マンガ肉

「マンガとかアニメとかに出て来た食べ物って美味しそうに見えるよな。」

「唐突だな。けどそれは分かる。」

「だろ?」


いつものように教室で伊江と雑談を楽しむ。

やっぱり食べ物が美味しそうに描かれている作品は名作だと思う。

食事シーンだけでも見る価値はあるだろう。


「そうね。分かるわ。」

「だろ?……いやいつの間に来たんだよ、沙耶。」

「食べ物の話に釣られてきたか。」

「何でもいいじゃない。」

「食い意地が張ってると地獄耳にいだだだだごめんなさいなんでもないです!」

「触らぬ神に祟りなし、もしくは口は禍の元ってやつだな。たとえ思ったとしても言わなければこうはならなかっただろうな。」


伊江と2人で話していたはずが、気が付くと沙耶が隣で私の意見に同意していた。

心の中で思った事が口から出てしまい、沙耶から制裁を加えられる。

伊江、ことわざ的な事を言ってうんうんと頷いてないで助けてくれ。


「あら?伊江も何か言いたい事でもあるのかしら?」

「特に無いな。」

「嘘つけ、絶対心の中で『食欲魔人』とか思ってるだろ。」

「そうだったの?」


沙耶のターゲットが伊江に移りそうになる。

この機会を逃す訳にはいかない。

私が思った事を言ってしまったのが原因だけど、それはそれとして伊江にも被害を分けてやろう。


「俺は欠片も思ってないが、俺がそう思ってるように思うって事は安達がそう思ってるって事だな。だからその攻撃的な笑顔をこっちに向けないでくれ。」

「それもそうね。」

「いだだだだだだだ違うんだそんな事あんまり思ってなあだだだだだ一切思ってないです!」


伊江の反論で結局私に追加の制裁が加えられる。

これでいけると思ったが、詰めを誤ったか……!


「話を戻そう。でっかい骨付きの、いわゆるマンガ肉って食べてみたいと「思うわね。」返事が早い。」

「食い気味にいったな。」

「実際にあったら食べてみたいじゃない。」

「そうだ、伊江。」

「無理だからな。」

「まだ何も言ってないんだけど。」

「どうせマンガ肉を作ってくれなんて言うんだろ?無理だからな。」

「いや、この後親方の所に行くんだろ?親方だったら、もしかしたら作れると思わないか?」

「完全に見た目で判断してるよな。」

「だって親方が原始人のコスプレしたらマンガ肉の1つや2つ持っててもおかしくはなさそうじゃん。」


石の槍を持ってマンモスとか追い回してそうだし、でっかい石で出来たお金とか担いでそう。

洞穴とかに住んでいても違和感が無いぞ。


「また馬鹿な事を言って………。入屋もなんか言ってやりな。」

「アリね。梅嶋に用意してもらいましょ。」

「な?」

「な?じゃねぇんだよ。なんで入屋まで親方ならいけると思ったんだよ。入屋は食べ物が絡むとIQ下がり過ぎだからな。」


ある意味本能に忠実って事だ。

良い事か悪い事かは考えないでおくとして。


「いいじゃない。あの梅嶋よ?家庭科の調理実習で料理の腕前なら確認済みだわ。きっと最高のマンガ肉を用意してくれるはずよ。」

「そう言えば調理実習の時、いろんな班の後片付けを手伝う対価に料理を分けてもらってたよな。」

「いやそういう問題じゃねぇからな。料理の腕とかじゃなくて食材の調達が出来ないだろって言ってるんだよ。」

「でも親方だぞ?」

「その謎の信頼はどっから来るんだよ。」


友達を信じるのは当然の事。

それなら友達がマンガ肉を用意してくれるのを信じても良いじゃないか。


「いやあんなにデカい骨付き肉なんて、現実的に考えて何の生物の肉を使うんだって話だからな。」

「………マンモスとか?」

「とっくの昔に絶滅してるからな。」

「じゃあ象で良いんじゃないかしら?」

「どうやってゲットするんだよ。あと象って世界的に保護対象生物だったような気がするんだよな。」


マンモスはもういない。

象は食べたらダメ。

それならどうすればいいんだ………。


「良い事を考えたわ。」

「今の入屋のIQじゃ不安しかないが、安達の考える良い事よりはマシだと信じて聞いてみよう。」


沙耶が良い考えがあると言うが、それを聞いた伊江は不安げな表情で続きを促す。

と言うか、さり気なく私をディスるな。


「骨も、肉も、料理して作るのよ。」

「想像よりはまともだったな。」

「私の事をあまり甘く見ない事ね。」

「沙耶は食べ物に関しては真剣だからな。」


予想よりも普通な案に伊江は安心する。

まぁ沙耶が食べ物関連で適当な事を言い出したら偽物の可能性があるか体調不良の可能性を疑うぞ。


「あ、私も良い事を思い付いた。」

「………聞くだけ聞こう。」

「青井に遺伝子を、なんかこう、いい感じにアレしてもらって作ってもらうんだ。」

「アバウト。せめてもう少し内容を固めてから言えよ。」

「遺伝子操作……、アリね。」

「入屋は入屋でなんでもだな。」


しかしこうして意見を出し合うのも大事だが、親方に出来るか聞いてみるのも大事だと思うので、




「って言う話をさっきしてたんだけど、親方、どうにか出来そうか?」


本人に聞いてみる事にした。


「入屋が期待に目をキラキラさせてるとこ悪ぃけど、無理だなぁ。」

「…………そう、梅嶋でも無理なら、仕方がないわね………。」


親方でも無理な事があるのか………。

仕方が無いから別の作れそうな物を考えよう。

そして親方のレベルを上げて、いつかはきっと………!

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