無人島

人は生まれながらにして自由だと言う。

しかし実際はどうだろうか。

誰もが縛られている。

時間に、他人に、学業や仕事に、お金に、ありとあらゆるものに。

老若男女、地位や権力、財力に関係なく、縛られているのだ。

人が真に自由になる事は無いのだろうか。

人は真に自由になることを諦めざるを得ないのだろうか。


そんな事は無い。

自由で在ろうとする意志を持ち続ける限り、人は自由へと向かっていけるだろう。

故に私は心に自由で在ろう意思を持ち続けよう。

そしてあらゆるしがらみから解放されるのだ。


では自由にあって許される環境とはどんな環境なのだろうか。

それは決まっている。






「無人島に行きたい。」

「安達、別に大したことのない雑談だったから良いけど、それ本気で言ってるのか?」

「そもそも口を挟んできませんでしたし、また変な事でも考えてたんじゃないですか?」


失礼な、私は真剣に自由について考えていたんだぞ。

哲学的だし、かなりまともな事だろう。


「一応聞いてみましょう。僕らが何について話していましたか理解していますか?」

「そんなの当たり前だろう。自由になる為に行きたい場所の話だろ?」

「話半分で聞いてたのは理解出来たな。なんだよ、自由になる為に行きたい場所って。」

「無人島。」

「そう言う事を言いたかったんじゃねぇんだけど。」

「それなら伊江は自由を得るためにはどこに行けばいいと思う?」

「お前の姿勢が既に自由過ぎるな。」


何だって!?私は既に自由を得ていたと言うのか!?

日々学校や課題に縛られていると言うのに。

伊江の目は節穴か?


「でも安達、無人島=自由と考えるのもどうかと思いますよ?」

「そうか?自由の象徴とすら思えるんだけど。」

「お前の中の無人島の期待値高過ぎなんだよな。」

「仮に今縛られているものに縛られなくなる代わりに食料とか安全とか天候に縛られるようになりますよ。」

「そこは、ほら、よく無人島に持って行きたい物ってあるじゃん。」

「『持って行きたい』であって『必ず持って行ける』とも限らなければ、『持って行っても役に立たない、使えない』って事を想定してないのな。」


だって無人島だし。

映画とかじゃ漂着物を使って色々な物を作って活用してるし、そう考えると大体なんでも役に立ちそうじゃん。


「なんだよ、否定的な事ばっかり言って。お前らは無人島に行きたくないのか?」

「行きたくないな。」

「安達、あまり無人島を舐めない方が良いですよ。無人島、即ち未開の地。そこには訪れた人を攫い、食べてしまう人喰い部族。海に出て来た生物を全て喰らいつくす暴食の人喰いザメ。森の支配者人喰い熊。空の支配者人喰い怪鳥。島の奥深くには侵入者を排除するための数々の即死トラップを備えた古代遺跡。蘇る恐竜たち。そんな危険なところなんですよ。」

「最初の方は百歩譲ってツッコまないけど、最後の方は有り得ないだろ。」


どうやら無人島に恐れをなして行きたくないらしい。

確かに竹塚の言うような多くの困難や試練があるなら躊躇うのも仕方がないな。

自由になりに無人島に行くと言うのに、有ったのは自由ではなく命の危機だったら意味がない。

でも、


「それはそれで冒険的なロマンがあるぞ。やっぱり無人島って凄い。」

「安心しな。ほぼ全て竹塚の妄想だ。」

「妄想じゃなくて予想ですよ。」

「せめて空想がいいとこだな。」


そんなの分からないだろ。

もしかしたら本当に無人島にいるかもしれないじゃん。

無人島を信じると言う自由を奪わせたりはしない。

しかしそうなると一体どうすれば自由になれるのだろうか。

いや、逆に考えるんだ。


「無人島の試練を乗り越えれば自由が手に入るのではないだろうか。試練の先には何らかの宝があるのが定番だし、その宝が自由でも良いんじゃないだろうか。」

「この際、試練の有無は置いておくとして自由を手に入れるって言うと囚われていた感が半端ないな。」

「無人島で脱獄するんですか?」

「いや無人島で脱獄ってなんだよ。監獄がある時点で無人じゃないからな。まぁそれを言ったらさっきの人喰い部族とかもだけど。」

「そうか、分かったぞ。つまり人喰いザメから逃げきって無人島に辿り着き、人喰い熊と遭遇して遺跡に逃げ込むが、人喰い部族に捕まってしまう。どうにか隙を突いて逃げようとするが偶然にも囚われていた恐竜と出会い、開放する。そして恐竜と心を通わせて人喰い部族や人喰い熊、人喰いザメを打倒して自由を得る。そう言う事だったんだ。」


真に自由になる為の方法がようやく分かった。

この真実に辿り着いたからには後は無人島に行くだけだ。


「少なくとも修学旅行に求める体験や楽しさを遥かに超えているどころか行方不明になってるんだよな。」

「ん?修学旅行?」

「これは完全に無人島発言より前の会話の流れを一切理解していないリアクションですね。」

「ソンナコトナイヨ?」

「片言じゃねぇか。さっきの自由云々言い出した時から察してはいたけどな。」


やっぱり考え事してると周りが見えなくなったり聞こえなくなったりするから仕方がないよね。

しかし私も馬鹿ではない。そう馬鹿ではないのだ。

修学旅行と言うワードから導き出される答え、それは!




「修学旅行でどこに行きたいか、と言う話をしていたんだ!」

「そうですよ。逆に分からなかったら………それはそれで安達らしいですね。」

「そんな犯人を指摘する探偵みたいなテンションで言う内容じゃないんだよな。」

「それならやっぱり自由の話じゃないか。自由行動の時間があるから間違ってないぞ。それにさっきの竹塚の話を聞いてたら無人島も修学旅行の行先として有りなんじゃないかと思えて来た。」

「そうか。一人で行ってこい。」

「皆で冒険したいじゃん。」

「大丈夫です。ボールに顔を描いて名前を付ければ孤独ではなくなると思うので。」


竹塚も伊江もついて来ると言う選択肢が無いようだ。

これはきっと固定観念って奴に縛られているからだな。

私が自由を教えてやらなくては。

無人島で。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る