段ボール2

完璧な偽装、完璧な隠蔽、完璧な潜伏。

間違いなく見つからない自信はあった。

誰にも見咎められることなく、やり過ごす自信があった。

紛れもなく最良の選択肢を採った自信があった。


だが違った。

一部の油断も無く臨んだはずが、気付けば既に敗北していた。

一切の慢心なく挑んだはずが、戦いにすらならなかった。

最早私の知恵では不足していると思い知らされたのだ。


だからこそ、私は信頼出来る友達を頼ろう。


「と言う訳で、何か良いアイデアは無いか?竹塚、青井。」

「何がどういう訳だか分からないんだけど。」

「その小脇に抱えた段ボールでも関係しているんですか?土手で段ボールを使って滑るんですか?」

「違う。いやそれも楽しそうだけど。」


今回は土手滑りについて相談したかった訳じゃないんだ。


「昨日、この段ボールに隠れてお説教しに来る先生から身を隠していたんだ。しかしどういう訳かすぐに見つかってしまって、結局職寝室に連行されたんだよ。」

「「……………。」」


流石の竹塚と青井もこの難題には眉をひそめているようだ。

そして2人は顔を見合わせて内緒話を始める。


「これはツッコミ待ちなのかな?」

「いえ、安達の事だから本気ですよ。」

「そうだよね。安達くんだものね。」

「どうしますか?」

「そんなの決まってるじゃないか。私はこう見えても友達想いでね。






適当にアドバイスをして遊ぶよ。」

「奇遇ですね。僕もそのつもりでした。」

「竹塚?青井?さっきからコソコソ何を話しているんだ?」

「いえいえ、少しばかり難しい相談だったので知恵を合わせていました。」

「そうだよ。しかし安心してくれて良い。私の頭脳と竹塚くんの頭脳を信じたまえ。」

「おぉ!やっぱり2人は頼りになるぞ!」


竹塚と青井が何を話していたのか気になるが、頭の良い2人の作戦会議だし、私が聞いてもあまり理解出来ないかも知れない。

となれば、2人が何を話していたかよりも、どんなアイデアを聞かせてくれるかが重要だろう。


「やっぱり段ボールの柄が問題だったんじゃないですかね。」

「柄?」

「そうです。隠れるにしても普通の段ボールのままでは確かに見つかってしまうでしょう。そこで段ボールを迷彩柄にして先生の目を欺くのです。」

「言われてみれば、軍隊とかでも迷彩柄の服を着ているし、戦車とかも迷彩柄のペイントが施されていたりするし、そう考えると普通の段ボールじゃ頼りないな。」

「えぇ、そうでしょうそうでしょう。皆の注目の的になれるくらいにイケてる迷彩柄のペイントを施そうじゃありませんか。」

「おぉ!」

「注目の的になったら意味が無いんじゃ………。いや、安達くんが満足ならそれで良いんじゃないかな。」


迷彩!

確かに身を隠すために、その柄をペイントする事は結構あるみたいだし、良いアイデアだ。

青井は何やら言いたげな微妙な表情をしていたが、切り替えて次のアイデアを話し出す。


「ステルス機能も搭載しよう。」

「ステルス機能!?」

「一応言っておくけど、別に透明になれる訳じゃないからね。」

「そうか………。無いのか………。」

「そんな技術があったら迷彩柄なんて提案しませんよ。」

「レーダーという物は音波の反響によって対象を捉えるからね。少しばかり段ボールの形状を変えれば良いし、もしも先生がコウモリみたいに音波を拾って周囲の環境を把握していたら、対策としては有効な手段だと思うよ。」

「コウモリみたいにって………流石に先生は人間だから音波を拾ったりとかは無理なんじゃ?」

「でも安達くん、よく考えてみて欲しいんだけど。」

「何を?」

「『ステルス』って響き、カッコ良くないかい?」

「めっちゃカッコいい!ステルス機能搭載しよう!」


ステルス!

最早響きだけでも採用を決定するレベルだ。

いつだってステルスと言う言葉は男子の心をくすぐって止まない。

効果がどうとかはどうでも良くて、ステルスが搭載できると言う事実だけで十分なのだ。


「それから『木を隠すなら森の中』とも言いますし………。」

「段ボールを隠すなら段ボールの中って事か。」

「その通りです。」

「具体的には?」

「段ボールを何個もくっつけてその中の1つに潜伏するのです。ホラー系の映画やゲームでも、化け物が主人公の隠れているロッカーや箪笥の隣を開けて『違ったか………』みたいな雰囲気で去っていくシーンがあるじゃないですか。アレを演出するんです。」

「もし一発で正解を引き当てられたら?」

「その時は安達の主人公力がその程度だったと言う事です。」

「酷っ!?」

「でも実際、映画とかでもモブキャラが主人公の真似をして隠れたら、化け物に見つかって殺される、なんてよくある展開だと思うけどね。」

「つまりはそういう事です。モ達。」

「モ達って何だよ、モ達って。」


モブの安達って事か?

無理矢理感が凄まじいネーミングだぞ。

しかしアイデアが出揃ったようだし、次は作成タイムだ。

竹塚、青井と協力し、段ボールを収集、加工、彩色していく。

そして………


「よし!これで迷彩柄ステルス機能搭載型段ボールの森の完成だ!」

「良かったですね。」

「早速それを装着して先生の前を通ってみたらどうかな?」

「分かった!行って来る!」

「逝ってらっしゃい。君の帰りを待っているよ。」

「安達が無事に帰れたらお祝いのパーティーを開催しましょう。」


2人に見送られ、リベンジマッチに挑む私。

結果は語るべくも無いだろう。

とりあえず2人には今度文句を言う事が確定した。

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