卒業証書の筒
「天才的な事を閃いてしまった。自分の才能が怖い………。」
「そうか、怖いのか。じゃあ明るみに出さないように厳重にしまっておいた方が良いな。」
「いつもの事ですが安達の自己肯定力は凄まじいですよね。」
「ふっ、それほどの事でもある。…………って違う、話を逸らそうとするんじゃない。」
確かに私の才能は凄まじい物だろうから、そこは評価されるべきポイントだろうけど。
でもそのタイミングは今じゃない。
今は私の天才的なアイデアを教えてやるべきだ。
厳重にしまったりはしないぞ。
「で、今回は何を言いだすんだ?」
「卒業式の時に、卒業証書貰うじゃん。」
「安達は卒業できるか危ういですけどね。」
「危うくないわ!テストの点数と授業態度が悪いって成績表に書かれたりもしてるけど、その分多めに出された課題とか嫌々提出してるから!…………危うくないよな?」
「そもそも多めに課題を出されるのが嫌ならせめて授業中に寝たり遊んだりするな。」
私だって偶には真面目に授業を受けているぞ。
だからテストで0点は未だに取った事が無いし、課題だって授業を聞いていた部分は何となく分かる気がする。
私だって度が過ぎれば本格的にお説教されることくらいは分かる。
つまり程々の、絶妙なラインで手を抜いているだけなんだ。
「とにかく!その卒業証書を入れる筒があるじゃん?」
「ありますね。」
「安達は絶対筒で遊ぶタイプだよな。」
むしろあの筒で遊ばない人間なんているだろうか。
いや、いない。
そう言っている伊江だって、絶対にやった事があるはずだ。
ともあれ、私の言いたい事は伝わっていそうだ。
「そう!伊江、良い着眼点だ!日々の努力で私を理解出来るレベルまで近づいてきたようだな。」
「うっわ、安達と同じ発想レベルとか……。」
「真剣に嫌そうな顔をするんじゃない!」
失礼な奴め。
むしろ誇って良いんだぞ。
と言うか伊江は悪ノリする時は私以上にやんちゃになるじゃん。
認めるんだ、お前もこちら側の人間であると言う事を。
「あの筒で楽器を作りたいとでも言うんですか?」
「竹塚、惜しい!」
確かに楽器も作ってみたい。
その発想も実に良いアイデアだ。
しかし今回は違うんだ。
今回は………
「皆の卒業証書の筒を集めて演奏したい。」
「よし、帰るか。」
「待て、まだ外は明るいぞ。私たちの放課後はこれからじゃないか。」
「安心しろ、外は明るくてもお前のアイデアを聞いた瞬間に俺の表情が暗くなったからな。」
「まだプラマイ0だから!だから落ち着いて話を聞くんだ!それからでも遅くは無い!」
「僕が思うに安達はお先真っ暗ですよね。」
「よし、プラマイでマイナスだな。それじゃ。」
「待て待て待て待て!」
なんで私のアイデアを聞いて表情が暗くなるんだよ。
なんで私のお先が真っ暗なんだよ。
なんでプラマイで判定して友達を置いて行こうとするんだよ。
良いじゃん!卒業証書の筒で演奏会!面白そうじゃん!
「なんで聞いた瞬間に帰ろうとするんだよ!」
「想像以上にくだらない事を言い出したからな。」
「僕はとても安達らしいと思いますよ。」
「やってみたら楽しいかも知れないだろ!」
「途中で飽きて止めるに1票ですね。」
「始まる前に終わるに1票だな。」
なんで演奏会を達成出来ない前提なんだよ。
「とにかく!メンバーを集めよう。」
「誰を誘うんですか?」
「丹野とか?」
「部活に言ってるはずだな。」
「親方は?」
「家の手伝いで帰ってるな。」
「沙耶……。」
「参加してくれないと思いますよ。」
あれ?協力してくれそうな奴がいないぞ?
「じゃ、帰るか。」
「待ってくれ、3人でも演奏会は出来ると思わないか?ピアノの演奏会だって演奏するのは1人なんだ。卒業証書の筒が3人で演奏できない訳が無い。」
「ピアノと卒業証書の筒を並べてる時点で大分おこがましいですけどね。更に言うとビアノは色々な音を出せますけど、卒業証書の筒じゃ『ポン』って音しか出せないじゃないですか。」
「そこは、こう、上手い具合に違いを出して………。」
「それまでにどれだけの努力が必要になるんだろうな。」
でも、でも、卒業証書の筒を良い感じに活用して演奏したいじゃん。
世の中には楽器ではない、それを使って演奏するのかと思えるような色々な物を使って演奏している動画だってたくさんある。
そう考えると卒業証書の筒でも演奏は出来るはずなんだよ。
もっと卒業証書の筒の可能性を信じてみようとは思わないのか!?
「じゃあ卒業証書の筒は一体何に使えって言うんだよ!」
「素直に卒業証書を入れておくべきでは?」
「それな。」
「それは………。」
正論を言われると何も言えないんだけど。
でもいつか絶対に卒業証書の筒の可能性を示して見せよう。
卒業式の日とかに。
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