紳士
「英国紳士になりたい。」
「今度はどうした。」
「いつもの発作ですね。」
私と伊江、竹塚はいつものように放課後、教室で雑談していた。
そして私は新たなる夢について語り始めるのだ。
「それで安良川先生がさぁ。」
「あはは。」
「私の話を聞くかのような素振りを見せてからスルーするのを止めるんだ。」
そんなフェイントかけないで貰いたい。
一瞬、今回はストレートで話を聞いてもらえるかも知れないと思ってしまったじゃないか。
淡い希望を抱かせるんじゃない。
「それで、今回はどうして英国紳士になりたいなんて思いついたんだ?」
「なんかカッコいいイメージがあるから。」
「伊江、安良川先生の話の続きを。」
「待て!それだけじゃない!それだけじゃないからスルーしないで!」
こいつら容赦なさ過ぎだろ。一瞬で見切りを付けられたぞ。
確かに理由が雑過ぎたかも知れないけど。
「この前読んだ漫画に登場するキャラクターに紳士を感じ、私もこんな男になりたいと思ったんだ。英国が付いた理由はそのキャラクターがイギリス人だから。」
「イギリス人になりたいなら英語力が必須だろうな。普段の安達の成績を考えると来世に期待ってとこか。」
「現世で英語力を伸ばせるって発想が無いのか。それに考えてみろ。今出来ないって事は将来的に出来るようになる可能性があるって事だ。伸びしろの塊だろ。」
「つまりこれからメチャクチャ努力して英語をペラペラと喋ることが出来るようになると?そんなに英語の勉強がしたくてたまらないなら仕方が無いから協力してやるよ。」
「でも英国にこだわる必要はないかも知れないな!」
紳士であればどの国の人間でも良いだろう。
「そうですね。安達が英国の真の姿を知ってしまったら夢が壊れてしまいますからね。」
「え?真の姿?こだわり投げ捨てた瞬間に燃料投下するの止めてくれないか。」
「安達がそこまで言うのなら、歴史のお勉強の時間ですね。じっくり教えてあげますよ。」
「いや、どうやらよく見たら燃料じゃなかったわ。紳士に国籍や歴史知識なんて関係ないよね。」
どうしてこいつらはことごとく私を勉強させようとしてくるんだ。断固として拒否するぞ。
確かに紳士が馬鹿なのは違うと思うけど、そこは頭良さそうな雰囲気を出すことでカバーすれば問題ない。
「とにかく、紳士に必要な要素ってなんだと思う?」
「教養と礼節。」
「思いやりと謙虚な心。」
「なんだ、私は既に紳士だったようだ。」
なりたいと思った時には既に紳士になっていた。
流石私、自分の才能が怖い。
「そうだな。来世に期待だな。」
「なんで現世に期待を寄せてくれないんだよ。一体何が足りないって言うんだ。」
「全部ですね。」
おかしい、こいつらと私では見えている世界が違うのではないだろうか。
もっとよく目を凝らして真実を見極めるんだ。
「全部足りてるだろう。教養は雰囲気でカバーして、礼節だったら敬語が使えるし、思いやりと謙虚な心は言わずもがな。もっと友達の事をよく見るべきだと思うんだ。」
「とてもよく見た結果不足していると言う結論に至ったんですよね。」
「むしろその自信がどこから来るのか不思議で仕方が無いな。」
「やっぱりネガティブに生きるよりポジティブに生きた方が良いんじゃないかと思うし、紳士だってネガティブな紳士よりポジティブな紳士の方がカッコいいじゃん。」
暗くていつもクヨクヨしている紳士より明るく前向きな紳士の方が私の憧れる紳士だから。
「百歩譲ってポジティブなのは良いけど、正しく自己評価は出来ていないですね。紳士ポイントマイナス30点です。」
「なんだ、紳士ポイントって。」
「紳士さを感じた時、もしくは紳士じゃないなと感じた時に加算、減算されるポイントです。このポイントが溜まれば紳士として認めて上げましょう。」
なるほど、確かに曖昧な状態で紳士である、紳士でないを決めるよりも分かり易くて良いじゃないか。
「それで、今の私の紳士ポイントは何ポイントくらいだ?」
「マイナス130ポイントですね。」
「え、待って?初期値マイナスからスタートしてたの?」
流石にそれは理不尽過ぎないだろうか。せめて0からのスタートだろう。
いや、待てよ。
「そうか、分かったぞ。つまり紳士ポイントが0ポイントに到達する事で初級紳士となり、ポイントをためて紳士道を極めていくと言う事だろ?」
「あ、紳士として認められるポイントは10000ポイントです。」
「高過ぎでは?」
「そうだそうだ!」
私の紳士ぶりを認めない伊江でさえも口を挟むレベルだぞ!?
「そこまで言うのであれば、百歩譲って9900ポイントでいいですよ。」
「百歩と言うか100ポイントだよな。これは暗に諦めろって言われてるようにしか聞こえないな。」
「だが断る!壁が高いからと言って挑戦する前から諦めているようでは到底紳士になんてなれやしない!」
「今回は珍しくカッコよさが出てますね。紳士ポイント1000ポイント贈呈しましょう。」
諦めなくて良かった。やはり諦めない姿勢こそが紳士への第一歩だったんだ。
「この調子で精進するのです。気が向いたらポイントを差し上げましょう。」
「気が向いたらかよ。それ絶対忘れるパターンのやつじゃん。」
この気まぐれ男とどうにかしないと紳士までの道は開けそうにない。
仕方が無いのでこれからも勉強以外で頑張ってポイントを稼いでいくとしよう。
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