「これは、一体どういう事かしら?」


表情こそ笑顔であるが尋常ならざる威圧感を放つ幼馴染。

笑顔とは本来攻撃的なものであるとは誰が言った言葉だったか。


「これは、その、うっかりでして、はい。」


その圧力に気おされ、顔面蒼白、冷や汗は滝の如く。

悪気はなかった。

悪意もなかった。

あったのはほんの僅かな油断だった。


「へぇ、うっかりねぇ。私もうっかり手が滑っちゃいそうだわ。」

「どうか、どうか命ばかりは、お助けを……。」


首を垂れ、命乞いをする。

今回は割と申し訳ない気持ちになっている。

普段から誠実で清廉潔白で自分の行いを省みる事が出来るけど、今回は一応反省している。


「(ニコッ)」


満面の笑みだ!これはきっと誠意が伝わって許された!


「(グッ!)」


おぉ、親指を立ててグットのジェスチャー!慈悲はあった!


「(サッ)」


ダメだ、親指で首を掻き切るジェスチャーをされた。慈悲は無かった。

仕方がない、ほとぼりが冷めるのを待つために今日の授業は抜け出すとしよう。


「急用を思い出したのでさよな「(パチンッ!)伊江、丹野。」は、離せぇ!いやだ!死にたくなぁい!」


逃げようとした瞬間に沙耶は指パッチンでクラスメイトを召喚し、拘束された。

いつの間に召喚術なんて習得したんだ。なんかのゲームにでも出演するのか?


「どうして逃げようとしたのかしら?あたしは『冷静』に『話し合い』をしようとしているのに。」


絶対ウソだ。拳を鳴らしながら威圧感出してくる奴が話し合いとか。これから制裁が始まるぞ。


「頼む、許してくれ。」


真剣な表情で許しを請う。




「姉御。ギャアアァァァ!」


アイアンクローが顔面に食い込む!幼馴染は森の賢者だった?

相違点があるとすれば穏やかさだろうな。


「姉御、そこまでにしときな。」

「そうですよ。姉御。」


持つべきものは友。友人たちが助け船を出してくれた。


「あんたらも制裁がお望みかしら?」

「入屋様を姉御呼ばわりとか酷いことだな。」

「まったくですね。慈悲は必要ない。」


一睨みで掌を返しやがった。薄情な連中め。まぁ私も同じ立場だったら掌返すけど。

そして丹野、ニヤニヤしながら写真撮ってんじゃない。この前の仕返しか?


「程々にしとけよ、入屋。」


お、親方!助けて!


「今回は安達が悪いたぁ思うが。」


見捨てられた!

先日、沙耶が舎弟(仮)に姉御と呼ばれているという話を、ついポロっと教室で話してしまったのが運の尽き。

友人たちと笑い合っていたのも束の間。沙耶が教室に入って来た際に「あ、姉御!」と言ってしまい地獄の圧迫面接が始まった。


「でも確かに姉御呼び似合うよな。」

「面倒見も良いですからね。」

「呼び方はともかく、後輩とか年下から慕われそうではあるからなぁ。」


みんなの人気者だな、沙耶。そんな人気者がアイアンクローなんてするもんじゃないと思うんだ。

開放してくれないと私の頭がスプラッタ映画に登場できる感じになっちゃうぞ。

冷静に思考を回しているが激痛は感じ続けているわけで、痛すぎてそろそろ涙が出てくるぞ?


「それにしても、うちのクラスって親方いるし、姉御もいるしで、学級的な『組』というよりもヤバい方の『組』って感じですね。」

「じゃあオレ若頭。」

「いや丹野は若頭ってよりバカ頭だな。」

「誰がバカだよ!誰が!」

「でもおめぇ、安達と成績どっこいどっこいじゃねぇか。」


なんか外野の会話からさりげなくディスられてるぞ、私。

そこまで頭が悪いわけじゃないんだ。やればできる、はず。


「安達は鉄砲玉だな。」

「確かに。」

「乗せやすいですからね。」

「相手を煽るから意図的に抗争を起こすのにも使えそうだなぁ。」


やればできるってそういう事じゃない。丹野も竹塚も同意するな。

あと親方の言い方が本物っぽさを感じさせるのですが、もしかして実家がその筋の?

いや危険だから考えるのは止めておこう。


「じゃあ僕は顧問弁護士とかですね。」

「そりゃ口調のせいでは?」

「頭脳担当ってのは何となくわかるな。」

「えげつねぇ手使って他所の組を陥れてそうだなぁ。」

「それ程でもないですよ。」


竹塚、それって考え方変えれば陰湿ってことだぞ。


「なら俺は、「「「組長、お勤めご苦労様です!」」」誰が組長だ!てかそこは確定なのかぁ。」


親方はため息をつくが、そこは私も同意だ。

むしろ親分以外に組長枠を埋められる人材を思い浮かばないぞ。


「じゃあ俺は?」

「伊江は……」

「民間人?」

「『組』の人間ですらないのな。」

「普通ってのは良いことだろ。」


竹塚は考えを巡らせていると丹野が苦し紛れの案を出した。

確かに伊江は割と常識的なところあるし。行動が基本的に保身優先だけど、そこが小市民っぽさを出している。



「入屋さん、そろそろ止めて上げたらどうですか?」

「委員長。」


大天使降臨。

教室に戻って来た学級委員長が助け船を出してくれた。


「安達くんも、あんまり入屋さんのことをからかってはダメですよ。」

「あい……。」


顔面がへこんでるのではなかろうか。痛くて変な声出たぞ。

ともあれ委員長のお陰でスプラッタ映画からオファーが来なくて済みそうだ。


「ほら、安達くんは入屋さんをからかって、入屋さんは安達に仕返しをしました。それならこの後、お互いに何をするべきか分かりますよね?」

「「ごめんなさい。」」

「よろしい。」


ニコッと笑顔の委員長。やっぱり笑顔は見ていて癒されるものでなくてはね。




そしてふと思う。

真面目な委員長に逆らえる人間はこの組にいない。

もしかしてこの組の真の黒幕は委員長だった?


「どうしましたか?私の顔をじっと見つめて。」


いや、妄想が過ぎたな。

普段怒らない委員長を困らせると他のクラスメイトにシバかれる。

姉御呼びの二の轍は踏まない。

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