芸術

芸術は人の心を潤わせる。

芸術は人の心を表す。

古来より何らかの形で人は表現し、それを見た者は心を動かされた。


連綿と続く芸術の軌跡は、これからも続いていくことだろう。

もちろん私も人類の端くれとして、芸術に携わり、表現していく。

形を問わず、媒体を問わず、時を問わず、表現していく。

これもまた人の営み。歴史を紡いでいるのだ。


まぁ、如何にもな事を言っているが、






「安達って何故か絵が上手いよな。」

「何故かってのは余計だろ。まぁ、才能ってやつかな。」

「調子に乗っていてムカつくが、マジで上手いんだよな。」


いやぁ、ひけらかさなくても明るみに出るもんだなぁ。優れた能力ってのは。

伊江、もっと褒めていいんだぞ。もっと崇めていいんだぞ。


美術の授業で描いた絵が廊下に掲示されているのを見た友人が同姓同名の別人だと勘違いしていたので指摘してやったら何故か驚かれた。

解せぬ。私はその時の丹野の『ウソだろ……!?』って呟きを聞き逃さなかったからな。


しかし何故か流れで放課後にお絵描き大会が開催された。

そこまで私の絵心に対して懐疑的にならなくてもいいと思うんだけど。


「実はゴーストライターがいるとか思ってたぜ。」

「いや、降霊術とかで芸術家の霊を降ろしている可能性もあるな。」

「伊江、丹野。いくらお前たちの絵が小学生みたいだからと言って、嫉妬は良くないぞ。」


やれやれ。才能ある人間はいつの世も僻まれるものだな。

これも定めってやつか。


「俺らの絵が上手いとは言えないが、そこまで調子に乗られるとムカつくな。」

「あの鼻っ柱をへし折りたくなるぜ。少なくとも小学校時代よりは成長している、はず。」


マウントを取るのは気持ちがいいなぁ!はっはっは!

勉強も運動もマウント取れるほどではないから、ここぞとばかりに調子に乗るぞ!


「実況・解説・司会進行・審査員の竹塚、よろしく。」

「さぁ、現在は安達選手が独走しています!他の選手は追いつくことが出来るのか!?次のお題は、『消火器』!スタート!ところで僕の役割多すぎない?」


沙耶は委員長の手伝いに行っちゃったし、親方は家の手伝いがあるからって帰っちゃたから仕方ないね。


そして時は流れ、全員の絵が完成し、


「勝者、安達!」

「審判?腹減ってないか?コロッケパン買って来てやるぞ?」

「こら!丹野!賄賂で審判を買収しようとするんじゃない!不正だぞ、不正!」


当然の如く私が勝利したのであった。

勝利を認められないからと言って不正をしたところで、それで偽物の勝利を手にして嬉しいのだろうか。丹野には憐みの視線を向けてやろう。


「つーかマジで、なんでこんな絵が上手いんだ?解説の竹塚、説明を頼む。」

「中学の頃から一緒だったけど、安達は美術部とかではなく、昔から今に至るまでずっと帰宅部なんですよね。僕も出会った頃から割と絵が上手かったと記憶しているので、ほんとに才能はあるかも知れませんね。」

「しかも!絵に関しては努力もしているぞ!」


以前クレーンゲームで才能を発揮した時、努力は一切していないって言ったらブーイングされたことを思い出す。

それに比べて今回は努力したのは事実だから、きちんと喧伝していく。


「努力って、帰宅部だから家に帰ってから描いてるとかか?」

「いや、違う。」

「休日に何かしらの創作活動をしてるとか?」

「それも違う。」

「じゃあ、いつ努力してるんだ?まさか夢の中で頑張ってるとか言い出すんじゃないだろうな?そもそもどんな努力をしてるんだ?」


おいおい、そんな訳ないだろう。

起きてる時にやってるよ。


「そんなの決まってる。授業中に努力してるのさ!」

「美術の授業で描いてるだけじゃねぇか!」


丹野、誰いつ美術の授業なんて言った?


「美術だけじゃないさ!他の授業中も頑張ってるぞ!




落書きを!」


胸を張って答える!

皆が無言になる。

そこまで感心しなくても良いぞ?賛美の言葉を投げかけてくれれば良い。


「解散、帰るか。」

「そうですね。」

「待て待て。何故この努力を賞賛しない?」


いきなり帰ろうとするんじゃないよ。


「いや、お前、それは努力とは言わないんだよな。」

「あんまり遊んでばっかりだと課題手伝ってあげませんよ?」


おかしい、私の才能を発揮するターンがいつの間にか終わって、呆れられている。


「その手があったか!」

「丹野?」

「しまった、こいつもか。」

「よし!オレも授業の時間を利用して絵の練習だ!」


丹野は理解してくれた。努力の尊さを。こいつは成長が期待できるな。

しかし、


「今更気づいたところで私の画力に到達することが出来るかな?さっきの現国の授業中も描いていた私の画力に。」

「へぇ~、さっきの『私の』授業中も落書きしてたんですね。」

「そうそう、我ながら努力家だと思うよ。」

「ふ~ん、努力家ですか。」

「安達、後ろ後ろ。」

「え?」


伊江に後ろを向くように言われ、振り向くと、そこには


「安達くん。」

「はいっ!何でしょうか、保木先生!」

「後で職員室に来なさい。そこで我関せずの表情をしている丹野くんも。」

「え!?オレもっすか!?」

「当たり前でしょう!授業中に落書きをすると声高らかに宣言している君もお説教です!」


我らが担任の保木先生がいた。いつの間に。

そして職員室に呼び出しをくらってしまった。

伊江と竹塚に助けを求める視線を飛ばす。


「まったく、こんな時間まで教室の電気がついていたから誰かいるのかと思ったら。」

「あ、僕達そろそろ帰りますね。」

「先生、さようならです。」

「はい、さようなら。気を付けて帰ってくださいね。」


しかし見捨てられてしまった。


「それじゃ、君たちは先生と一緒に職員室に行って努力とは何なのかについてお話しましょうか。」


伊江と竹塚は帰宅し、私と丹野は職員室へとドナドナされてお絵描き大会の幕は下りた。

勝者は私だし、マウント取れたから良しとしよう。




さて、今回はどんな言い訳をしようか。

日が沈んだ空を見上げながら、そんなことを考えて職員室へと向かうのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る