気炎
「うおぉぉぉぉ!」
「はあぁぁぁぁ!」
「…………ペンを握ったまま叫ぶな。」
「ふんがあぁぁぁぁぁ!」
「せいやあぁぁぁぁぁ!」
「……………ペンを置いて叫べって言ったんじゃねぇんだよ。」
安良川先生、今、集中しているんです。
私も丹野も眼前の問題に対して気合を入れているんですよ。
「チラッと抗議の目線をこちらに送るな。と言うかさっきから叫んでばっかりでプリントは白紙じゃねぇか。とっとと進めろ。」
「安良川先生、何事も精神論だけではダメだと思うけど、気合的なのも大事だと思うんですよ。」
「そうか、それなら口じゃなくて手を動かせ。」
「冷たい!」
なんて冷淡な教師なんだ。私のクラスの担任、保木先生を見習うべきだろう。
完全にスルーされたぞ。
「てかなんでオレたちの担任じゃない安良川先生が補修をしてるんすか?」
「保木先生も忙しんだよ。お前ら馬鹿共だけに時間を割くわけにはいかないんだ。」
「先生!それは暴言だと思います!伸びしろの塊って言ってください!」
「そーだそーだ!PPAとか教育委員会に告げ口するっすよ!」
「そういうのは赤点を取らなくなってから言えっての。あと丹野、PPAじゃなくてPTAな。」
くっ、私達の主張が通用しない。
と言うか保木先生が忙しくて来れないのに安良川先生がいるって事は、
「安良川先生暇なんですね。」
「よし、安達には課題追加だ。このプリントもやっとけ。」
「横暴だ!」
「ほれ、とっとと手ぇ動かせ。」
しまった、余計な事言ったせいで課題が増えた。
こうなったら、
「先生!丹野も告げ口とか言って脅迫すると言う生徒にあるまじき行いをすると公言してます!こいつも罰が必要だと思います!」
「は!?道連れにしようとすんな!」
「丹野はイエローカードってとこだな。安達は小賢しい事言って丹野を道連れにしようとしたから課題追加。」
「ぎゃあぁぁぁ!」
くぅ、世の中は理不尽だ。
原因は私だろうけど、そう感じざるを得ない。
「安達、人の事を道連れにしようとするからだぜ?自業自得ってやつだ。確かに安良川先生は理不尽な鬼だけど馬鹿ではないからな。」
「丹野のくせに四字熟語なんて使いやがって………。」
「丹野、課題追加。誰が理不尽な鬼だって?」
「ぐあぁぁぁぁ!」
丹野が墓穴を掘ってるぞ。笑える。
「いや安良川先生、あれっすよ。鬼ってカッコ良くないっすか?安良川先生もカッコいいから鬼って表現しただけっすよ。」
「百歩譲って鬼がカッコいいって認識で言ったとしても理不尽って言葉も聞こえてたからな。」
丹野が心にも無い言い訳をするが通じない。
安良川先生は保木先生と違って一筋縄ではいかないようだ。
それでも私は現実に抗おう。
「安良川先生!」
「なんだ安達。追加の課題でも欲しいのか?」
「違います!先生、よく考えて見て下さい!私と丹野がこんな量の課題を今日中に終わらせることが出来ると思いますか!?」
「…………頑張れ。」
暗に無理だって認めてるじゃん。
出来るとか出来ないとか言う前に出てきた言葉が激励の言葉って無理だって思ってる証拠じゃん。
しかしこれが突破口になるだろう。
いや、突破口にするんだ。
「このままだと私と丹野どころか、先生まで帰れなくなると思うんですよ。でも先生の貴重な時間をこれ以上奪い続けるのは心苦しいです。なので課題をもう少し達成可能な量にしても良いと思うんですよ。」
「そこで頑張るって選択肢にはならねぇのかよ。」
「頑張っても厳しいと思うので頑張れば達成可能な量にするのが一番だと思います!」
「安心しろ。お前ら問題児をこのまま世に出すのは教育者として抵抗がある。きちんと面倒見てやるから安心しろ。今日中に終わらないってんなら明日も明後日もあるぞ。」
交渉失敗。
それどころか未来が灰色に染まっていったぞ。
それに丹野はまだしも私まで問題児扱いは酷いと思う。
「先生!オレと安達が問題児ってのは異議ありっす!」
どうやら丹野もそこは理解しているようだ。
問題児は丹野だけだからな。そこをしっかり主張してやれ。
「安達はともかくオレは問題児じゃないっすよ!」
「おい丹野、何言ってんだよ。逆だろ、逆。」
「お前ら『五十歩百歩』とか『どんぐりの背比べ』ってことわざ知ってるか?」
「知りません!」「知らないっす!」
「自信満々に言ってんじゃねぇ問題児共。はぁ、保木先生の苦労が嫌と言うほど理解できるぞ。」
安良川先生はため息をついている。
丹野、あまり先生を困らせるんじゃない。
そんな事を考えていると教室の扉が開く。
「安達くん、丹野くん、頑張ってますか?」
「あれ、委員長?」
「どうしたんだ?」
「お姉ちゃんが忙しくて補修を見てあげられないって言ってたから、代わりに様子を見に来たんですよ。」
「保木か。こいつらならあーだこーだ言って全然進んでないぞ。」
安良川先生、真実だけど、それは言わないでいてほしかった。
「安達くん、丹野くん。安良川先生が忙しい中、時間を作ってくれているんです。真面目にやらないとダメですよ。分からないところがあったら先生に聞いて少しづつ頑張りましょう?」
「まぁ、委員長がそう言うなら。」
「少しは頑張るぜ。」
委員長は穏やかに励ましてくる。
流石に委員長にそう言われては真面目にやらざるを得ない。
「お前ら、俺が真面目にやれって言った時にも、これくらい素直に聞けよ………。」
安良川先生の力ない呟きは虚空へと消えていった。
だって委員長ってなんか困らせたらダメそうな雰囲気が漂ってるんだもの。
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