ドアノブ
放課後、私の前に長谷道が現れた。
何故か笑顔だけど、一体何を言いだすつもりなんだ?
「という訳で、ドアノブを付けようと思ったんだ。」
「は?いや、何が『という訳で』だよ。」
会話早々に意味が分からないぞ。
何?ドアノブ?
「長谷道が変な事を言うのはいつもの事だとして、もう少し順を追って話をしてくれよ。何が何だかさっぱりだ。」
「安達くんは開かずの間って知ってるかな?」
「覚えてるよ。他でもないお前に引っ張って連れて行かれたからな。むしろなんで連れて行かれたことを忘れてると思われてたんだよ。」
「勉強を教えた3日後には忘れているようなレベルの記憶力、」
なんて評価だ。
と言うか、お前にそんな姿を晒したことないだろ。
その勝手な妄想を正してやらなくては。
「って竹塚くんが言ってたね。」
「…………覚えてるよ。」
まぁ、竹塚には申し訳ないとは思うんだけど、やっぱり詰め込み教育って良くないと思うんだ。
いつもテスト前になって教えてもらおうとしている側だから、そんな事は言えないけど。
これまでの人生で数少ない本気を出した受験勉強も、竹塚に教えてもらったものの、今ではほとんど覚えていないとか言えないけど。
「で、その永篠のサボり部屋、もとい開かずの間がどうしたんだよ。」
「ドアノブを付けようと思ったんだ。」
「説明を端折るな。」
「まぁ実際に見に来てくれた方が早いかな。」
「一体何なんだ…………。」
そして長谷道に連れられて開かずの間と呼ばれる教室の前に向かうとそこには………
「ね?」
「うん。ドアノブだな。」
扉にドアノブが付いていた。
しかしそれだけでは結局何が何だか分からない。
「安達くんは開かずの間と言いながらも、実際は建付けが悪いだけなんて、物足りないと思わないかい?」
「いや、どうでも「そうだろう!そうだろう!」聞けよ。」
開かずの間って言っても、結局永篠のサボり部屋だった訳だし。
これ以上開かずの間について興味を抱くことは無いだろう。
しかし長谷道は私が否定しようとした瞬間に強引に話を進める。
「そもそも引き戸なんだからドアノブなんて必要ないだろう。」
「確かにそれを知っている人からしたらそうだね。けど、何も知らない人からすれば、ドアノブを見たらどう思うかな?」
「………ドアノブがあるから、それを使って押したり引いたりして開けると思うって事か?」
「そう、初見では開き戸だと思う事だろう。これでより開かずの間として完成するという訳だ。」
「開かずの間として完成ってなんだよ………。」
別に完成させなくても良いだろ。
現状で十分だろ。
そんな話を開かずの間の前でしていると部屋の主、もといサボり魔の永篠が現れた。
「あー!ちょっとちょっと、何やってるんすか!」
「あ、永篠。」
「やぁ、奇遇だね。」
「奇遇だね、じゃないっすよ!もしかしてこの教室のドア、直しちゃったんすか!?」
永篠はドアノブを指差して抗議する。
サボり場所を奪われたと勘違いしているのだろう。
「そう思うなら、試してみるかい?」
「ウチのベストプレイスの1つを奪わないで欲しいんすけど。」
「ベストプレイスって………。」
「………あれ?」
「気が付いたようだね。」
「そう言う事っすか。」
永篠がぶつくさと文句を言いながらドアノブに手を掛ける。
そこでドアノブがただ付いているだけで、使い物にならない事に気が付く。
まぁこの教室に入り浸ってサボってる訳だし、気が付くのも当然か。
「長谷道っち、ウチ、あんたの事を勘違いしてたみたいっす!」
「永篠くん………!」
永篠は穏やかな表情で長谷道に手を差し出す。
長谷道も笑顔で永篠の手を取り、握手を交わす。。
ぱっと見、友情を認め合うワンシーンなんだろうけど、どっちも碌でもない変人なんだよなぁ………。
「うちは長谷道っちの事、いつも鐘ヶ崎っちの事を怒らせてばっかりで、謎に面の皮が厚くて、自分にとって都合の良い解釈しかしない、だいたい碌な事をしないダメ人間だと思ってたけど、違ったんすね!」
「永篠くん………。」
「永篠、その認識で何一つとして間違ってないぞ。こいつはそう言う奴だ。」
「安達くん………、君もかい………。」
永篠が今まで持っていた長谷道のイメージを語るが、何一つとして間違っていない。
長谷道は残念そうに永篠の名前を呼ぶけど、自業自得だろ。
ついでに永篠のイメージが間違っていないと教えてやると、長谷道は私の方を向いて残念そうに名前を呼んでくる。
日頃の行いの結果だぞ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます