新商品

ある日の放課後。


「…………なぁ、沙耶。」

「何よ?」

「コンビニってさ、たまに『なんでこんな物作ったんだよ』って言いたくなるような商品が並ぶことがあるよな。」

「そうね。」

「でもさ、そう言う商品って、買うのに結構勇気が必要じゃん。」

「そうかしら?」

「必要なんだよ。」


時折見かける謎の新商品。

確かに変な物過ぎて目を引いたりするけれど、だからと言ってすぐに買いたいと思う訳ではない。

むしろ買う事を躊躇う物が多々ある、


「で、買うにしてもよっぽど気に入ったりしないと何個も買ったりしないじゃん。」

「そうね。」


仮に挑戦してみようと思っても、精々1個2個がいいところだ。


「沙耶。」

「だから何よ?」

「なんでそんな大量に怪しい新商品を買ったんだよ。」

「怪しいなんて失礼ね。これを作った人に申し訳ないと思わないの?」

「いや作った人を悪く言いたいんじゃなくて…………」


そうじゃないんだ。

別に作った人をどうこう言いたいんじゃない。

私が言いたいのは、


「流石に買い過ぎだろ。」

「別に良いじゃない。」

「微妙な商品だった場合、私にも食べさせてくるじゃん。」

「敦に食べ物を分けてあげるなんて、優しいと思わない?」

「分けられてるのが普通の食べ物だったら思うだろうけど、普通の食べ物は分けてくれないだろ。」


微妙な物に限って消費する手伝いを要求される。

人はそれを優しさとは言わないんだよ。


「で、味はどうなんだ?」

「…………まぁ、食べられない事も無いわね。」

「それ微妙だったって事じゃん。」

「敦、あんたにも分けてあげるわ。感謝しなさい。」

「するか!」


どう感謝しろと。

食べるけど。

沙耶が大量に買い込んだ謎のチョコレート菓子を1個手に取り、口に運ぶ。


「なんだ、この、甘いような、けどしつこく口に味が残って、そんなに沢山は食べなくていいかなって感想を抱くぞ。」

「たくさん分けてあげるわよ。」

「今さっき沢山は食べなくていいような味わいって言ったよな!?」

「食べなくていいって事は、食べられない訳ではないのよね。」


揚げ足を取るんじゃない。

この食感、流石に2人で食べきるのは厳しいぞ。

もう少し協力者が欲しい。

そんな事を考えていると、偶然にも1人の生徒が教室を訪れた。


「あ、伊江!良いところに!」

「…………じゃ、また明日な。」

「全てを察して逃げるんじゃない!」

「伊江、ほら、あんたにも分けてあげるわよ。」

「分かったから回り込むな。押し付けるな。」


流石は伊江。理解が早い。

しかし逃がすものか。

私と沙耶は回れ右した伊江を捕まえる。


「………あとどれくらい残ってるんだ?」

「これくらいよ。」

「多いな。買い過ぎだな。」

「それさっき私も言ったぞ。」


誰だってそう言う。

私だってそう言った。


「良い事を考えた。」

「良い事?」

「頼るべきは友人って事だな。安達を見てたら思い付いたんだ。」

「まぁ確かに私は他人に頼るべき時に頼る人間だけど、私を見てたらって言うのは褒められてるのか?」

「早速援軍を呼ぶかな。」

「聞けよ。」


困った時、誰かに頼るのは大事な事だ。

しかし、なんでか馬鹿にされているような気がしたんだけど、気のせいだろうか。

伊江は私の疑問を無視してスマホを手にする。


「あ、竹塚?今暇か?まだ学校にいるか?そうか、じゃあちょっと教室に来て欲しいな。いや、別に大したことじゃないんだ。うん、じゃあまた後でな。」

「竹塚は来てくれるのか?」

「あぁ道連れを1人確保したな。」

「出来ればあと1人くらい欲しいぞ。親方は?」

「今日は家の手伝いがあるみたいだな。」

「丹野は部活みたいだし………。」


竹塚に連絡して道ずれを確保出来たようだが、それでも追加で道ずれが欲しい。

しかし当てがない。

そんな事を考えながらお菓子の山を消化していると、


「…………。」

「あら?今教室の外に誰かいなかったかしら?」

「気のせいだろ。」


沙耶が何かに気付く。

私と伊江はそれに釣られて教室の外に視線を向けるが、そこには誰もいなかった。

すると程なくして竹塚から伊江に連絡が来る。


「あ、竹塚からメッセージが来てる。」

「なんて言ってた?」

「『急用が出来たので残念ながら協力できません』って書いてあるな。」


急用なら仕方ない。

しかし内容に違和感を覚える。


「伊江、竹塚にはこの大量のお菓子の事を伝えたのか?」

「いや、伝えてないな。」

「「「……………。」」」


私達はそれぞれ顔を見合わせる。

つまり…………


「さっき教室の外にいたのは竹塚で、」

「この光景を見て、なんで呼ばれたかを理解して、」

「気付かれる前に逃げ出したって事ね。」

「沙耶、伊江。喜びも、困難も分かち合ってこその友達だよな。」

「あぁ。」

「そうね。」

「「「捕まえ(ましょうか)るか。」」」


この瞬間、私達の意思は一致した。

即座に教室を出て、凄まじい速度と連携で竹塚を確保する。


「待って下さい。落ち着いて話をしましょう。」

「落ち着いているぞ。落ち着いて竹塚を捕まえただけだ。」

「それだけ元気があるなら沢山食べられそうね。」

「口より先に顎を動かしな。」

「こんな横暴は許しま、むぐぅ!」


伊江はチョコレート菓子を喋っている最中の竹塚の口に突っ込む。

困難を共に乗り越える事で絆は深まるって言うけど、溝も深まってそうな気がするぞ。

まぁ、なんにせよ捨てると言う選択肢は無いから消費するしかないんだけど。

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