生徒会室
「ようこそ、生徒会室へ。私は君を歓迎しよう。」
「…………どうしてこうなった?」
おかしい。何故私は生徒会室にいるのだろうか。
さっきまでテストを廃止したいと言う会話を教室でしていたはずなのに。
「やっぱりテストは必要ないと思うんだ。」
「でもなかったら安達とか勉強しねぇよなぁ。」
「うん!」
「元気良く返事する事じゃないですよね。」
だってめんどくさいじゃん。
めんどくさい事を回避したいと思うのは当然の事なんだから、自信を持って返事をしただけだぞ。
「つってもよぉ、テストを無くしたいってんなら先生に直談判でもすんのかぁ?」
「いや、いきなり先生に話しても説教されそうだし………。」
「そりゃそうですよ。しかし、安心して下さい。僕に策があります。」
「碌でもなさそうだなぁ。」
流石は竹塚。どんな時でもその頭脳に隙は無いな。
親方はもっと竹塚を信じるべきだと思うぞ。
「生徒会に殴り込みです。」
「え?」
「生徒会に殴り込みです!」
「いや聞こえなかったんじゃねぇと思うぞ。」
何を言っているんだろうか、この男は。
どうせまた漫画か何かを読んで影響を受けているのではないだろうか。
「この前読んだ漫画で、厳しい校則によって学校の秩序を維持しようとする生徒会と、その状況を打破しようとする生徒の対立が描かれていまして。面白かったんです。」
「最後が雑。」
「でもまぁ、生徒会に直談判ってのはロマンがあるなぁ。談判する内容は一蹴されるもんだけど。」
面白かったからと言うのは実に竹塚らしいが、親方も一定の理解を示したのは意外だ。
しかし、
「そもそも私は生徒会室の場所とか生徒会長の顔とか知らないし、生徒会室ってなんか入るのを躊躇うぞ。」
「大丈夫です。生徒会室の場所なら知ってますし、皆で行けば怖くはないですよ。」
「笑顔で友達を地獄に落とそうとしている奴がいる。」
「そんな酷い人がいるんですか?」
「おめぇだよ。」
何が大丈夫なのかさっぱりだが、竹塚は乗り気だ。
しかも私たちが怒られることを一切考慮していない。
「でも、人生で一度くらい、生徒会室に突撃してみたくないですか?」
「分かる。」
「俺は家の手伝いがあるから帰るぞぉ。」
「早速仲間が一人減ったんだけど。」
「いざ出発です!」
なんか生徒会室に行く流れになって気が付けば生徒会室の扉の前にいた。
こうなったら覚悟を決めるしかない。
「し、失礼します!」
「ん?電話が来ちゃいましたね。先に入っててください。」
「え!?竹塚!?」
今まさに生徒会室に入るとなった瞬間に竹塚のスマホに電話が掛かって来て離れてしまった。
そして私一人で生徒会室に入るに至る。
「ようこそ、生徒会室へ。私は君を歓迎しよう。」
「…………どうしてこうなった?」
本当にどうしてこうなった?
いかにも生徒会長が座ってそうなポジションにいる男子生徒からは歓迎の言葉を投げかけられるが、一回出ていきたい。
こうなったら勢いでやってやる!
「私は思うんです!テストは不要なのではないかと!」
「あぁ、そうだね、私もそう思うよ。非常に憂慮していると言っても良い。君の提言は是非、生徒会会議で取り上げさせよう。」
おっと?なんか思った以上に話に理解を示しているぞ?
私の予想では速攻で否定されて追い出されると思ったんだが、やっぱり生徒会長になるだけあって器がデカい。
「あの、
「あぁ、
生徒会長の名前は長谷道と言うのか。
そして厳嶋と言われた女子生徒は恐らく苦言を呈そうとしたのだろうが、長谷道はあくまで話を聞く姿勢を崩さない。
これはもしや本当にテスト廃止があり得るのでは?
「そうじゃなくて、たぶんそろそろ
「長谷道ぉ!」
「あぁ、お帰り、鐘ヶ崎会長。」
んん?会長が戻ってくる?
一体何のことだ?生徒会長は目の前にいる、明らかに生徒会長が座っていそうな席に座っている長谷道じゃないのか?
そんな事を思っていると私の後ろから怒鳴り声が聞こえる。
後ろで大声を出さないでほしい。びっくりした。
声の主は眉間にしわを寄せた女子生徒だった。
「『お帰り』ではない!お前は毎度毎度、生徒会役員でもないのに生徒会室に入り浸って何なのだ!」
「この椅子って座り心地良いと思わないかい?」
「よし、出ていけ。」
「ふむ、この生徒会長様は来訪客を追い返すと言うのか。」
え?この人、生徒会長じゃないどころか生徒会のメンバーですらないのに堂々と生徒会長の椅子に座ってたのか?
しかもまだ居座るつもりらしい。
控え目に言って常識を疑う。
「えぇい!
「了解。」
「長谷道さんも懲りないね。」
「いやぁ、生徒会長としての地位や権力には興味が無いけど、ここは居心地が良いからね。」
長谷道は鳥場と伏実と呼ばれた二人の男子生徒に連行されていった。
「騒がしくしてすまないね。君は……ネクタイの色を見るに2年生か。何か相談事かな?」
「あっ、いえ、大丈夫です。失礼しました。」
鐘ヶ崎会長はこちらに向き直り、キリっとした表情で要件を尋ねる。
しかし先ほどのやり取りを見ていると私の『テスト廃止案』を伝えるのを躊躇われるので生徒会室からすぐに出て行った。
流石に凄まじく苦労人感が漂っている生徒会長にあんな提案は出来ない。
「お待たせしました。あれ?もう戻って来たんですか?」
「竹塚、帰ろう。生徒会って大変なんだな。」
「?まぁ良いですが、いつか生徒会室に突撃したいですね。」
「止めてやれ。」
なんかヤバい人が度々入り浸ってるっぽいし、これ以上変人を増やすのは気が引ける。
それにしてもあんな変人がこの学校にいたなんて知らなかった。
………知りたくなかった。
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