キュウリと茄子

「この前、田舎の爺ちゃん家に行ったんだけどさ。」

「はい。」

「やっぱ、うちの爺ちゃんは凄いわ。」

「どう凄いんですか?」


竹塚の家でゴロゴロしながら、田舎の爺ちゃんを話題に上げる。

これを聞いたら竹塚も驚くだろう。

私も驚いた。


「竹塚、知ってるか?お盆ではキュウリと茄子で馬と牛を作るんだ。」

「知ってますよ。錬金術ですよね。でも生命の錬成は禁忌とされているんですよ。それをやった国家錬金術師はとても印象的でしたね。」

「竹塚、マンガを読みながら聞くのは良いんだけど、私の話とマンガの内容をごっちゃにしないでくれ。」


なんで田舎の爺ちゃんが錬金術師なんだよ。

別に生命の錬成なんてしてなければ、ましてや禁忌なんて犯してないから。

爺ちゃんが錬金術使えるんだったら私も教わりたいわ。


「それでアレですよね。トレーナーになってキュウリの馬を育ってレースするんですよね。」

「違うから。しないから。ソシャゲの話はしてないから。」

「上位3名はレース後にライブをするんですよね。」

「違うから。しないから。しかもキュウリの馬のライブってなんだ。」


キュウリを育てるって、それもうただの農家の人じゃん。

トレーナーじゃないじゃん。

でもキュウリの馬がライブをするって、逆に気になるぞ。

一体どんなライブをやってくれるんだ。


「それとアレですよね。茄子の牛はご先祖様を乗せてあの世に帰るんですよね。」

「違………わない。急に普通の話に戻ったな。」

「そして牛はご先祖様を送り届けた後、スタッフの皆さんで美味しくいただかれました、と。」

「食品だから間違ってないけど、スタッフって言うか家族の皆でだろ。」


急にまともになったかと思えば、やっぱりそうでもなかった。

なんでバラエティー番組風に言ったし。


「つまり安達のお爺さんは競馬のあらゆる賞を総なめにする伝説レベルの名馬を育て上げ、麻婆茄子でお祝いをした、と言う事ですね。」

「と言う事ですね。じゃないから。前半の偉業に対して後半はただ単に麻婆茄子を食べただけじゃん。」

「知らないんですか、安達?麻婆茄子は選ばれし者にのみ、食べる事が許された料理だったんですよ。」

「え、そんな言い伝えあるの?初耳なんだけど、その選ばれし者ってどんな奴なんだ?」


うちの爺ちゃん、麻婆茄子は恐らく食べた事あるだろうけど、トレーナー、もしくは競馬関係の事をやってたなんて話は聞いたことが無い。

しかし麻婆茄子に選ばれる奴って一体何者なんだ?

那須さんとか?それとも茄子を栽培している農家の人とか?


「辛い物を食べても大丈夫な人です。」

「だとしたら世の中に選ばれし者溢れすぎだろ。」

「皆、選ばれし者って事ですね。誰もが特別な世界なんて素敵じゃないですか。」

「そう言われると、そう………なのか?」


確かに少ししか特別である事が認められなくて奪い合う世界よりも、誰もが特別で自分を誇れる世界の方が平和で優しいだろう。

それを言われると、そっちの方が素敵だと思える。

辛い物を食べられる人だって、食べられない人だって、皆特別なんだ。

しかし何かを忘れているような気が…………


「…………はっ!いや私が話したかったのは特別とかそう言う事じゃなくて、爺ちゃんがキュウリを彫って、組み合わせて、馬を作ってたんだよ。超クオリティが高くて驚いたんだ。ほら、写真撮らせてもらってさ、見てくれよ。」


私の爺ちゃんの作り上げた傑作を撮影したので、その写真を竹塚に見せる。

これを見て驚かない人間はいないだろう。


「これは凄いですね。でも手先が器用な所を見るに、安達のお爺さんなんだなって思います。」

「私の器用さは爺ちゃん譲りなのかもしれないな。」

「ちなみに茄子で牛を作ったりは?」

「流石にそっちは無かったぞ。」

「まぁ難しそうですもんね。」

「まだ完成してないから見せられないって。出来上がったら写真を送ってもらうんだ。」

「作ってはいるんですね。」


まぁ爺ちゃんならそろそろ完成品の写真を送って来てもおかしくは無いが………

そんな事を考えていると、スマホが振動する。


「ん?爺ちゃんからメールが届いた?『遂に完走したぞ。凄いじゃろ。』?」

「完成の部分が誤字で完走になっちゃったんですかね。」

「いや………。」

「違うんですか?」

「ソシャゲのスクショが送られてきた。レースで1着になったやつの。」

「お爺さんはトレーナーだったみたいですね。」


もしかしてまだ完成してないって言ってたのって、ソシャゲをやってたから作るのが遅れているとかじゃないだろうか。

そんな事を考えていると、再びスマホが振動する。


「また爺ちゃんからメールだ。『ついでにこっちも完成したぞ。』って、茄子の牛の写真が添付されてる。」

「ついでなんですね。」

「まぁ、爺ちゃんらしいっちゃらしいけどな。」


相変わらずマイペースな人だ。

まぁ爺ちゃん的にはキュウリの馬と茄子の牛を作るよりも、ソシャゲの方が難しくて達成感があったのだろう。

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