青春
「あの夕日に向かって駆け出そう!」
私は友人たちに非常に有意義な提案をした。
「何言ってんだ、こいつ。」
「今、真昼間なんだよな。」
しかし伊江と丹野は怪訝な表情を浮かべた。
「いきなりどうした?バカなのはいつものことだが、今日は唐突だな。」
「だからあれ程拾い食いは止めろと言っただろう。」
伊江、誰がバカだ。お前の隣にいる奴よりは頭良いわ。
そしてバカ、私がいつ拾い食いなんてした。せいぜい机の上に落っこちたのを3秒ルールで拾ったくらいだ。
「いや、昨日見たドラマでThe・青春なシーンがあって、」
「今日はパス。」
「オレも部活あるから。」
冷たい!何故だ!私たちの友情はそんなもんだったのか!
打ちひしがれているとガラリと教室の扉が開かれる。
「話は聞かせてもらいました!」
「偶には良いこと言うじゃあねぇか。」
その声は!
「竹塚!親方!」
「早速放課後に駆け出しましょう!」
「あのドラマみたいになぁ!」
やはり持つべきものは友。どこぞの薄情者たちとは訳が違う。
なんか竹塚はドアを背にカッコつけたポーズしてるし、親方が青春ドラマ見てるとか意外だなと思ったりしたが、そんなことは些細な考えだ。
共通の話題で休み時間は盛り上がり、あっという間に放課後になった。
「ちょうど向こうの方に河川敷があるんだ。行かないって選択肢はない!」
「よっしゃあ!行くぞぉ!」
「あの夕日に向かって駆け出しましょう!」
私達3人は自転車に乗って夕日に向かって駆け出した。
なんで自転車でだって?
普通に走ったらすぐにバテて終わってしまうからな。
「やっぱり、あのシーンが最高だったな!『俺達は輝けるんだ!大人たちがなんて言ったって!』」
「そうですね!『頭の良いだけの大人になんかなりたくない!未来は自分たちで選ぶんだよ!』って続く親友のセリフにはグッと来ましたよ!」
「わかってんじゃねぇか。最後に夕日に向かって駆けていくエンディング。ありゃ見入っちまうってんだ!」
授業のこと、ドラマのこと、趣味のこと、とにかく些細なことだが、楽しい会話をしながら走っていく。
途中から川の方向が夕日から逸れ始めたので更に夕日の沈んでいく街中に向かって突き進んだ。
結果
「どこだ?ここ。」
「道に迷いましたね。」
「すっかり遠くまで来ちまったなぁ。」
完全に迷子だ。
まさかあのドラマのエンディングの裏にこんな事実があっただなんて。
「まぁ、これはこれで青春感があるな。」
「夜の街を仲間と行く。悪くないですね。」
「けどあんまり遅くなりすぎると補導されるぞ。制服着てっからすぐにどこの高校の奴かわかるだろうし。」
浸っていたが補導はいやだ。よし、頑張って帰ろう。
「夕日に向かって進んでいたけど、途中でコンビニ見つけて寄り道してたから、まっすぐに引き返せばいい道から逸れてますよね。」
「どっちから来たっけ?」
「「「…………。」」」
方角が分からない。3人とも沈黙した。
まだだ、まだ諦めない。
「竹塚か親分、スマホ持ってるか?私は家に忘れてきた。」
「充電切れてますね。」
「俺もだ。昨日の夜、充電するのを忘れちまってなぁ。」
なんてこった。
竹塚のスマホを使って休み時間毎に3人で昨日のドラマを再生したりしなければ……!
現状を理解すればするほど状況が悪いことを実感する。
だが決して諦めはしない。諦めなければ必ず、帰ることが出来るはずだ。
迷子という状況を抜け出して!
「しかし、どうしたもんかなぁ。」
「あ、そうだ!ペンを立てて倒れた方向に進むとか?」
「別にそれでもいいですけど、安達は明日提出の課題終わってますか?まだなら真面目に帰る方法考えた方が良いですよ。」
「みんな、もっと真剣に考えるんだ!」
そんな小学生の時にやった方法で帰れるはずがないだろう。まったく。
「向こうに駅があるからいったん行ってみねぇか?」
「え?自転車はどうすんの?置いてく?乗ったまま電車に乗る?」
「何ですか、その光景。面白すぎでしょう。
ありですね。」
自転車に乗ったまま切符を買い、改札を通り、電車に乗る。
伝説になりそうだな。これもまた青春の1ページか。
「ありなわけねぇだろ。駅員さんに止められるわ。つーかその前に俺が止めるわ。面白さで行動決めんな。駅に行けば、ある程度現在地が分かんだろ。そんで俺らの知ってる駅の方に向かってきゃ良い。それで帰れらぁ。」
「さっすが親方!頼りになる!」
「僕もそうだろうと思ってましたよ。」
やっぱ親方は頼りになる!どっかの自転車に乗ったまま電車に乗ろうとする奴とは訳が違う!
「竹塚もふざけた事言ってないで親方を見習えよ?」
「え?課題は一人でやるって?」
「竹塚様、喉乾いてたりしませんか?飲み物買ってきますよ?」
竹塚様を悪く言う奴がいるらしい。課題を手伝ってくれる優しい友人を悪く言うだなんて許せないな。
そして無事、家に帰ることに成功し、課題という名の第2ラウンドが始まるのであった。
後日
「山に登ろう!」
「安達、懲りてないですね。」
「おめぇ、山は迷子じゃ済まねぇぞ?」
竹塚と親方は呆れ顔。ロマンを理解する友人たちだと思っていたが、解せぬ。
この前見た漫画が面白かったんだもの。仕方ないよね。
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