カラオケ
「さぁ、覚悟は良いな?竹塚。」
「良くないです。」
「言い出しっぺだろ?」
「君たちもノリノリだったじゃないですか。」
「往生際が悪いぜ。まるで安達みたいだぜ。」
「安達と同列に語られるのはとても癪ですが、誰だってそんなドロッとした液体、口にしたくは無いでしょう。」
「え、なんで私、サラッとディスられてるの?」
竹塚の悪あがきに対し、じりじりと迫る私達。
さり気なくディスられたが、それはいったん置いておこう。
「とにかく、竹塚が最下位だったって事実は変わらないからな。」
「そうだぞ。
このカラオケ対決で負けた奴は、勝った奴が作ったドリンクを飲むって提案したの、竹塚だろ?」
「初手から容赦無くとんでもない色と粘度の液体を持ってくるとか正気ですか?まずはジャブからが常識でしょう。」
「常識なんて超えていくのがオレたちだぜ!」
「常識を下回っているだけじゃないですか。」
時は遡り、1時間前。
「という訳で、偶にはカラオケなんて行かないか?」
「別に良いけど、どういう訳だぜ。」
「いや、最近は行ってないなーって思って。」
「まぁ今日は暇だから別に良いけどな。」
「そうですね。久しぶりに皆で行きましょうか。」
その日の授業が終わり、放課後になると私はある提案をした。
それは久々に皆でカラオケに行こうと言うものだった。
丹野、伊江、竹塚もそれに同意し、近所のカラオケへと向かう。
「さて、カラオケに着いて、これから歌う訳ですが、ただ歌うだけよりも楽しく遊びたいですよね。」
「竹塚、お前まさか………」
「全員で一巡歌って採点して、最下位になった人には罰ゲームを受けてもらいましょう。」
「だと思ったぜ。」
「まぁ良いんじゃないか?歌唱力って言う点じゃ、大体全員同じ程度の実力だろ。竹塚が隠れて練習でもしてない限りは。」
「それもそうだな。前に来た時もそんなに点数差は無かったはずだし、不公平な勝負にはならなそうだな。」
竹塚はいつものように罰ゲームを提案する。
伊江の言う通り公平な勝負になるなら、否定するよりも楽しむ方が良いだろう。
それに負ける確率は4分の1だし。
つまりは4分の3の確率で他の奴を苦しめるドリンクを作る事が出来るという訳だ
載らない訳が無い。
「ん?『君が代』?誰だ、国歌入れた奴は?」
「それじゃあ最初は伊江からどうぞ。」
「は!?」
「ほら、もう始まるぞ。」
「おま、ふざけんな!?」
罰ゲームの話をしていると、急に演奏が始まる。
どうやら竹塚がこっそりと曲を入れたようで、伊江が訝しんでいるとマイクを渡される。
困惑しながらも仕方なく伊江は歌いきり、
「79点か、普通だな。ちなみに歌い終わった感想は?」
「いきなり歌わされてこの点数なら十分だな。あと竹塚は殴る。絶対殴る。」
「暴力反対ですよ。」
「めちゃくちゃ卑怯な奴がなんか言ってるぜ。………なんだ、この英語のタイトル?聞き覚え無いんだけど、誰が入れたんだ?」
「じゃあ次は竹塚の番だな。」
「え!?」
「やられたらやり返すのか。」
「しかもさっきの君が代と違って聞き覚えも無い曲なあたり、恨みの深さを感じるぜ。」
報復とばかりに伊江は聞き覚えの無い英語のタイトルの曲を入れ、竹塚にマイクを渡す。
丹野の言う通り、君が代なら誰もが聞いた事も、なんなら歌った事もあるであろう選曲なのに対し、伊江は間違いなく聞いた事も無いであろう曲を選んできた。
まぁ罰ゲームありきの勝負だから妨害には妨害で返すのも分からなくは無いけど。
「65点か。意外と歌えてて凄いぞ。」
「と言うか、あんな英語の歌詞、よく読めたな。」
「流石は竹塚だぜ。」
「かなり適当でしたけどね。しかし伊江、よくもやってくれましたね。」
「今のセリフ、鏡を見てからもう一度言ってみな。」
「じゃあ次は安達、これを歌ってくれ。」
「え、なんで丹野まで私の曲を勝手に入れてんだよ!?」
「流れ的に、やった方が良いかなって。」
「良くないわ!」
竹塚がどうにか歌いきり、称賛の声を上げていると丹野が私の曲を勝手に入れる。
乗らなくて良いんだよ、そんな流れに。
まぁ私もやるつもりだったけど。
「78点。君が代以下か。」
「君が代以下って言われるとなんかムカつくぞ。」
「日本語の歌詞だから、まだマシだとは思うけどな。」
「と言うか、このままだと知らない曲を歌わされた僕が最下位になるんですけど。」
「安心しろ、竹塚。私が丹野の曲を入れておいたから。」
「安達、お前!なに勝手な事してんだよ!」
「お前に言われたくは無いだろ!」
「この場にいる全員、他人の事は言えない事してるけどな。」
「ちなみに何を入れたんだ?」
「『君が代』。」
「天丼かよ!」
敢えての2度目。
予想を裏切る選曲。
これで丹野も微妙な点数に………
「82点だったぜ。」
「マジか。」
「現状の最高得点じゃん。」
ならなかったよ。
そしてそれは竹塚が一巡目の最下位が確定したことを意味し………
「とにかく!まったく知らない曲を歌わされてこの順位は納得いきかねます!それに最初っからとんでもない物を作らないで下さい!」
そして現在に至る。
「そもそも最初は軽めで最後の勝負でヘビィなやつを用意するのがお約束でしょう!」
「いや、普段は作る側の竹塚を苦しめられるならこれで良いかなって。」
「さっき殴るって言ったけど、これでチャラにしてやるよ。」
「ほら早く飲まないと温くなって余計に飲みづらくなるぜ。」
「くっ、お、覚えていて下さいよ!…………うえぇぇ………。」
私達に追い詰められ、竹塚は嫌々ドリンクを口にする。
口内に流し込んだ瞬間、眉間に皴が作られ、苦しそうなうめき声を出す。
たぶんこれ後で竹塚が作る側になった時、普段の倍くらいとんでもない物を作りそうな気がしてきたぞ。
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