図書室

「ようこそ、図書室へ。私は君を歓迎しよう。」

「…………どうしてこうなった?」


とても既視感のある光景。

具体的には目の前の人物をつい最近見たような気がする。






「竹塚、課題を………」

「予定があるので。」

「そんな!?」

「ソシャゲでイベント中なので忙しいですよ。」


いつものように竹塚に課題の手伝いを頼んだら断られてしまった。

伊江はバイトに向かい、親方も帰宅。丹野は頼りにならないし、私は一体誰を頼れって言うんだよ。


「それは忙しいって言わないだろ。友達とソシャゲのどっちが大切だって言うんだよ。」

「友達ですね。」

「それなら………!」

「なのでソシャゲのイベントを進めます。」

「なのでじゃないじゃん!」


この男、本当に友達の事を選んだのか?

『なので』と言う言葉の後に続くのは私を手伝うと言う選択肢ではないのか。


「仕方がありませんね。助っ人を頼りましょう。」

「助っ人?」

「連絡はしておくので図書室に向かってください。」

「図書室?静かにしてなきゃいけないところじゃないか。」

「勉強は基本的に静かにするものだと思うのですが。まぁ場所の指定に関しては彼が図書委員長だからですね。」

「それは理由になっているのか?課題を手伝ってもらえるんなら文句は言わないけど。」


そして私は図書室に向かい、カウンターに座っている図書委員に話して委員長を待つ。

そこに現れたのは………




「ようこそ、図書室へ。私は君を歓迎しよう。」

「…………どうしてこうなった?」


とても既視感のある光景。

具体的には目の前の人物をつい最近見たような気がする。

具体的には生徒会室で。

生徒会長に迷惑をかけている姿を。


「失礼しました。」

「まぁ待ちたまえ。私の友人から聞いているよ。課題を手伝って欲しいんだろう?」

「生徒会長でもないのに生徒会室に入り浸って、生徒会長の椅子に座っている人から教わることは無いと思うんだけど!」

「あそこは居心地が良いし、あの椅子は座り心地が良い。ならば仕方がない事さ。」


ヤバい。変な人に絡まれた。絶対適当に人選しただろ。竹塚、恨むぞ。

そして前回出会った時はよく見てなかったけど、この人同学年かよ。

こんな変人が図書委員長やってるなんて初耳だぞ。

少なくともまともに課題を手伝ってくれる人には見えないんだが。


「そもそもテスト廃止に賛同してた人が頭良いとは思えないんだけど。」

「ふむ、それは偏見だね。私は得意教科に関してはテストなんて必要ないし、やるにしても苦手教科だけで十分だと思っているからね。」

「えぇ、嘘臭いんだけど。」

「竹塚くんのお墨付きなのだかね。君は友達を信じないのかい?」

「そんな事はない!………ないんだけど………。」


竹塚はなんだかんだ言って助けてくれるし、信じられる。

しかし眼前の人物は変人と言う印象しかないので信じづらい。


「今は昔、竹取の翁といふ者ありけり。野山にまじりて竹を取りつつ、よろづのことに使ひけり。」

「あ!なんか教科書で見た事のあるフレーズ!」

「名をば、さぬきのみやつことなむいひける。その竹の中に、もと光る竹なむ一筋ありける。」

「あれ?この人、実は賢いのか!?」


教科書の内容を暗記できるなんて頭が良さそうに見えるぞ。

しかし納得いかない。

あんな変人ぶりを見せつけて来た長谷道が頭良いとか、世の中理不尽だ。

絶対馬鹿だと思ってたのに。


「ふふ、人は見かけに依らないと言う事さ。安心したまえ、竹塚くんに頼まれたからにはしっかりと助けてあげよう。」


し、信じても大丈夫なのだろうか。

頼っても大丈夫なのだろうか。

賢さアピールは十分だが、どことなく胡散臭い。

あと頭が良いからと言っても教え方が上手いとは限らないし。

しかし、私一人では課題をやる気にならない。ここは手を借りるとしよう。


「さて、何の教科の課題を手伝って欲しいのかい?」

「えっと、化学なんだけど。」

「時に安達くん。」

「ん?」

「人には得手不得手があると思わないかな?」


ちょっと待て、何を言っているんだ、この男は?

まさか………


「長谷道、得意教科と苦手教科ってあったりするのか?」

「やはり自身の短所を補うよりも長所を伸ばす方が良いと思うのだよ。」

「長谷道、得意教科と苦手教科は?」

「もちろん。努力はするけど、必ずしも実を結ぶとは限らないと言う訳だ。」

「長谷道?」


嫌な予感がするぞ。

具体的には長谷堂が役立たずの可能性が上昇してきた。


「文系は任せてくれ。特に歴史が得意なんだ。」

「いや、今は化学の課題を………。」

「こう見えても水兵リーベと言うフレーズは覚えているんだ。」

「長谷道、苦手科目は?」

「理数系は要努力、と言ったところかな。」


なるほど。

竹塚、人選をミスっているぞ。

いや、この人物が現れた時点で人選ミスを感じていたけど。


「長谷道先輩、本を返しに来ました。」

「おぉ、良いところに。厳嶋さん、生徒会庶務として困っている生徒に救いの手を差し伸べてはくれないだろうか。」

「あの、先輩?私1年生なので2年生の教科書を見せられても分からないのですが………。」


以前生徒会室にいた1年生の女子生徒を頼り出したぞ。

本格的にダメそうだ。


「時に厳嶋さん。予習は大切だと思うんだ。みんなで勉強をしていこうじゃないか。」

「え?え?」

「君には将来性を感じているからね。ここで成長を遂げれば、生徒会役員として皆からは憧れの視線を向けられるだろう。」

「長谷道先輩?」


長谷道が謎の理論で勧誘する。

可哀想だが、道連れは何人いても良い物だ。

結局、長谷道の口車に乗せられた厳嶋は迎えが来るまで図書室で勉強していくのであった。

しかし将来性を感じると言われたのはあながち間違いではないかも知れない。

途中から勉強を見てもらったし。




後輩に勉強を教えてもらってとても微妙な心境にはなったけど。

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