強そうな

「ピノキオってさ、強そうじゃね?」

「は?」

「何言ってんだ、お前?」


ある日の休み時間、丹野が意味の分からない事を言い出した。

丹野の頭がおかしいのはいつもの事だが、それにしても今回の発言は一段と理解し難い。

ピノキオのどこに強さを見出したのだろうか。


「さてはアレか?人形だから外付けパーツで強化しまくれるって言うロボット物のノリだな?」

「そう言われるとそれもありだぜ。でもそうじゃねぇんだ。」

「じゃあなんだよ。」

「ピノキオってさ、嘘を吐くと鼻が伸びるよな?」

「そう言うお話だからな。」

「鼻の先っちょを尖らせといて、一瞬の間に嘘を吐きまくって鼻を伸ばしたら、敵の事を貫けそうじゃね?」

「「……………。」」


普段から馬鹿な事ばっかり言ってるが、まさかピノキオの鼻についてここまで真剣に考えているとは思わなかった。

私ですら、そこまでの発想には至らなかったのだ。


「丹野、お前さぁ…………。」

「天才か!?」

「そうそう、天さ………は?安達?」

「だろ?」


伊江は呆れと共に口を開き、私がそれに続く。

私の意見に対し、伊江も同調するが、途中で止まった。

なんだ、更にピノキオの可能性に気付いたのか?


「待て待て待て、鼻で敵を貫く?何言ってんだ?」

「いや、だからさ、ピノキオの鼻って嘘を吐くと伸びるんだぜ。」

「あぁ、知ってるよ。」

「つまり一瞬で大量に嘘を吐いたら一瞬でメッチャ鼻が伸びる訳だ。それで敵を「ストップ!」なんだよ。」


丹野の説明を聞いていると、伊江が途中でそれを止める。


「一瞬で鼻を伸ばす?敵?ピノキオの鼻ってそう言う暗器的な物じゃないからな?敵なんてどこにいるんだよ。ピノキオの鼻が伸びるのは自業自得って話だからな?」


でも、もしかしたらピノキオが危機的な状況に陥る可能性もあるし、どっかにピノキオの敵だっているかも知れないぞ。


「伊江、別に敵なんていないとか、ピノキオの自業自得だとか、そんな事はどうだって良いんだ。」

「良くないな。」

「重要なのは、なんとなく『こう考えてみたら強そう』って事だけだぜ。」

「結局いつもの戯言って事だよな。」


真剣にくだらない話をするからこそ楽しいんじゃないか。

真面目に普通の話をするよりも、私はこっちの方が好きだぞ。

しかし戦ったりしないけど、強そうな童話の登場キャラクターか………。


「それなら『金の斧と銀の斧』に登場する木こりも強そうじゃないか?」


私が提示するキャラクターは木こり。

その理由は………


「斧を泉に入れて正直に答え続ける限り、無限に金の斧と銀の斧が手に入るんだろ?それって売ればお金になるし、そのお金でより強力な武器を買ったり、強い仲間を雇ったりできるぞ。」

「泉の女神さまはRPGとかの金策要員じゃないし、そんな欲望に塗れた奴に金の斧と銀の斧を渡したりしないだろ。」

「自分の欲望にも正直だぜ。」

「つまりは正直者って事だろ。金の斧と銀の斧で大儲けだ。」

「そのまま泉に落ちたら綺麗な木こりになって帰ってこないかな………。」


木こりの人に泉に落ちろなんて、伊江、それは人としてどうかと思うぞ。

他人の不幸を願うよりも、自分の幸福を願う方が良いと思う。

まぁこの木こりが童話に登場するとしたら、女神さまに泉に引きずり込まれてそのまま水没すると思うけど。

強欲な木こりが主人公なら、そっちの方がめでたしめでたし感あるけど。


「『狼少年』の少年もある意味では強いと思うぜ。」


伊江が木こりの不幸を願い始めたので丹野が次の童話のキャラクターを挙げて話を戻す。

しかし狼じゃなくて少年の方か。

それは流石にイマイチ共感できないな。


「自らの命を支払って狼を召喚するってカードゲームの生贄システムみたいだし、狼って大体どの童話でも強キャラだから、そんな狼を召喚できる少年は強キャラだぜ。」

「召喚してる訳じゃないからな。」

「確かに狼って確かに強いけど、敗北フラグみたいな存在だと思うぞ。登場して主人公側を追い詰めるけど、最終的にやられる話がほとんどだろうし。」


むしろ狼が勝ってめでたしめでたしで終わる話なんて、それこそ嘘つきがいなくなった狼少年くらいなのでは?

まぁあのお話もめでたしめでたしで終わったかと言われると、普通に疑問を感じるけど。


「伊江は何かないのか?強そうな童話のキャラクターのアイデア。」

「強そうって………そうだな。桃太郎とか?」

「はぁ…………。本気か?」

「やっぱり伊江は伊江だぜ。」

「なんだよ、鬼を倒してるんだから桃太郎は強そうだよな?」


そうじゃない、そうじゃないんだ。


「そりゃ桃太郎は先頭描写もあるし、強いと思うぜ。」

「けどさ、私達が挙げてきたキャラクターは戦わないんだよ。戦わないけど強そうだと思うから挙げてるんだよ。」

「なんだそのルール、そんなの聞いてないからな。めんどくさい奴らだな。」

「いや、特に決めた訳じゃないけど、何となく雰囲気的に。」

「分かるか、そんな雰囲気。それだったら…………」


伊江は憤慨しながらも、ルールを聞いた上でのキャラクターを考える。

こうして放課後のひと時は過ぎて行ったのである。

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