デスゲーム

「これよりデスゲームの開始を宣言します。」

「竹塚?」

「私はゲームマスターのTTです。」

「竹塚?」

「私はゲームマスターのTTです。」


ダメだ。こいつ人の話を聞かない。

何故か教卓の前にはサングラスをかけ、黒いマスクを着けた竹塚がいる。

デスゲームとか言ってるが、どうせまた漫画とかに影響されたんだろうと思うが、


「なんで沙耶までそっち側にいるんだよ。」

「なんだっていいでしょ。」

「食べ物か?食べ物に釣られたのか?」

「……………。」


その沈黙は完全にイエスを意味してるだろ。


「相変わらずの暴食ぶりだな。」

「竹塚、デスゲームって一人くらい見せしめに処刑しても良いと思うんだけど。」

「食べる事は生きる事だから仕方がないよね!」

「入屋、じゃなくて助手。どうせ後でやることになるから今は抑えるのです。」


沙耶が殺気を発するが竹塚が制止する。ナイスだ。でも後でも止めて欲しい。

そんな事を考えていると、同じく竹塚に呼び出された親方が挙手する。


「なぁ、竹塚改めTT。」

「なんですか?」

「この後、家の手伝いがあるから30分くらいしたら帰って良いか?」

「いいですよ。むしろ30分も付き合ってくれてありがとうございます。」

「事情があったら普通に開放してくれるんだな。このデスゲーム。」


伊江もツッコミを入れたが結構優しいぞ、このゲームマスター。

それならそもそもデスゲームにする必要が無いような気もするが。


「ウチもこの後部活あるんよぉ。」

「オレもだぜ。」

「俺もこの後、親方のとこでバイトが入ってるんだよな。」

「湊と丹野、伊江も時間になったら行っていいですよ。親方と同じくご参加ありがとうございます。」


参加者の大半、と言うか私以外の全員が開始して少ししたらいなくなるとか、開催日を見送った方が良いんじゃないだろうか。


「まぁ安達が居るので最後まで続けますけど。」

「私だけなのに!?」


どう足掻いても処刑不可避じゃないか。

と言うか参加者一人のデスゲームってショボいぞ。

あれか、参加者(一名)VSゲームマスター(一名)の対決になるのか。

それもう最終決戦じゃん。最初っからクライマックスじゃん。

凄くフワフワしてるな、このデスゲーム。


「なので皆がそれぞれの予定で離れるまでデスゲームを進めましょう。」

「で、何をやるんだ?」

「今回はこれを使います。」

「トランプ?ババ抜きとか大富豪でもやるのか?デスゲームでやる内容とは思えないけどな。」

「ウチは斬新って思うなぁ。」

「いいえ、今回は…………」


伊江と湊がゲーム内容を予想したが、違ったようだ。

竹塚は間を置いてから発言を続ける。


「インディアンポーカーをしてもらいます。」

「インディアン?」「ポーカー?」

「俺はどっかで聞いた事があるなぁ。ルールはさっぱりだが。」


私と丹野は頭に疑問符を浮かべる。

親方は聞き覚えだけがある感じで、伊江と湊も知らないようだ。


「ではルール説明をしつつ一回やってみましょうか。まずは皆、カードの表面を見ないようにして引いてください。」

「表面って言うと数字とか柄を見ないようにしろって事だよな?」

「はい。そのまま自分の額に掲げて下さい。自分では自分のカードが見えないようにしつつ、他人からは見える状態にするんです。」

「こんな感じかぁ?」

「そうですね。親方みたいな感じです。」


ふむふむ。しかし親方のガタイだと頭に対してカードが小さくてなんだか面白い。

さて、自分のカードは何と書いてあるか分からないが、他のメンバーのカードは何と書いてあるか分かる状態になったぞ。


「その状態で自分と他人のカードに書かれた数字の強弱を競い合います。エースが最弱でキングが最強です。他人のカードの数字を言うのは禁止ですが、一分間話し合って勝負するか、降りるかを決めて下さい。」

「なるほど。つまりは自分の数字は分からないから、相手の数字を見て相手を勝負させたり降りさせたり、他人の発言や反応で自分のカードの数字を予想して勝負するか決めるのか。」

「その通り。高度な頭脳戦となりますが、安達と丹野は頑張って下さい。」

「なんで名指しなんだよ!」

「そうだぜ!オレのディスティニーなドローで圧勝してやる!」


何となくルールは分かったが、竹塚がゲームマスターのくせに公平性に欠ける発言をしてきたぞ。

あと丹野は降りた方が良いと思う。スペードの2ってお前、惨敗確定じゃん。大富豪ならまだ勝機はあっただろうに。


「安達、降りときな。」

「そういう伊江も降りた方が良いんじゃねぇかぁ?」

「梅嶋くん、自信ありげだねぇ。結構良い引きだとは思うけどぉ。」

「そうそう、そんな感じで相手を揺さぶったりして駆け引きを楽しんで下さい。」


私に降りる事を進めた伊江はクローバーの9、結構強いカードだ。

そんな伊江に降りること勧めた親方はスペードの4。

親方のカードを良い引きと偽った湊はハートのジャック。

強い数字の相手には降りるように、弱い数字の相手は勝負するように誘導するのが王道か。

それなら伊江に降りる事を勧められた私は強い数字のはず!


「勝負するぞ!」

「俺は降りとくな。」

「俺は勝負だ。」

「オレも勝負だぜ。」

「ウチも勝負にしとくわぁ。」


そして結果は、


「湊の勝ちですね。」

「やったぁ!」

「私のカード、ダイヤのエースじゃん!騙された!」

「騙してねぇよ。だから降りた方が良いって言ったよな?」


なるほど。こういう駆け引きもあるのか。

伊江め、やってくれたな………!


「ではルール説明も終わったので本番と行きましょうか。」

「あたしも参加して良い?」

「そうですね。僕も入屋も参加して遊びましょう。」





そして本当の戦いが始まったが、楽しい時間はあっという間に過ぎていった。

親方と伊江は帰宅し、丹野と湊は部活に行った。


「流石に三人になっちゃったし、ここでお終いか?」

「ふっふっふ、このデスゲームをよくぞここまで生き延びましたね。」

「そう言えばそんな設定だったな。」

「という訳で入屋、やっちゃって下さい。」


竹塚が合図すると沙耶がどこからともなくバラエティー番組に出てきそうなハリセンを取り出す。


「なんで!?」

「デスゲームのお約束ですので。」


お約束で処刑されるのか。理不尽。

そんな事を思っている間にも沙耶はハリセンを構える。


「えいっ。」

「痛っ………くない?」

「仰々しいのは見た目だけよ。それに悪い事してないのに痛めつけたりはしないわよ。」


スパン!と音が響いた割に全然痛くないので少し驚いたが、慈悲があったようだ。

しかし、




「やっぱりデスゲームである必要性なくない?」

「いやぁ、楽しかったですね!」


私の呟きは満足げな竹塚には届かないのだった。

痛くなかったとは言え、叩かれ損じゃん。

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