エリザベスカラー

ある日、竹塚の家にて課題を手伝ってもらっている時のこと。


「………。」

「ん?どうしたんだ、竹塚。じっと外を見つめて。」

「安達、あの姿が見えますか?」

「あの姿って………」


外をじっと見つめる竹塚。

それが気になって声をかけたが、こちらを振り向くことはない。

私も竹塚の言う『あの姿』とやらを拝もうと窓辺に寄ると、その視線の先にいたのは………


「猫じゃん。」

「猫です。」


向かいの家から窓越しにこちらをじっと見つめる猫がいた。


「可愛いからずっと見てたって訳か。」

「それもありますが、それだけじゃないんですよ。」


猫を可愛いから以外の理由で眺めることってあるか?

飼いたいとか、そんな感じのことでも考えていたのだろうか。


「安達はあの猫の首周りに巻かれている物を知っていますか?」

「あぁ、あの、なんか、アンテナみたいな感じの………確か、なんとかカラーって言ったような気がするぞ。」

「エリザベスカラーですね。」

「そうそう、それだ。」


エリザベスカラー。

なんかどっかで耳にした覚えがあるが、普段の会話で出てくるようなものでもなかったので中途半端に覚えていた。


「で、そのエリザベスカラーがどうかしたのか?」

「安達、実はエリザベスカラーの名前の由来はエリザベス女王なんですよ。」

「うーん、聞き覚えがあるような、無いような………。まぁ『エリザベス』って名前についてるし、そうなんだろうな。」

「イギリス、正確にはイングランドの女王様の名前ですね。」

「へぇ。」


イギリス、そう言われると聞いたことがあるような気がしてきた。

いつの時代の人物で何をやった人かは分からないけど。


「ではエリザベス女王が実は猫だったという話は知っていますか?」

「マジで!?」


猫!?

一国の女王様が猫!?

実はイギリスって猫の国だったのか!?

国民も全員猫で、言葉も猫語で話してるのか!?


「そして先ほど安達はアンテナみたいな形って言いましたよね?」

「あ、あぁ。言ったぞ。」


私の驚きと動揺を気にせず、竹塚は話を続ける。

確かにさっき言ったけど、急にアンテナの話題を出してきたな。

次は一体何を言い出すつもりなんだ?


「実はエリザベス女王は死後、その魂を現世に彷徨わせているのです。そしてその魂が発する信号を受信するために一部の猫はエリザベスカラーを装着しているんですよ。」

「マ、マジかよ………。って言うことはあの猫も………。」

「まぁ全部が全部そうではないので、あの猫はどちらなのかと思いまして。」

「そうだったのか。だからじっと見つめてたんだな。」


確かに、可愛いからという理由だけではなかったようだ。

そんな真実を知った状態でエリザベスカラーを付けた猫が見えたら、注目してしまうのも無理はない。

私だってこれからエリザベスカラーを付けた猫を見かけたら絶対に注目してしまうぞ。


「という話を猫を見つめながら考えていました。」

「作り話かよ!」

「はい。正直エリザベス女王が猫だったの部分はだいぶ無理があると思ったのですが。」

「でも日本でもショールイなんとか令ってあったらしいし、もしかするとエリザベス女王が猫だったって可能性もなくはないじゃん。」

「生類憐みの令ですね。まぁ歴史を見ると往々に『なんでこんなことをしたのか。』とか『どうしてそんな結論に至ったのか』と言う疑問を抱かずにはいられない事例が多々ありますからね。」

「そうそう。だから私もそれを考えたうえで「それは嘘ですね。」……そうだけどさ、もう少し私のことを信頼してくれてもいいんじゃないか?」

「信頼しているから、そう判断したんですよ。それよりもほら、手が止まっていますよ。課題を進めなくていいんですか?」

「よそ見してたのは竹塚………いや、何でもないんで手伝って下さい。ノートを閉じないでくれ。」


そこはもっとこう、私の賢さの面で信頼してもらいたい。

課題は手伝ってもらっているけれど。

見捨てられたら課題が終わらないと思うけど。

それはそれとして、私の溢れんばかりの知性を信頼してもらいたい。

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