座禅

「なぁ、こいつ何やってるんだ?」

「……………。」

「さぁ?」

「……………。」

「まぁ安達が理解不能な事をするのはいつのも事ですからね。」

「……………。」

「それもそうだな。」

「聞けよ!私に!」


伊江は私の行いに疑問を抱くが、竹塚と沙耶に何をしているのかと聞く。

私には聞かずに。

張本人たる、私には、聞かずに。


「いや、安達が奇行に走るのはいつもの事だと思って。」

「普段からそこまで変な事してないだろ。」

「…………………………………そうだな。」

「伊江、どうやら私もエスパーになったようだ。今の間は私が普段から変な事をしていると思っているけど、それを言うと面倒くさそうだからとりあえず肯定しておこうって感じの『そうだな』だろ。」

「良く分かったな。流石は安達だ。お前も日々成長しているんだな。」

「だろぉ?まぁ私は本気出せばこれくらい余裕だ。」


伊江は私の頭脳に驚いているが、これくらいは当然だ。

この明晰な頭脳を持つ私に見通せない真実は無いのだから。


「で、結局何をしていたんですか?」

「座禅。」

「それは見れば分かるからな。なんでそんな事してたかって事だよ。」

「敦の事だし、どうせ座禅をしていれば賢く見えそうとかそんな感じでしょ。」

「ソンナコトナイヨ?」

「片言じゃねぇか。」


流石は沙耶、私の事をよく理解している。

しかし賢そうに見えるからという理由では逆に馬鹿っぽくなりそうなので否定するが伊江に突っ込まれる。


「ただちょっと悟りを開こうと思って。」

「悟りを開くのにちょっとも何も無いだろ。悟りの認識が軽すぎるからな。」

「ちょっとだけ、ちょっとだけで良いから!」

「凄く雑に悟りを開こうとしてますね。」

「これで悟れたら全世界のお坊さんを敵に回すわね。」


良いじゃないか。気楽な感じでカジュアルに悟れても。

だって真面目に修行とか絶対に無理だし。


「結局、賢そうに見えるってだけの理由で座禅なんてしてるんですか?」

「それだけじゃないぞ。」

「残りの理由もしょうもない内容に1票。」

「むしろまともな内容だったら驚きよ。」

「散々な言われようだ。しかし!聞いて驚け!」


私が座禅をしているもう一つの理由。

それは!


「天国に行くための修行だ!」

「はい解散。」

「伊江、飲み物でも買いに行きましょうか。」

「そうだな。」

「待て待て待て!なんで掘り下げない!」


こんなにも興味を持てそうな理由の最初の部分を話したと言うのに、続きを聞こうともせずに解散しようなんて。

友達の話はもっと真剣に聞くべきだと思うぞ。


「天国に行くって、そこは座禅をするよりも日頃の行いに気を付けるべきでしょう。」

「甘いな、沙耶。」

「引っ叩くわよ?」

「ごめんなさい!でもなんか歴史の授業中に言ってたじゃん。キリスト教のなんとか説ってやつで天国に行く人間は生まれながらにして決まっているって。だから天国に行く人間=生きている間に良い事をするって。つまり生きている間に悟りを開ければ天国に行く人間確定じゃん。」

「安達が授業の内容を覚えているだと!?」

「マズいですね。天変地異が起きますよ、これは。」

「敦、ごめん。もっと優しくしてやるべきだったわね。」


なんでこんなに色々と言われてるんだよ。

授業の内容くらい多少は覚えているだろ。

私の事を何だと思っているんだ。


「私はいつだって真面目だろう!なんで授業の内容を覚えていただけで、ここまで驚かれたり、心配されなくちゃならないんだよ!天変地異なんて起きないから!外を見てみろ!太陽が輝いているし、至って平和だ!あと沙耶は変に優しいとかえって怖いし、いつも通りのノリの方が楽しいから!そのままで良いから!」

「もしかしたら未知の病気に侵されているのかも知れませんよ!」

「青井を呼んで来よう。あいつなら、あいつの科学力なら安達を救えるかも知れない。」

「いいえ、それよりも救急車を呼ぶわよ。」


なんだこいつら。

そんなに私が授業の内容を覚えていることがあり得ない事だと言いたいのか。

いやこの反応が言葉よりも正直にそう思っているのだと表しているけれど。


「いや確かに授業中に寝てたりボーっとしてたりで話を聞いてない時もあるけど、偶には普通に授業を受けてる時もあるから!天国とか地獄とかについて考えてたら、偶然授業で話してたから覚えてるんだよ。そのなんとか説以外の部分はあんまり覚えてないし。」

「…………安達、免罪符って言葉に聞き覚えはありますか?」

「あぁ~、確か前に親方がなんか言ってたような気がする。」

「ではプロテスタントは?」

「プロテ………なんだって?防御力が上がる呪文か何かか?」

「よかった!いつもの安達ですね!」

「まったく、驚かせやがって。」

「もう、心配したじゃないの。」


馬鹿=私の図式が出来上がってないか?

竹塚の言った単語を知らなくて安心されるとか納得がいかない。


「だがこれでさっきのなんとか説がテストに出ても安心だ!これで私の成績が向上していけばお前らも私の事を馬鹿扱いできなくなるだろう!」

「じゃあさっきから言ってるなんとか説の名前は?」

「……………天国地獄説?」

「予定説ですね。」

「成績の向上は遠そうだな。」

「さっきは凄く心配してたけど、よくよく考えたら敦の成績が上がること自体は良い事だし、むしろ今回の件で真面目に授業を受ける方向に持ってった方が良かったんじゃないの?」


ふっ、沙耶。その考えは甘いぞ。

何故かって?




「さっきも言ったように授業中に考え事をしていた結果、覚えていただけだから、その方向にはいかないぞ!」

「自信満々に言ってんじゃないわよ!」


スパン!と子気味の良い音で引っ叩かれる。

うん。やっぱり沙耶はこれくらいの調子の方が沙耶らしいな。

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