エアホッケー
「ふっ、中々やるじゃないか。竹塚。」
「安達。」
「しかし勝負はこれからだ。」
「安達。」
「そう簡単に私を打ち倒せると思ったら大間違いだぞ。」
「安達。」
「なんたって私はまだ勝利を諦めていないんだからな。」
「安達。
全部安達が自滅してるだけなんですけど。」
「違う!」
0対9。
10点先取の勝負に置いて、私は追い詰められていた。
そう、このエアホッケー対決で竹塚に追い詰められていた。
「これはハンディだ!」
「はぁ。」
「竹塚は運動が苦手だからな。ハンディ無しで戦ったら勝敗は決まり切っているだろうし、これは私の思いやりなんだ。」
納得していないようなリアクションだけど、本当だぞ?嘘じゃないぞ?
だから自滅とか言うな。
呆れたような表情をするな。
むしろ勝負はこれからなんだよ。
逆にこの状態から完封出来たら凄いじゃん。
カッコいいじゃん。
「でも第一投で『千手必勝!』とか叫んでましたよね。」
「気のせいだろ。」
「しかもそれを言うなら『先手必勝』ですよね。なんですか。千手って。千手観音にでもなるんですか?」
「マジで!?………センジュカンノンってなんだ?なんか聞き覚えがあるような気がするけど、思い出せない。」
「知らないのに千手必勝なんて言ってたんですか…………。」
はっ、なんだかまた馬鹿にされているような気がする。
むしろ記憶が曖昧なのに言葉が出て来るって賢くないか?
「そこはきっとアレだ。私の脳内の奥深くに眠る記憶から出て来たんだ。」
「安達の脳みそがそんなに奥深い訳が無いじゃないですか。」
「いやメッチャ奥深いかも知れないだろ。深すぎてフカフカだぞ。」
「今の発言の時点で浅さはかさがありありと伝わってきますね。」
おかしい、私の高い知性をアピールしたはずが、何故か全く理解されていない。
私の知性に対して偏見に満ち溢れ過ぎでは?
「でも正直ハンディって言われても納得出来る部分もあるんですよね。」
「だろ?」
この際、私の知性の話は置いておくとして、竹塚もハンディと言う部分については納得出来るようだ。
まぁ自分の運動能力の低さは自分が一番理解しているだろうから、それも当然か。
ハンディがあってようやく勝負になるだろうから。
「あれだけ打ちまくったのに、全部反射して自分のゴールに吸い込まれる様は、実はわざとやってるんじゃないかって疑いたくなるくらいですよ。」
「…………だろ?まぁ、うん。ざっとこんなもんよ。凄いだろ。凄くテクニカルだろ。」
た、竹塚が納得してくれるなら………そう言う事にしておいても良い。
全力で打って、反射して、それに対処出来なかったとか、そんな情けない認識をされるくらいなら、敢えて反射させてハンディを付けると言う高等テクニックを発揮したと言い張ろう。
いやぁ、高等テクニックを発揮してしまうと、稀に私が失敗したんじゃないかって勘違いされてしまうから困ってしまう。
「しかも伊江がトイレに行ったから待っている間に始めたのに、ものの1分程度でこのスコアですかね。」
「これで伊江が戻ってきたら9対9のドラマティックな激戦感を演出している事になるんだよ。これこそが私の計算という訳だ。」
それまでに私が巻き返せれば、良い感じの勝負をしていると思われるだろう。
このままでは私がエアホッケーが弱いみたいに思われてしまう。
いや実際の所は自滅で間違いではないんだけど。
自滅を自滅の様に見えなくすることもテクニックの1つだし。
「でも言い訳している間に戻って来ましたよ。伊江。」
「なぁ、俺が離れてる少しの時間で何があったんだ?アレか?安達が先に9点取ったから、立ち位置を逆にしてハンディでもつけてやったのか?」
「ま、まぁ似たようなもんだ。」
しまった。
グダグダと話をしていたら伊江が戻ってきてしまった。
仕方が無いのでここはハンディを上げた路線で行くとしよう。
「わざわざ面白そうな状況にして待っててもらって悪いな。」
「伊江も戻ってきたことですし、そろそろ安達の本気を見せてもらいましょうか。」
あぁ、これは本気を出さざるを得ないか。
諦めなければ勝機はある。
私が竹塚の攻撃を防ぎつつ、10回連続で得点すれば良いだけだ。
覚悟を決めよう。
「………う、うおぉぉぉぉ!とりゃあぁぁぁぁ!」
カッ!と言う音と共に、私の打ったパックは目にも留まらぬ速さで盤上を滑る。
そして竹塚は反応しきれずに見事、ゴールへと吸い込まれていくのであった。
「安達、もうハンディは良いんですけど。」
「ダセェな………。」
私のゴールに。
「……………本当の勝負はこれからだ。」
「もう勝負終わってるんですけど。」
「もう一度勝負をしたいって言うなら安達の方にハンディを付けといた方が良さそうだな。」
カッコ良く決めようとしたけど、2人には呆れられてしまった。
これはアレだ。変に反射しまくるパックが悪い。
あんなに反射されたら軌道の予想も反応も出来ないぞ。
しかし伊江もこの難しさを理解すれば偏見を改めるだろう。
是非とも伊江に自滅、じゃなくて対戦させなくては。
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