甲子園

「甲子園に行こう。」

「じゃあ次の試合は甲子園球場に設定しておきますね。」

「いやゲームの方じゃなくて。」


なんでいきなりゲームで甲子園球場で試合したいなんて言い出すんだよ。

現実の話だよ。


「むしろゲームに影響されて発言してますよね。」

「そんな事は……………………無い。」

「だいぶ間が開きましたね。」


まぁ、うん。

そう言う見方もあるよね。


「いやまぁ影響されていない訳では無い事も無いかも知れないけれど。」

「図星だったと言う事ですね。監督としてチームを育成して試合を勝ち上がるのは楽しいですからね。」

「しかも3年間って短い時間で行われる激闘にロマンを感じるぞ。」

「運が絡んでくると安達は強いですからね。無駄に。」

「無駄って言うな!」


一言多いんだけど。

素直に私の強運を認めろよ。

日頃からソシャゲのガチャで力を貸しているだろう。


「じゃあ安達は監督になってチームを率いたいんですか?」

「それも良いけど、やっぱりピッチャーも魅力を感じるよな。」

「そうですね。少なくとも安達が監督になったら勝てる試合も勝てないと思いますよ。」

「何言ってんだよ。連戦連勝、向かうところ敵無しだぞ。」

「馬鹿に野球は出来ても、馬鹿じゃ野球で勝てないんですよ。たぶんその敵無しは誰にも相手にされないって意味でしょうね。」

「つまり不戦勝か。」

「トーナメントに参加も出来なければ、栄誉も無いので、ある意味負けてると思いますよ。」


勝利とは何か、深い問いだ。

でも栄誉を求めない戦いって、響き的にはカッコよさを感じる。


「それに安達、そんなに体力ある訳じゃないし、コントロールが良いわけでもなければ、球速も大したこと無いじゃないですか。ばかすか打たれて敗戦投手になりそうですよね。」

「いや、それは、ほら………主人公パワー的な感じで成長していくんだよ。これから。きっと。」

「安達がスポーツもので主人公はちょっと無理があると思いますよ。高2でこれはベンチにすら入れるか怪しいですし。」


痛いところを突かれる。

確かにピッチャーを務めるにあたって重要なコントロール、スタミナ、そして球速のいずれも優れているとは言えない。

更にスポーツもので成長が特に期待できるのは1年生の様に将来性があるキャラクターだ。

しかも2年生の夏が終わりを迎えようとしている今、時間は1年と残されていない。

そんな状況で爆発的な成長が期待できるかと言われると、本当に主人公サイドのキャラクターでもない限り厳しいだろう。


「じゃあ私は一体どんなポジションなら合うって言うんだよ。」

「応援に来た一生徒とか、特にセリフが無い相手校、またはダイジェストで敗退する高校のモブ生徒辺りですかね。」

「甲子園に行けてないじゃん。モブじゃん。めっちゃ地味じゃん。」

「応援に来た一生徒なら、もしかしたら甲子園にいるかも知れませんよ。大阪に行ったついでに観光も出来ますよ。」


大阪、観光、たこ焼き、通天閣、テーマパーク、近くに京都…………悪くないかも知れない。

大阪、遊びに行きたいな。

しかし今は甲子園の話の真っ只中。

私をこき下ろした竹塚だって運動が苦手だし、反撃の機会はまさに今だろう。


「それなら他の奴らは?例えば竹塚とか、運動できないからモブ選手にすらなれないぞ。」

「僕は持ち前の頭脳を監督やマネージャーとして発揮できるので。」

「もしくは応援に来た一生徒だな。」

「応援に来た一生徒でも解説役ができるので。」


うーん、確かに竹塚の優れた頭脳は認めざるを得ない。

それなら私の観光のお供に連れて行くとしよう。


「でも私たちの友達の中でも、絶対に全員の認識が一致しそうな奴がいるぞ。」

「じゃあ『せーの』で言ってみますか?せーの」

「「親方。」」


完全に一致。

親方を知っている他の友達に聞いても同じ答えを返すだろう。

それほどまでにポジションのイメージにピッタリなのだ。


「ですよね。」

「見た目からして4番打者のキャッチャーってイメージがある。」

「実際、力は強いですし。それにホラー系は苦手ですが基本的に落ち着いていますからね。」


親方、大柄で力があるから大体のスポーツで活躍できるんだよな。

ホラー系以外だったら、どっしり構えてて精神的な強さもあるし、チームの支柱になれる存在感がある。。

そうだ、閃いた!


「って事は親方に野球部に入部してもらって、私達がそれをプロデュースして甲子園を目指すって方向でいけば、もしかしたら………。」

「安達、知ってますか?野球って1人だけが強くても勝てないんですよ。」

「それなら他の野球部員を鍛えて………。」

「そんなにゲームみたいに上手くはいきませんよ。ハッキリ言ってウチの野球部は弱小じゃないですか。」


うん。それを言われると否定できない。

野球部の奴らには悪いが、正直強いイメージが無い。

練習試合でも、公式試合でも、大体負けてる。

勝ってる方が少ないし、不真面目って訳ではないがそこまで熱量を持ってやってるって訳でもなさそうだし。


「それに、親方は家の手伝いがあるから部活には入りませんよ。」

「そう言えばそうだった。でも助っ人的なポジションで………」

「公式大会でそれは無理があるでしょう。」


そっかー。無理かー。


「仕方がない。普通に甲子園込みの大阪観光にしておくか。」

「もはや普通に大阪に行きたいだけになってますね。」


だって楽しそうじゃん。

いつか皆で行きたいぞ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る