ゆるキャラ

「ゆるキャラを作りましょう。」

「大変だ、竹塚がおかしくなった。」

「いつもの事では?」


唐突なゆるキャラ発言。

竹塚が変なのはいつもの事だが、今回の発言は今までよりも訳が分からない。

伊江は冷静に言うが、お前、竹塚の事を常日頃からおかしな奴だと思ってたのか。

私もだけど。


「ちなみにその心は?」

「世の中には多くのゆるキャラが溢れています。」

「そうだな。」

「だと言うのに我らが東高にはゆるキャラがいないのです。」

「むしろなんでいると思った。」

「そうだぞ。それなら先に2-Bのゆるキャラを作るべきだろう。」

「大丈夫だ。うちには安達と丹野って言う頭ゆるキャラがいるからな。」


竹塚曰く、東高にもゆるキャラが欲しいらしいが、順番を間違えている。

それを指摘したら伊江は攻撃力高めのツッコミを入れられた。

頭ゆるキャラってなんだ。絶対馬鹿って事だろう。ゆるキャラを使ってキツいワードを言うんじゃない。


「待って下さい。それを言うならB組には親方がいるじゃないですか。」

「見た目からしてゆるさが皆無なんだよな。」

「個性的でいけそうじゃありませんか?」

「さては個性的って言えば許されると思ってるな。」


親方がゆる、キャラ?

性格的にはキツくは無いけど、少なくとも見た目は緩くない。

確かに伊江の言う通り個性的では済まない程度には緩くない。

緩くない見た目に対して意外と小心者だったり思いやりがあったりする点はギャップでいけそうな気がしないでもないけど。


「仕方がありません。安達と丹野の二人、『あだんの』に2-Bのゆるキャラの座は譲るとしましょう。」

「なんだ『あだんの』って。二人なんだからまとめないで二キャラ作ればいいだろ。」

「でも頭ゆるキャラって共通点もありますし、融合しても問題ないかなって。」

「問題しかないから抗議してるんだよ。あと頭ゆるキャラってカテゴリ止めてくれ。」

「仕方がありませんね。」


やれやれと言った表情で竹塚は言うが、やれやれと言いたいのはこっちだよ。

なんで融合してそんなカテゴリに入れて考えようとしたし。


「脱線してましたが、東高のゆるキャラを作りましょう。」

「この話自体が暴走列車みたいなんだよな。」

「ゆるキャラ………、校長とか教頭でもデフォルメするのか?」

「何言ってるんですか?」


急に冷静になるな。

一番『何を言っているんだ』と言いたい奴に『何言ってるんだ』って言われたよ。

だってうちの高校って普通のどこにでもある学校だぞ。

校長とか教頭は流石にアレだったかも知れないけど、特徴なんて思い浮かばないんだが。


「特徴、か。変人が多いな。」

「そんなにいっぱい変人なんているか?」

「俺の目の前に二人いるな。それ以外にも沢山。」

「それ程でもありませんよ。」

「え?今のって褒められてたの?」

「誉めてねぇよ。ポジティブが過ぎるんだよな。」


伊江は私と竹塚込みで変人が多いと言うが、私は普通だと思うぞ。

だから褒められたと思わなかったし。


「それを言うなら伊江だって………。」

「普通ですね。」

「つまらない男だ。」

「余計なお世話だ。そもそも毎日のように変人たちを見てると普通が一番だって考えに至るに決まってるな。」


伊江の変人ポイントを探したが、多少はノリがいいが、基本的に小市民的で常識的な振る舞いをしている。変人ポイントが低すぎるのだ。


「じゃあ仮に変人が多い事を特徴と考えてゆるキャラに反映してみましょう。」

「自分で言っといて何だが、その特徴は反映しなくていいし、考慮しなくていいと思う。」

「何言ってんだよ伊江。発案者のお前がそんな消極的な事を言うんじゃない。」

「なんか凄く不名誉に感じるから言わなかった事にしたい。」


何故か伊江は後悔しているが、ゆるキャラ作りは一歩前進だ。

ゆるキャラたる者、埋もれない個性は大切だからな。

むしろ変人が多い事を反映すれば個性的なゆるキャラが出来上がるだろう。


「変人って笑ってる事が多いイメージがあるぞ。」

「笑顔。大事ですね。あと奇抜な動きも必要だと思います。」

「なるほど、着ぐるみを来た時の動きやすさも考えるべきか。」

「それでいてアンバランスさも欲しいですね。」

「非対称って言葉の響き、賢そうだと思うから非対称なアンバランスにしよう。」

「変人が変な事を考えて変な議論を交わしてる。これがカオスって奴なんだな………。」


私と竹塚は意見を出し合い、議論を進めていく。

伊江は何やら呟くだけで議論には参加しなかったが、方向性を決めると言う大役を果たしたわけだし、気にしないでやろう。




「完成だ。」

「流石安達。数多く出た意見を見事に納め切りましたね。」


手足は左右非対称で大きさもアンバランス。

口元は親しみやすいように笑みを浮かべているが、それでいて変人感を出すために両目は別の方向を見ている。

全体的に無造作な配色にする事で目を引くボディ。


「………大丈夫かお前ら、青井に変な薬でも飲まされたりしたか?」

「今日は大丈夫だ。」

「紙面に起こしたので次は公式化しましょうか。具体的に言うと先生とか生徒会とかに持ち込みましょう。」

「正気を疑う物を描いた次は狂気の沙汰に及ぶのか。」

「伊江、いつだって道は私たちの後ろにしかないんだぞ。………このセリフ、やっぱりカッコいいな。また言いたい。」


竹塚の公式化発言に対して伊江は相変わらず否定的に語るが、そこは私のカッコいいセリフで説得しよう。


「俺もう帰って良いかな。怒られる未来しか見えないんだけど。」

「え?立案者が何言ってんだよ。それに伊江が居たら私たちだけで行くよりも怒られづらいかも知れないじゃないか。」

「立案者じゃねぇよ。と言うか俺を連れて行こうとするのは後半の理由がメインだろ。絶対に行かないからな。」

「竹塚、伊江の説得を手伝ってくれ。」


伊江と言う防壁を連れて行こうとしたら断固拒否された。

そこで竹塚の知恵を借りようとするが………




「あ、この後テレビでゆるキャラ特集第二弾をやるんでした。帰りますね。」


え?テレビ?

と言うか、ゆるキャラを作ろうとか言い出した理由って………。

さっきまで熱心に作ってたのに、急に裏切られたぞ。


「伊江。」

「なんだ。」

「帰ろうか。」

「そうだな。」

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