ラジオ体操

「安達、丹野、知っていますか?」

「何を?」

「ラジオ体操って、実は暗殺拳の修行の一環なんですよ。」

「マジで!?」


体育の授業や体育祭とかの準備運動の時にやってたけど、そんな真実が隠されていただなんて………。

そう考えると学校は暗殺者を育成する機関だったのか………。

案外、外国人が抱いている日本のイメージである日本国民は皆忍者と言うのも真実だったりするのかも知れない。


「あらゆる動きは暗殺拳の技に通じているのです。」

「じゃあ、こう身体を上に伸ばすやつは?」

「アレは両腕を降ろした状態から裏拳によって油断していた敵を倒すための技です。鍛錬を積めば、技の起点が見えず、相手は何をされたか分からないまま倒されるのです。」


暗殺拳って派手なイメージがあったけど、意外と地味だ。

まぁでも、そんな物なのか。


「すげぇ!じゃあ腕をクロスさせた状態から左右に広げるアレはどうなんだぜ?」

「アレは両腕でガードすると見せかけて素早く腕を広げる事で風の刃を発生させ、敵を切り刻む技です。ガードすると見せかければ敵は攻撃が来ないだろうと油断するので不意を突けるんです。」


いや、派手な技あったわ。

でも風の刃って、今まで腕を広げても出せた試しが無いぞ。


「じゃあ、腕を回すやつは?」

「アレは円の動きによって敵の攻撃を受け流し、攻撃の隙を作る技です。攻撃する隙が無いのならば作れば良いと言う事ですね。」


派手かと思えば普通の武術っぽい事もやっている。

円の動きって言われると大体武術っぽく感じられるな。


「じゃあ、腕を広げて上半身を後ろに逸らすアレは?」

「アレは腕を広げる瞬間に相手の攻撃を弾く技ですね。先ほどの腕を左右に広げる技と対を成す技で、受け流すだけではなく弾くと言う択を増やすことで敵に読まれにくくなるのです。」


私達も攻撃を受け流したり弾いたり出来るのか。

風の刃とかよりは簡単そうだし、機会があったら試してみよう。


「じゃあ身体を横に傾けるやつは?」

「アレは気配を消して敵の真横に近づき、遠心力によって力を最大限に発揮した手刀を叩き込む技です。正面はもちろん、背後と言うのは最も隙が出来る面だからこそ防備を固めます。なので敢えての横から攻撃すると言う虚を突く技ですね。」


確かに奇襲って後ろから的なイメージがあるし、そう考えると理に適っている、のか?

そもそも真横に近づける時点で背後を取ることも出来そうだけど………。


「じゃあ立った状態で身体を前屈させてから後ろに逸らすアレは?」

「アレは足元にある物を拾うと同時に全力で投げつける動作ですね。身の回りにある物全てを武器にして戦う事を想定しているので。」


確かに格ゲーとかでもアイテム使ったりするし、おかしくは無いか。


「じゃあ身体を捻じるやつは?」

「アレは先程の足元にある物を拾うと同時に全力で投げつける動作の腰元バージョンですね。投擲出来る物が常に足元にあるとは限りませんので、腰くらいの高さにある物でも応用出来るようにしているんです。」


環境を最大限に利用して戦う、なんか本格的に暗殺拳っぽいかも知れない。


「じゃあ両腕を上に伸ばすアレは?」

「アレは跳躍によって頭上を飛び越えようとする敵や、頭上から奇襲を仕掛けて来た敵を倒すための技です。一見して簡単そうに見えますが、実は平面だけではなく、立体的に空間を認識する能力が必須とされる高度な技なのです。」


ジャンプで自分を飛び越えようとするなんて、どんだけジャンプ力が高い敵を相手にする想定をしているんだ。

でも頭上からの奇襲対策と言われるとおかしくは無い、のか?


「じゃあ片足の方に前屈してから少し両腕を広げて上半身を逸らすやつは?」

「アレは先程の風の刃を発生させる技を攻撃的にした技ですね。全力で腕を振り抜くので腕をクロスする方と比べると隙がありますが、その分威力は申し分ないです。」


風の刃シリーズ第2弾が来たか。

強攻撃と弱攻撃みたいな関係か。


「じゃあ上半身をグルングルン回すアレは?」

「アレは周囲への範囲攻撃ですね。囲まれた時に一斉に攻撃されてもこの技を使う事で切り抜けることが出来ます。」


そんなにリーチが長くないような気がするけど、範囲攻撃って言われると不思議とリーチが長そうに感じる。


「じゃあジャンプして両腕を広げるやつは?」

「アレは敢えて隙を作る事で敵の攻撃を誘発させる技です。守りが巧みな相手と対峙する時に有効ですね。」


敢えて隙を作る。これも武術の達人感が出ているな。


「じゃあ腕をクロスしてから広げてを繰り返すアレは?」

「アレは両サイドへの攻撃技ですね。攻撃範囲が狭い分、先程の上半身を回す技よりも出が早く、隙が無いのが利点ですね。」


範囲攻撃シリーズもあった。

バリエーションが豊富そうで、豊富じゃないのか?暗殺拳。


「じゃあ深呼吸は?」

「アレは特殊な呼吸法で身体能力を上昇させ、代謝を促進する事で傷を癒す技です。これまでに述べてきた技は深呼吸によって身体能力を上昇させたからこそ出せるのです。」


最後の最後でクンフーっぽさが出て来たな。

でもクンフーって武術の達人が使ってそうなイメージがあるし、暗殺拳に組み込まれていてもおかしくは無いか。


「ラジオ体操ってすげぇんだな。オレ達って実は暗殺者として育てられてたんだなんて、初めて知ったぜ。」

「全くだ。日本人は全員、潜在的な暗殺者だったのか。」

「いえ、実はこの事実を知っている人間は一握りだけでして。戦前は暗殺者の育成を兼ねて行われていたのですが、それを知る人間は戦後、GHQによって消されていったのです。」

「マジで!?」

「オレ達も消されたりしねぇか、それ!?」


聞かなきゃ良かった。

これではラジオ体操から学んだ暗殺拳で対抗するしかないではないか。


「大丈夫です。誰にも言わなければバレません。」

「竹塚が私達に言ってるじゃん。」

「安達と丹野が誰にも言わなければバレません。」

「分かったぜ、オレ達だけの秘密だぜ!」


なんか実質巻き込まれただけなような気がするけど、聞いてしまったものは仕方がない。

いつ刺客に襲われるか分からないし、とりあえずこれからは真面目にラジオ体操をしなくては。

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