しりとり

春休み、竹塚の家にて。


「しりとりをしよう。」

「リボン。わー、負けちゃいました。流石は安達ですね。」

「意図的とかそういうレベルを超えた強引さで終わらせようとするんじゃない。」


間髪入れずに『ん』の付く単語を使用する竹塚。

どれだけしりとりをやりたくないんだよ。

あと流石とか言われても、いくらなんでも今のでは誤魔化されないぞ。


「しりとりをしたいなら課題を終わらせてからにして下さい。」

「ぐっ………きゅ、休憩も大事だろ?」

「そうですね。」

「なら「5分前に休憩したばっかりですけどね。」………。」


課題に勤しみ、疲弊したのであれば休憩は重要。

なので私が休憩したいと、それとなく伝えるが、竹塚も誤魔化されてはくれなかった。

でも5分って結構な時間だと思うぞ。

カップ麺が作れるのだから。

竹塚には拒絶されたが、それでも息抜きがしたい。

何か良いアイデアは無いだろうか………


「………そうだ!課題の教科に関連する単語で返してくれよ!それなら勉強しつつ息抜きになるんじゃないか?それに良い感じの勝負になりそうだし。」

「仕方がないですね。まぁそれくらいのハンディを付けたところで安達に負ける事はあり得ないと思いますが。」


よし、通った。

竹塚は若干呆れた表所をしているが、それでも私は自分の意思を貫いたのだ。

これで面倒な課題も、少しは気楽に挑めるだろう。


「最初の課題は古文だ。『しりとり』。」

「『り』です。」

「りです?」

「『らりるれろ』の『り』ですよ。」

「単語ですらないじゃん。適当過ぎるだろ。」

「古文の助動詞ですよ。」

「なるほど。とりあえず『り』だから『リンゴ』だ。」

「絶対理解してないですよね。」


具体的にどういう事なのかは分からなかったが、取り敢えず古文に『り』がある事は分かった。

5分くらいは覚えているだろう。

5分後には忘れているかも知れないけど。


「よし、数学の課題をやろう。次は『ゴ』だぞ。」

「『合成数』です。」

「あー、あれか。『ごーせーすー』か。知ってる知ってる。光に当たると酸素を出す奴だろ。」

「それは光合成ですね。なんで数学の言葉なのに理科の言葉が出てくるんですか。」


言われてみればそうだった気がする。惜しかったな。

でもどっちも『合成』って付いてるし………


「響きが似てるから、つい。じゃあ『う』だから『牛』だ。あと理科な感じの気分になったから科学の単語で頼む。」

「『CO2』ですね。」

「それなら分かるぞ!あれだろ?酸素!」

「二酸化炭素です。酸素は『O』ですよ。」

「でも『O』が入ってるし。で、『つー』だから『つ』か。『爪楊枝』だ。」


二『酸』化炭『素』の中には『酸素』があるから。

ちょっとオマケが付いてるだけだから。

二化炭ってなんかどっかにありそうな響きだし。


「それとアルファベットが出て来て英語な雰囲気だな。次は英語に関連する言葉で返してくれ。」

「英語に関連って言うか英単語ですよね。でしたら『Genius』です。」

「『じーにあす』?あー、あれか。ジーパンの最上級的な。」

「ジーパンの最上級って何ですか。意味が分からないですよ。」

「こう、最高級の、最上級の、良い感じのジーパンって事だろ。『す』か、『スイカ』だ。」


きっと大金持ちとか石油王とかが履いてるんだ。

だから私たちは普段ジーニアスと言う単語を耳にしないんだ。

そう考えると説得力があるんじゃないだろうか。

竹塚は『馬鹿だ、こいつ』みたいな目でこっちを見てるけど、気にせず次に行こう。


「次は歴史な気分だ。」

「『寛永通宝』ですね。」

「通報?かんえーさんがなんかやらかしたのか?」

「その通報じゃないです。あと誰ですか、かんえーさんって。」

「………お坊さん?」

「確かに居そうな響きですけど。」


そうだろう?

竹塚の同意に私はドヤっと自慢げな表情になる。

竹塚に同意されたと言う事は実在が確定したと言う事だ。

多分近所の寺に行ったらいると思う。

もしくは歴代のお坊さんの中に1人くらいはいると思う。


「で、課題は進みましたか?」

「気持ち的には進んだ気がしない事も無い!」

「つまりは進展皆無って事ですね。」


違うんだ。

進んだ気がしないことも無いんだ。

つまり、もしかしたら、きっと、あわよくば、1%くらいは進んでいると言う可能性を考慮しても良いと思うんだ。


「まったく………。これじゃ進学するにせよ、就職するにせよ、卒業した後が不安で仕方がありませんね。」

「その時は新しい寄生先を探すから大丈夫。」

「……………。」

「冗談だよ、冗談!そもそも今回の春休みの課題は普通と同じ量だし、こうして最終日じゃなくても取り組んでるだろ?」

「それが普通なんですけどね。」


今後の事を心配する竹塚。

私は冗談めかして返答をしたが、竹塚は真に受けたかのようにジト目でこちらを見てくる。

いくら何でも本気にしないでもらいたいんだけど。

と言うか本気でそんな事をするように思われていたのか。

それに私の成長を普通呼ばわりしてるし。

そこそこ長い付き合いだけど、竹塚はまだ私の事を真に理解しきれてはいないようだな。


「私は常識に捕らわれない男だから。」

「常識に捕らわれない事と常識を知らない事とは別物なんですけど。」


サムズアップして笑顔で自身の在り方を伝えるが、竹塚はそれに対しても呆れを顕わにする。

おかしい、今のはカッコよく決まったと思ったのだが………。

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