キャラメル

「長谷道!貴様、貴様ぁ!」

「おや、私のお土産はお気に召さなかったかい?」

「むしろどうしてこれで喜ばれると思った?伝えるべき情報を伝えず、相手の反応を伺い、自身の娯楽とするなど、言語道断!」


ある日の放課後、廊下で何やら言い争う声が聞こえて来た。

チラリと言い争っている人物を見てみると、そこには長谷道と鐘ヶ崎がいた。


「何やってるんだ?長谷道と会長は。」

「やぁ、安達くん。北海道に行ってお土産として買ったキャラメルがあるんだけど、君も食べるかい?」

「お、マジで?ありがとう。」

「あ、待て!」

「うん。甘くて美味………んん?」


長谷道が北海道土産としてキャラメルを渡してきた。

普段は変な事ばかりしていて、碌でもない奴だと思っていたが、たまには良い所もある物だ。

しかし私がキャラメルを口に運ぶ直前、鐘ヶ崎がそれを止めようとする。

普通に甘くて美味しいキャラメル、と思ったが、何だろう、これキャラメルだよな?


「遅かったか………。」

「なぁ、長谷道。お前がくれたのって、確かにキャラメルなんだよな?」

「もちろんだとも。実際、キャラメルの味がするだろう?」

「あぁ、うん。最初はキャラメルの味がしたんだよ。けど、何と言うか、食べてる途中から味が変わったような気がしてさ。何とも言えない、微妙な味なんだよ。その、こう言っちゃ悪いけど、個性的?な味だよな、このキャラメル。」


長谷道に私が食べた物は本当にキャラメルなのか確認するが、そこは間違いなくキャラメルのようだ。

それにしては何やら普通のキャラメルとは違った味がする。

最初こそ甘みを楽しめたが、食べ進めていくうちに、何とも言えない、微妙な味が顔を出してきたのだ。

しかしそれでも私が食べた物はキャラメルだと、長谷道は言う。

本当に長谷道は変な物を渡していないのだろうか。

私の味覚に何らかの異常でも生じたのだろうか。

そう頭を悩ませていると、鐘ヶ崎が長谷道に話しかける。


「長谷道、安達2年生にお前の渡したキャラメルの正式な名称を教えてやれ。」

「『ジンギスカンキャラメル』だね。」

「ジン………なんだって?」

「『ジンギスカンキャラメル』だね。」

「一体何なんだ。」

「北海道土産の、ジンギスカンの味がするキャラメル。つまりは『ジンギスカンキャラメル』だよ。」

「そう言う事を聞いてるんじゃない。」


なんだよ、ジンギスカンキャラメルって。

なんでそんな物を買って来た。

そしてなんでそんな物を友達に渡すのだ。

自分で一回食べてみろ。

そして自分のやった事の酷さを理解しろ。

そんな事を考えていると、鐘ヶ崎は先程の続きと言わんばかりに怒りが再燃する。


「何故そんな物を渡してきたかと聞きたのだよ!」

「北海道のお土産はいらなかったかい?」

「だから、貴様は、この………!悪意しかないチョイスをしたのは何故かと聞いているのだよ!」


怒りながらも、その感情に振り回されないように自分を抑えつつ長谷道を問い詰める鐘ヶ崎。

うん。気持ちはとても分かる。

誰だってそう思うだろう。

私もそう思った。

でも長谷道だぞ?


「そんな事、決まっているじゃないか。」

「楽しそうだから、か?」

「もちろん!」


私が長谷道の考えていたであろう事を口にすると、満面の笑みでそれを肯定する。

殴りたい、この笑顔。


「『もちろん!』じゃない!他の人の迷惑を考えろ、貴様は!」

「でも『うしのうんこ』とか、『ヒグマのはなくそ』というチョコレート菓子よりはマシじゃないかい?」

「比較対象が地獄過ぎるだろ。」

「それを渡された日には間違いなく受け取り拒否と共にグーパンチをお見舞いする。と言うか今でも殴りたいくらいだ。」


なんでそれが選択肢に入るんだ?

自分で食べろ。

もっとあるだろ、まともな北海道土産。

むしろ数あるお土産の中から、よくそんなとんでもない物を発見できたものだよ。

しかし長谷道は一切悪びれず、鐘ヶ崎に向けて囁きかける。


「でも鐘ヶ崎さん。」

「なんだ?弁明は受け付けない。しっかり反省しろ。」

「安達くんがジンギスカンキャラメルを食べた時の微妙そうな表情、自分が食べた後だと、なんだか面白くなかったかい?」

「そ、それは………」

「ダメだ、会長!その悪魔の囁きを聞いてはいけない!」

「他人を悪魔扱いとは酷いね。だって鐘ヶ崎さんは、最初こそ止めたけど、安達くんが食べてしまった後はじっくりと様子を見ていたじゃないか。」

「そ、そんな事は………ない………。」

「良いんだ。自分に正直になりなよ。愉悦を感じる事は悪い事じゃ無いんだ。」


自分のやった事を棚に上げて鐘ヶ崎を悪の道へと誘導しようとする長谷道。

他人の不幸は蜜の味なんて言うらしいけれど、意図的に不幸を作ろうとするとかマジで悪魔って言われても仕方が無いと思うぞ。

しかし鐘ヶ崎は長谷道の話を聞いて、道を踏み外そうとしている。

鐘ヶ崎が長谷道化したら悪夢としか言いようが無いし、助け船を出すとしよう。


「でも根本的な原因は長谷道だよな。」

「はっ!長谷道、貴様!私は騙されないぞ!」

「ちっ、惜しかったね。」

「安達2年生、礼を言おう。危うくこの詐欺師に言いくるめられる所だった………。」


危うくと言うか、洗脳完了していたのでは、と思わなくもないが、そこは言わないでおこう。

あと長谷道は少しくらい反省しろ。

そして自分でもジンギスカンキャラメルを食べてみろ。

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