テロリスト

授業中、突如としてガラリと扉が開かれる。

教師も唖然とし、静寂の訪れる教室。


「この学校は我々が占拠した!」


入って来たのは銃器で武装した3人の男たち。


「きゃぁーーー!」


誰かが発した絹を裂くような悲鳴を起点に教室中が恐慌に包まれた。

それも束の間、パァンという発砲音と共に皆が怯え、閉口した。


「死にたくなければ静かにしろ!」


平和な日常は、テロリストたちの襲来によって一瞬にして崩れ去った。

学校中の生徒たちが人質に取られている以上、警察の助けは期待できない。


「この力は使わないって決めてたんだけどな。」


孤立無援の状況で私は覚悟を決めた。

自らに課していた誓約を破り、己が身体を強化する秘めたる異能『枷壊す我が肉体アンリミテッド・マイボディ』を振るうことを。

恐らく無事に奴らを倒せたとしても、この先、私に平和な日常は二度と訪れないだろう。

だが、それでも友人たちを見捨てて後悔はしたくない。


「喰らえ!」


テロリストがこちらを向いていない隙を突いて奇襲を仕掛ける。

ドガァン!という轟音と共にテロリストが吹き飛ばされ、壁に衝突する。


「がはぁ!」

「なんだ!?」

「遅い!」


吹き飛ばされた仲間に反応し、慌てて銃口をこちらに向けるテロリスト。

しかし、その前に距離を詰めて蹴り飛ばす。

異能の力によって強化された肉体から繰り出される攻撃を喰らったテロリストは引き金を引く前に意識を刈り取られた。


「おい!こっちを見やがれ!」

「いやぁ!」


2人のテロリストを倒したのは良い物の、最後の1人がクラスメイトを捕まえ、頭に銃を突きつけた。


「へっへっへ、どんな手品を使ったか知らねぇが、こいつを殺されたくなきゃ手を挙げて床に伏せな。」

「くっ、卑怯な!」


こうなっては従うしかない。

私は言うとおりにするとテロリストは勝ち誇ったような笑みを浮かべ、銃をこちらに向ける。


「調子に乗りやがって。てめぇは見せしめだ!死ねぇ!」

「今だ!」


そう、クラスメイトの頭から銃の照準をこちらに向けた。

その一瞬の隙を突き、テロリストの銃を蹴り上げる。

弾丸は天井に当たり、テロリストは驚愕する。

そのまま蹴り上げた脚を振り下ろし、勢いのままテロリストの懐まで距離を詰め、アッパーカットを決めた。


「はぁ!」

「ぐぎゃぁ!」


テロリストは宙を舞い、そして地に伏した。

シーンと静まり返ったのも一瞬。次の瞬間には教室が喝采で包まれた。






「って言いう感じの事を授業中に考えてたんだが。」

「あんた何やってんのよ。」

「そんなんだから成績落とすんだよな。」


何故か共感を得られなかった。

授業中にテロリストが学校を占拠したらという妄想は誰もがする通例行事だと思っていたのだが。なんなら私は週3でやってる。


「そうですよ。もっと設定を練り込まなきゃ。」

「そういう事か。」

「そういう事か。じゃないわよ。」


私としたことがなんと恥ずかしい失態を。

確かに稚拙な空想なんて聞いている側が恥ずかしくなってしまうだろう。

それを教えてくれた竹塚には感謝しなくては。今度から妄想の頻度を週4に増やそう。


「入屋だったら自分の拳一つで十分だろうけど安達はもっと工夫をしないとテロリストは倒せないですよ。」

「確かに。中途半端に特殊能力に頼ってもと面白味が減ってしまうか。もっと振り切れるか、頭脳戦にシフトするか、どうしたもんか。」

「いや、納得してんじゃないわよ。相手は武器持ってるのに勝てるわけないでしょ。」


竹塚の意見は参考になるなぁ。

あと沙耶、それは言い換えれば相手が複数でも武器持ってなければワンチャンあるって捉えることもできるぞ。私の幼馴染、強すぎでは?


「いや、そうじゃなくて。安達、来週に英語の授業の小テストあるって先生が言ってたけど、聞いてなかったよな?」

「え、マジで?テロリスト倒して賞賛されてる声以外、何も聞こえてなかった。」

「それは幻聴な。」


なんてこった。伊江につらい現実を突きつけられてしまった。

でも授業中によく妄想しているプロ、竹塚も私と同類。

ならば安心だな。


「なんか生暖かい目でこっちを見てるようですけど、僕は授業の内容も聞いた上で妄想しているのでテストは問題ないですね。」


なんてこったPart2。同類は裏切り者だった。

ならばせめてノートを写させてもらおう。


「竹塚、ノート「流石にそこまで甘やかすのはちょっと」oh……。」


断られた。ならば!


「伊江、「授業中ずっと妄想してたやつに貸すノートはないな」No!」


言い終わる前に食い気味に断られた。


「沙耶、「良いわよ。」マジで!?やったぜ!女神様ありがとう!」


やっぱり薄情な友人より慈悲深い幼馴染だな!


「駅前のカフェの期間限定パフェで手を打つわ。」


悲報、深いのは慈悲ではなく欲だった。

この幼馴染、利益に目聡いったらないぞ。だが他の2人に断られた今、この案を飲まざるを得ない。


「仕方がない、それで頼む。」

「あ、じゃあ俺カルボナーラ。」

「僕はホットドックのドリンクセットで。」


え?何故か全員に奢る流れになっているんだが。

こいつらよってたかって毟りに来てるぞ。鬼か?


「日頃勉強で面倒見て上げてるんだから良いですよね?」

「まぁ、竹塚は世話になってるしな。」

「俺はその場のノリで。」

「お前はダメだ。伊江。」


竹塚はまだわかる。伊江は完全に勢いで押し切ろうとしただろ。なんて奴だ。


「ほら、ノート。後で返してよね。」

「ありがとう。」




妄想内のテロリストよりも現実の小テストの方がよっぽど強敵だ。

そんなことを考えながらノートを写すのであった。

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