
「よし、やるぞ伊江。」
「OK、あんまり自信ないけど、竹塚の余裕顔は崩してやりたいからな。」
そして私と伊江は戦いに望むのだが、
「安達!タイミング被ってる!」
「ちょ、正面と側面交互に来られたら被るのは仕方ないだろ!」
普通にミスを連発した。
高難易度になってくると迫り来る音符の間隔が非常に狭く、重なっているのだ。
お互いの担当個所で太鼓を叩こうにも重なっている部分で叩いてしまい、結果ミスばかりが増えていくと言う想定外の事態に陥った。
あれ?これ一人でやってる時と変わらないか一人でやった方がマシまであるぞ。
「これ普通に負けだよな。」
「まだ竹塚がミスしまくる可能性があるから。」
竹塚の番になり、ゲームが開始される。
ところどころミスをしてコンボが途切れるが、それでも私と伊江のチームよりもミスの回数は少ない。
そして
「ノルマ達成はギリギリ出来ませんでしたが僕の勝ちですね。」
「竹塚、私は思うんだ。お互いノルマ達成出来なかったから引き分けなんじゃないかって。」
「往生際が悪いな。」
ノルマ、つまりは最低ラインを越えられなかったという点だけ見れば同レベルだから。
まぁ最高難易度はいきなり挑むには壁が高過ぎた訳だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます