魚
昼休み、いつものように学食で食事をしている時、
「竹塚、伊江、聞いてくれ。」
「なんですか?」
「この間ネットで動画を見ていたんだけど、昔の動画があってさ。」
「どんな動画だ?」
私は竹塚と伊江にこの前、初めて知った驚愕の情報を話題に上げる。
「魚を食べると頭が良くなるらしいんだ。」
「…………安達、栄養バランスって言葉を知っていますか?」
「食べ物で頭が良くなるなら誰も苦労しねぇな。」
「栄養バランスくらい知ってるよ!それに食育ってよく言うじゃん。食べる事で身体を作ってるんだから、頭が良くなってもおかしくは無いだろ!」
せっかく驚愕の情報を教えてやったと言うのに、竹塚と伊江の反応は冷ややかだ。
「私が見た動画の中では魚を食べると頭が良くなるって歌ってたんだよ!」
「悪質なネット広告とか詐欺の類じゃありませんかね。」
「でもなんかDHA?とかそれっぽい事言ってたぞ!」
「そもそもDHAってなんだよ。」
響き的にDNAっぽくて理系な感じがするから信じられそうだぞ。
DHAは………たぶんアレだ。D=だいぶ、H=半端なく、A=頭が良くなる、だ。
「しかも昔と今とじゃ科学の進み具合も違いますから、当時は間違った情報が流れていた可能性もありますよ。」
「でも魚を食べるだけなら損は無いだろ?」
「それはそうなんですけど………。だから珍しく焼鮭定食を食べているんですね。」
少なくとも健康に悪い食べ物ではないんだし、試してみても良いだろう。
それに普段は学食で魚をあんまり食べないけど、普通に美味しいから好きだぞ。
竹塚が学食の中で一番好きで良く選んでいる言うのも納得が出来る。
「これで私も今日から天才の仲間入りって訳だ。まぁ元から天才的な発想力を持っていたけど、更にワンランク上に行くことが出来るぞ。」
「その発想が既に馬鹿を色濃く表しているな。」
やれやれ、やはり天才の発想は常人には理解出来ないのか。
残念ながら伊江は普通と言う言葉が人の姿をしているような男と言っても過言ではないから、私の考えを理解出来なくても仕方がないか。
「良いんじゃないですか?これから毎日お昼は焼鮭定食でも。」
「だろ?」
一方の竹塚は流石だ。
天才は天才を知る。
竹塚と友達であることが誇らしいぞ。
「僕は賛成ですよ。焼鮭定食こそが学食No.1のメニューであることを理解出来る同志が出来て嬉しいですね。」
「いや、安達が焼鮭定食派になった訳ではないと思うんだけどな。」
「学食ではカレーこそが最強のメニューだから。」
「安達は一生、焼鮭定食を食べないで下さい。」
「極端だな。」
残念だよ、竹塚。
お前がカレーの美味しさを理解出来ないなんて。
例えお前が焼鮭定食を推したとしても、私はカレーこそが一番だと信じているんだ。
でもそれはそれとして頭が良くなるのだから焼鮭定食を食べるのだ。
「何と言われ様とも私はこれから毎日焼鮭定食を食べ続けるぞ。たとえそれが最後の1つだったとしても。」
「そんな理由で最後の1つを取ったら絶交ですよ。もちろん課題も手伝ってあげません。」
「…………最後の1個じゃなければ毎日焼鮭定食を食べ続けるぞ!」
「妥協したな。」
流石にそんな理由で絶交されるなら妥協くらいするわ。
まぁそもそも焼鮭定食が残り1個なんて事は滅多に無いだろうけど。
何はともあれ、これで私も勉強で困ることは無くなりそうだ。
その日の放課後、保健室にて。
「って言う話をさっき安達くん達がしているのを偶然耳にしてね。御増峠さん、そこの所、実際にはどうなんだい?」
「そうですね~。正確に言うと青魚には飽和脂肪酸、いわゆるDHAやEPAが含まれているんですね~。この成分には血中脂質やコレステロールを減らす効果があるんですよ~。」
「あぁ、あまり詳しくは無いけれど、何となく血中脂質やコレステロールって良くないイメージがあるね。」
「血中脂質やコレステロールって血液をドロドロにしちゃうんですよねぇ~。だからそれらが減ると血液がサラサラになって循環が良くなるんですよ~。」
「つまり健康には良いけれど、頭が良くなると言う事実は無いと言う事かな?」
「いいえ~。それ以外にも脳の働きを活性化する作用もありますので~、全くの無関係という訳ではないんですよね~。でも~」
「本人がきちんと勉強しないと意味が無い、と言う事だね?」
「そうですよ~。」
「至極当たり前の話だね。食べるだけで頭が良くなるなんて都合の良い話は存在しないと言う事だ。」
「でも~」
「でも?」
「長谷道くんがこうしてお魚さんの事について詳しくなったのなら~、それは頭が良くなったともいえますよね~。」
「そうだね。正しく学びを得たよ。流石は保健委員長を務める御増峠さんだ。」
「いえいえ~。でも~栄養バランスも大事ですから~、青魚ばかりを食べて他の食べ物を疎かにするのはダメですよ~。」
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