ネタバレ

「あ、その人物はもうすぐ死んで退場するよ。」

「は?」


今なんて言った?この男は。


「ネタバレとか最低だぞ。見損なった………いや、見損なうほど信頼はしてなかったけど見損なったぞ、長谷道。」

「あれ?とっても信頼されてると思ってたんだけど、おかしいなぁ。」

「あの、ネタバレも何も






歴史の課題なんですから死んで退場するのは当たり前なんですけど。なんなら教科書で登場したページと同じページで死んで退場する事もあるんですけど。」


各教科の課題を出され、竹塚と長谷道に協力してもらっている時の事だった。

まさか唐突にネタバレが飛んでくるなんて思ってもいなかった。

竹塚はネタバレでも何でもないと言いたげだけど、私にとっては十分にネタバレに値するんだ。


「それでも、それでもだ。私の嫌いな物の1つがネタバレなんだよ。」

「へぇ、そうなんですか。長谷道。」

「竹塚くん、たぶん私も同じ事を考えているよ。」


ネタバレはその後の楽しみを奪う残酷な行為だ。

ふとした瞬間に聞いてしまったネタバレは心に大きなダメージを負わせるだろう。

私がそう語ると竹塚と長谷道は顔を見合わせる。

どうした?私の話に感動でもしたのか?


「安達、ネタバレですが、この問題の答えはx=3ですよ。」

「安達くん、ネタバレなんだけど、この問いの選択肢はCが正解だよ。」

「うおぉぉぉ!止めろおぉぉ!ネタバレは聞きたくなーい!」


竹塚と長谷道はニヤニヤとした表情で『ネタバレなんだけど』と言い出す。

私はそれを聞いた瞬間に耳を塞ぎ、声を張って聞かないようにする。

今回はよく聞こえなかったから良いものの、ネタバレが嫌いだと言った瞬間にネタバレをしようとするなんて、とんでもない連中だ。


「安達くん、もう少し静かにしてもらっても良いかな。」

「あ、ごめん。…………ってお前らが原因だろ!」

「まぁまぁ、落ち着いて下さい。これは安達の為にやっているんですよ?」

「は?」


何を言っているんだ、こいつらは?

どう考えても私の反応を見て遊んでいるだけだろう。


「安達はさっき言いましたよね。ふとした瞬間に聞いてしまったネタバレは心に多大なダメージを負わせる、と。」

「それと何の関係があるんだよ。」

「唐突なネタバレを聞かないようにする為の訓練ですよ。僕たちが急にネタバレをして、それを反射的に聞かないようにしましたよね?それで良いんです。そのネタバレを忌避する気持ちを最大限に利用して、悲しみを背負わないように反射神経を鍛えましょう。」

「んんん?そう言われると………筋は通っているのか?」

「もちろんだとも!私たちは友人たる安達くんの為にこうして課題に協力している。ならば反射神経を鍛えるのに協力しても何らおかしくは無いだろう?」


竹塚の言わんとすることは理解出来なくはない。

確かに反射神経を鍛えれば、唐突にネタバレが襲い掛かって来ても身を守ることが出来るだろう。

でも………


「長谷道がそう言うと胡散臭く聞こえるぞ。やっぱり都合の良い事を言って私の事を騙そうとしてないか?」

「長谷道はちょっと黙ってて下さい。安達、安心して下さい。そんな事は無いですよ。自称友人の長谷道はともかく、真に友人の僕の言う事を信じてくれないんですか?確かに今まで数々の作り話をしてきましたが、それは皆に楽しんでもらいたいと言う気持ちからだったんですが、それでも因果応報と言えば因果応報。仕方のない事ですから、納得しますよ。でも、僕は安達が友人を信じる、真の男だと信じていますよ。」

「あれ?自称じゃないと思うんだけど?」

「竹塚………。信じるに決まってるだろ!」

「安達くん?自称の部分を否定してくれないのかい?私達、友人だよね?」


竹塚にそんな事を言われてしまっては信じざるを得ない。

私は友達を信じる真の男だからな。

それになんだかんだ言って竹塚の作り話は楽しんでるし、課題も手伝ってもらっているし、大切な友達だから、信じるに決まっている。

長谷道は、まぁ、友達のカテゴリでも良いけど、なんて言うか、信用が置けない。


「ところで実は宇宙人って北極の地底に住んでいるんですよ。」

「おっと危ない!」


宇宙人まで聞こえてしまったが、それ以降は耳を塞いで聞かないで済んだ。

さっき反射神経を鍛えていなければ続きを聞いてしまったかも知れない。

危ない所だった。


「そうそう、実はこの世界はループしているんだ。」

「聞かないぞ!」


『実は』の部分でネタバレが来ることは予想が出来たぞ!

さっきよりも反応速度が速くなっている。

これも特訓の成果か。


「やりますね、安達。」

「確かな進歩を感じられるね。」

「ざっとこんなもんだ!」


竹塚と長谷道も私の成長を褒め称える。

もっと賞賛して良いんだぞ。




「あ、そう言えば………。」

「おっと、聞かないぞ!」

「課題が進んでいませんでしたね。」

「よし、聞かないで済んだ。」

「課題が全然進んでないって言ってたよ。」

「長谷道!ネタバレ聞いちゃったじゃないか!」

「いやネタバレでも何でもないんだけど。純然たる現実なんだけど。」


二段構えとは卑怯な。

流石にそれは反射神経の特訓の範囲外だろう。

それにそのネタバレは一切耳にしたくない内容だ。


「あー!あー!聞こえない!聞こえない!」

「安達が真に嫌がるのはネタバレよりも課題と言う現実見たいですね。長谷道。」

「これは現実を直視する特訓をしてあげなきゃね。竹塚くん。」


おい、また顔を見合わせてからニヤッとした表情を浮かべるのを止めるんだ。

嫌な予感しかしないから。

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